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残された私がしないといけないのは、この誕生パーティーを取り仕切る事だけだ。
「この度は私の誕生パーティーに来てくださりありがとうございます。ささやかな物ですが、少しでもご満足していただければ幸いです」
一人一人に挨拶をして回ると、痛ましい目を向けてきた。
そういう目を向けたくなる気持ちもよくわかる。
ライザと差をつけられたドレス。
婚約者はライザの瞳の色のブローチをつけて、この婚約が不服だと訴えている。
しかも、ライザと色違いの同じデザインのブローチだ。
二人はお互いの瞳の色の服を身につけていて、どういう関係なのか誰が見てもわかる。
そして、倒れたライザに全員が付き添い当然のように席を外す。
誰の誕生パーティーなのか、その後に婚約発表をする事だって彼らは知っているのに。
彼らのしている事は常識知らずにも程がある。
「アストラ様……」
居た堪れない様子のフレディの両親が私に声をかけて来た。
「デンプシー伯爵、夫人」
「申し訳ありません」
二人は青褪めた顔で私に謝る。
当然だ。この婚約は、向こうにしかメリットのない婚約なのだから。
どうでもいい私を厄介払いするために、レオナルドが取り付けた物だ。
私に選択肢なんてないが、婚約解消になったら向こうも困るはずだ。
「いえ、大丈夫です」
この件で悪いのはフレディ本人で、その両親ではない。
「婚約発表の件なのですが……」
言いにくそうに口を開いたのはデンプシー伯爵だ。
彼らが気掛かりなのは、私に対してではなくて、婚約を正式な物として周囲に発表する事だけだ。
私の気持ちなんてどうでもいいのだ。
「……できません。この状況でできるわけがないですよね。私の両親も当事者のフレディ様もいないのですよ。勝手に私が発表なんてできません」
言いながら、情けなくなる。
彼らは残された私のことなんて、これっぽっちも考えてくれないのだ。
勝手に婚約発表をしたところで、責められることはあっても「一人にして申し訳ない」と謝罪されることはない。
「……でも!」
デンプシー夫人は納得できないと言わんばかりに食ってかかる。
「また、別の機会にした方がいいと思います。今したとして顰蹙を買うだけです。ライザが元気な時に……、わかりますよね」
両親が私よりもライザの方を大切にしている事を夫婦はよく知っている。
夫婦は、一番大切なことは何か気がついたように顔を見合わせた。
「そうね……、ごめんなさい」
二人は謝るなり、これ以上話したくなさそうな顔をして去っていった。
全員に挨拶をし終わる頃には疲労で倒れそうになっていた。
最悪な空気の誕生パーティーを終えて部屋に帰り、誰にも手伝ってもらえず一人でドレスを脱ぐ。
「痛いわけよね」
ドレスには、血が滲んでいた。
幸い色の濃いドレスのおかげで血は目立たなかったけれど。
今まで、自分の誕生日のたびにライザが体調を崩し、祝ってもらうこともケーキどころか食事すら用意してもらえなかったが。
今回はそれ以上だ。
もう、自分の心は決まっていた。
このまま、誰からも愛されず粗末に扱われるくらいなら、別の世界に行ってもいいのではないかと。
その結果、今よりも苦しんだとしても何もしないよりもマシだと思うから。
残された私がしないといけないのは、この誕生パーティーを取り仕切る事だけだ。
「この度は私の誕生パーティーに来てくださりありがとうございます。ささやかな物ですが、少しでもご満足していただければ幸いです」
一人一人に挨拶をして回ると、痛ましい目を向けてきた。
そういう目を向けたくなる気持ちもよくわかる。
ライザと差をつけられたドレス。
婚約者はライザの瞳の色のブローチをつけて、この婚約が不服だと訴えている。
しかも、ライザと色違いの同じデザインのブローチだ。
二人はお互いの瞳の色の服を身につけていて、どういう関係なのか誰が見てもわかる。
そして、倒れたライザに全員が付き添い当然のように席を外す。
誰の誕生パーティーなのか、その後に婚約発表をする事だって彼らは知っているのに。
彼らのしている事は常識知らずにも程がある。
「アストラ様……」
居た堪れない様子のフレディの両親が私に声をかけて来た。
「デンプシー伯爵、夫人」
「申し訳ありません」
二人は青褪めた顔で私に謝る。
当然だ。この婚約は、向こうにしかメリットのない婚約なのだから。
どうでもいい私を厄介払いするために、レオナルドが取り付けた物だ。
私に選択肢なんてないが、婚約解消になったら向こうも困るはずだ。
「いえ、大丈夫です」
この件で悪いのはフレディ本人で、その両親ではない。
「婚約発表の件なのですが……」
言いにくそうに口を開いたのはデンプシー伯爵だ。
彼らが気掛かりなのは、私に対してではなくて、婚約を正式な物として周囲に発表する事だけだ。
私の気持ちなんてどうでもいいのだ。
「……できません。この状況でできるわけがないですよね。私の両親も当事者のフレディ様もいないのですよ。勝手に私が発表なんてできません」
言いながら、情けなくなる。
彼らは残された私のことなんて、これっぽっちも考えてくれないのだ。
勝手に婚約発表をしたところで、責められることはあっても「一人にして申し訳ない」と謝罪されることはない。
「……でも!」
デンプシー夫人は納得できないと言わんばかりに食ってかかる。
「また、別の機会にした方がいいと思います。今したとして顰蹙を買うだけです。ライザが元気な時に……、わかりますよね」
両親が私よりもライザの方を大切にしている事を夫婦はよく知っている。
夫婦は、一番大切なことは何か気がついたように顔を見合わせた。
「そうね……、ごめんなさい」
二人は謝るなり、これ以上話したくなさそうな顔をして去っていった。
全員に挨拶をし終わる頃には疲労で倒れそうになっていた。
最悪な空気の誕生パーティーを終えて部屋に帰り、誰にも手伝ってもらえず一人でドレスを脱ぐ。
「痛いわけよね」
ドレスには、血が滲んでいた。
幸い色の濃いドレスのおかげで血は目立たなかったけれど。
今まで、自分の誕生日のたびにライザが体調を崩し、祝ってもらうこともケーキどころか食事すら用意してもらえなかったが。
今回はそれ以上だ。
もう、自分の心は決まっていた。
このまま、誰からも愛されず粗末に扱われるくらいなら、別の世界に行ってもいいのではないかと。
その結果、今よりも苦しんだとしても何もしないよりもマシだと思うから。
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