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それは、一人の男の気まぐれだった。
この国で二番目に権力を持つ男の一言でそれは決まった。
『そろそろ、ナイジェル・シズリーにも結婚相手が必要だろう。そうだな、この国で一番の美女を妻としよう。化け物と美女の夫婦とは面白いじゃないか。子供は一人いればいいだろう?』
化け物の花嫁になった哀れな女は私の妹だった。
その背景としては、優秀な兄が第二王子の側近になった腹いせもあるだろう。
第一王子は優秀な第二王子を嫌っていた。
それを知らされた時、私の屋敷は悲しみに包まれた。
「ライザの婚約者が決まったわ」
母はそれだけ言うと膝から崩れ落ちて、耐えきれないと言わんばかりに啜り泣きを始めた。
何も言えない母の代わりに口を開いたのは父だ。
「……ライザの婚約者は、ナイジェル・シズリー様だ」
ナイジェル・シズリーは、この国の辺境伯の名前だ。
王家の血を引き、王族の次に高貴な身分でもある。
本来ならシズリー家に嫁ぐということは、とても栄誉でもある。
しかし、シズリー家は、貴族から「化け物」と揶揄される一族でもあった。
シズリー家の悍ましさは、貴族の誰もが知っている。
ライザは、シズリー家の名前を聞くとみるみる顔を青ざめさせて、その場に崩れ落ちた。
「そんな……」
飴細工のような艶やかな金髪を震わせて、アクアマリンの瞳からは大粒の涙を流した。
その姿はまるで巨匠が描いた一枚の絵画のように美しく、人目を惹きつける。
だからこそ、ライザはナイジェル・シズリーの妻に選ばれたのだ。
「ライザ泣かないで、仕方のない事なのよ」
母はライザを抱きしめて、そっとハンカチでその涙を拭った。
「……ナイジェル様は、嬉々として魔獣を殺してその血を啜るんでしょう?野蛮な辺境伯なんて嫌!悍ましいわ……」
ライザは強く拒否する。ナイジェルの噂を考えれ気持ちはよくわかる。しかし、その聞き捨てならない言葉を私は注意した。
「ライザ、やめなさい。彼はこの国のために魔獣を殺しているのよ。ナイジェル様がいなかったらこの国は魔獣の巣窟になっているわ」
そう、どう言われようが彼はこの国のためにその身を危険に晒しながら魔獣を討伐しているのだ。
そんな彼を蔑むことは恥知らずのする事だ。
「でも、恐ろしいことに変わらないわ!」
ライザはしゃくり上げながら、母の胸の中に顔を埋めた。
「アストラ!お前はいつもそうだ。ライザに辛くなる正論ばかりぶつけて、可哀想だとは思わないのか?他人事だからそう言えるのだろう?!」
父は眦を吊り上げて私に怒声を浴びせる。
もしも、私がライザの立場だったら、彼らは果たして同じように接してくれるだろうか……。
そんな事を考えて心の中で苦笑いをする。
両親が一番に愛しているのはライザだ。私ではない。
兄は……、きっと、家族すらどうでもいいと思っているだろうが。
「お前は、なぜそんなに冷たいの?ライザを可哀想だとは思わないの?」
母は私を冷たいと咎めるが、この状況になるのがわかっていて、会いにも来ない兄の方がずっと冷たいのではないだろうか。
兄のレオナルドは、魔力の発現と共に家を出て第二王子の側近をやっている。
あまり会った事もなく遠い存在だ。
それを口にしたところで、両親は「言い訳をするな」と、怒り出すのが目に見えている。
「お父様、お母様、やめてください。甘ったれな私が悪いんです。貴族としての責務ですから、私が彼のところに行きます」
ライザは、私を咎めた両親を止める。
「ライザ……、貴女は最高の娘よ」
見慣れた家族ごっこを見せつけられても、今はもう傷つかない。心はすでに凪いでいる。
昔からそうだった。両親が一番大切なのは、ライザで次に家を継ぐ兄のレオナルド。私はどうでもいい存在だった。
「……」
不意に、ライザを抱きしめる母と目が合った。
それは、「ライザではなくてお前がいけばいいのに」と、言っているようだった。
それは、一人の男の気まぐれだった。
この国で二番目に権力を持つ男の一言でそれは決まった。
『そろそろ、ナイジェル・シズリーにも結婚相手が必要だろう。そうだな、この国で一番の美女を妻としよう。化け物と美女の夫婦とは面白いじゃないか。子供は一人いればいいだろう?』
化け物の花嫁になった哀れな女は私の妹だった。
その背景としては、優秀な兄が第二王子の側近になった腹いせもあるだろう。
第一王子は優秀な第二王子を嫌っていた。
それを知らされた時、私の屋敷は悲しみに包まれた。
「ライザの婚約者が決まったわ」
母はそれだけ言うと膝から崩れ落ちて、耐えきれないと言わんばかりに啜り泣きを始めた。
何も言えない母の代わりに口を開いたのは父だ。
「……ライザの婚約者は、ナイジェル・シズリー様だ」
ナイジェル・シズリーは、この国の辺境伯の名前だ。
王家の血を引き、王族の次に高貴な身分でもある。
本来ならシズリー家に嫁ぐということは、とても栄誉でもある。
しかし、シズリー家は、貴族から「化け物」と揶揄される一族でもあった。
シズリー家の悍ましさは、貴族の誰もが知っている。
ライザは、シズリー家の名前を聞くとみるみる顔を青ざめさせて、その場に崩れ落ちた。
「そんな……」
飴細工のような艶やかな金髪を震わせて、アクアマリンの瞳からは大粒の涙を流した。
その姿はまるで巨匠が描いた一枚の絵画のように美しく、人目を惹きつける。
だからこそ、ライザはナイジェル・シズリーの妻に選ばれたのだ。
「ライザ泣かないで、仕方のない事なのよ」
母はライザを抱きしめて、そっとハンカチでその涙を拭った。
「……ナイジェル様は、嬉々として魔獣を殺してその血を啜るんでしょう?野蛮な辺境伯なんて嫌!悍ましいわ……」
ライザは強く拒否する。ナイジェルの噂を考えれ気持ちはよくわかる。しかし、その聞き捨てならない言葉を私は注意した。
「ライザ、やめなさい。彼はこの国のために魔獣を殺しているのよ。ナイジェル様がいなかったらこの国は魔獣の巣窟になっているわ」
そう、どう言われようが彼はこの国のためにその身を危険に晒しながら魔獣を討伐しているのだ。
そんな彼を蔑むことは恥知らずのする事だ。
「でも、恐ろしいことに変わらないわ!」
ライザはしゃくり上げながら、母の胸の中に顔を埋めた。
「アストラ!お前はいつもそうだ。ライザに辛くなる正論ばかりぶつけて、可哀想だとは思わないのか?他人事だからそう言えるのだろう?!」
父は眦を吊り上げて私に怒声を浴びせる。
もしも、私がライザの立場だったら、彼らは果たして同じように接してくれるだろうか……。
そんな事を考えて心の中で苦笑いをする。
両親が一番に愛しているのはライザだ。私ではない。
兄は……、きっと、家族すらどうでもいいと思っているだろうが。
「お前は、なぜそんなに冷たいの?ライザを可哀想だとは思わないの?」
母は私を冷たいと咎めるが、この状況になるのがわかっていて、会いにも来ない兄の方がずっと冷たいのではないだろうか。
兄のレオナルドは、魔力の発現と共に家を出て第二王子の側近をやっている。
あまり会った事もなく遠い存在だ。
それを口にしたところで、両親は「言い訳をするな」と、怒り出すのが目に見えている。
「お父様、お母様、やめてください。甘ったれな私が悪いんです。貴族としての責務ですから、私が彼のところに行きます」
ライザは、私を咎めた両親を止める。
「ライザ……、貴女は最高の娘よ」
見慣れた家族ごっこを見せつけられても、今はもう傷つかない。心はすでに凪いでいる。
昔からそうだった。両親が一番大切なのは、ライザで次に家を継ぐ兄のレオナルド。私はどうでもいい存在だった。
「……」
不意に、ライザを抱きしめる母と目が合った。
それは、「ライザではなくてお前がいけばいいのに」と、言っているようだった。
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