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真海との誓い
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真海と鳴海が居なくなるまで、その背中を僕はぼんやりと見つめ続けた。
恐らく真海は全てを知っている。なぜかそんな気がする。
「早く帰ろう」
鳴海の顔を見るという目的を果たした僕は帰ろうとした。
「少しいいかしら?」
僕に声をかけたのは鳴海と瓜二つの真海だ。
年齢ゆえにできたシミや皺すら彼女には、円熟した気品のように思えるくらい。内面から出たであろう美しさが僕には眩しかった。
しかし、やはり鳴海とは別人だ。
素直で天真爛漫な鳴海には彼女にはない別の魅力を持ち合わせている。
僕は純粋な彼女だから好きになっていた。
「何か?」
「貴方は全てを知っているんでしょう?村井さんは与一の駒になってしまったことも」
僕はなんて答えればいいのかわからなかった。
だけど……。
「近いうちに貴女は殺されます」
僕は気がつけば口走っていた。わかっていても鳴海が傷付くなんて許せない。
これは最後のチャンスだ。逃げ出せば二人はもしかしたら助かるかもしれないと僕は思っていた。
「わかっているわ。けれど、どうせ逃げたところで無駄よ」
「だけど!」
僕は真海に食って掛かる。やる前からそんなふうに決めてしまうなんてどうかしている。
「いいの」
いや、だけど。僕も真海も与一の事をよく知っている。逃げたところで少しの時間稼ぎにしかならない。
「私はいいの。どうなっても、鳴海と村井さんが生きていてくれれば」
真海からしたら村井を人質に取られているようなものだ。逃げるに逃げられないのか。
鳴海に今のところ危害を加えるつもりは与一にはない。それがきっと彼女はわかっている。
「だけど、鳴海さんを助けたいのなら逃げて」
「出来ないわ。もう、逃げるなんてたくさんよ。私が何をしたっていうの?」
真海は何一つ悪いことなんてしていない。それは、僕も村井も鳴海もそうだ。
「それは」
「お願いがあるの。私は殺されてもいい。だけど、村井さんを助けて」
真海は被害を最小限にするための自分の運命を受け入れている。
自分が死ぬ事は鳴海や村井を助ける最低条件であると彼女は知っているのだ。
「わかった」
僕に出来ることは真海の願いを叶える事。
そして、鳴海は何も知らずに幸せなままでいてもらう。生まれた理由を知られる訳にはいかない。
だけど、ひとつだけどうしても知りたい事があった。
村井の事だ。
「村井さんはなぜ与一の駒になったんですか?貴女の事を大切に思っていたんですよね?」
「わからない。だけど、手紙の彼はもう別人よ。文面は同じなんだけど、どこか違和感あって」
真海は目を伏せてそれ以上は言わなかった。
信じられないが、僕は恐らく村井と同じような方法で与一に乗っ取られるのだろう。
「そうですか」
その方法を探ろうとしても恐らく与一は隠し通すだろう。けれど、時期が近付いたら、きっと僕にそれを教える。
その日までに与一の絶対的な信用を得なくてはならない。
もしも、それが失敗したら不意打ちで僕は僕でなくなるだろう。
「時間がかかってもいつか必ず村井さんを、鳴海さんを助けます」
「ありがとう」
真海は両目に涙を浮かべて微笑んだ。
僕に出来ることは決まっていた。
「僕は行きます」
「さようなら。きっと二度と逢うことはないと思うけど」
結局、真海の言葉の通りになってしまう。
彼女はその数年後に癌で亡くなった。与一の手にかかったのだろう。
僕はそれからまた何年もかけて水面下で鳴海を守るために準備をしていった。
皮肉な事に『偶然見つけた発癌性の薬品』を手に取った麗美達が、僕の母親を殺し、与一を手にかけようとしていた。
薄々気が付いていたが、僕は与一の傀儡と成り果てたふりをしていたのでそれをあえて見逃した。
「鳴海を呼び出そうと思っている。そして、私が大きくした会社を全て壊してやる」
癌に侵され余命宣告を受けた与一の一言で波乱が始まる。僕はそう思った。身体が震えるほどに心が揺すぶられている。恐怖なのか歓喜なのかわからないくらいに。
これで、鳴海と村井を助けられる。
きっと、麗美達を与一は許しはしない。一番の痛手を残して会社を潰すつもりなのだろう。どれだけの犠牲が出るだろう、それすらも、彼はなんとも思っていないようだ。
もしも、これから起こることで僕が失敗をしたらきっと鳴海は与一の手に堕ちるだろう。
それだけは絶対に食い止めたい。
「どうなさるおつもりでしょうか?」
僕は冷静に何の感情も持たないように心がけて与一に問いかけた。
「島を利用する。そこで、奴らに殺しあいでもさせるとしよう。まぁ、何かしら騒ぎでも起きるだろう。あれを使えば……。私はそこで自分の身体を捨てる」
与一はまるで服を着替えるかのように淡々とそう話す。
「やっと新しい真海を手に入れられる。年老いていく真海は、どうしても許せなかった。あれには綺麗で居続けて貰わなくてならない」
与一は鳴海の事を真海のコピーのように言い出す。
そして、身勝手にも年齢を重ねていった真海を『許せない』とまで言い出す。しかし、鳴海だって同じように年齢を重ねていくのだ。
「しかし、彼女も同じように年齢を重ねていきます」
「ああ、わかっている。そうなっても大丈夫なように替わりの『真海』は用意してある」
それは、まるで、何度も『真海』との恋を続けるような物言いで、僕はそれに違和感を覚える。
与一は永遠に同じことを繰り返していくのだろうか?『真海』を取り換えて。何度も何度も。
「そうですか。しかし、僕の身体も同じように年老いていきます」
「わかっている。だから、私の経験や記憶を全て詰め込んだICチップを、お前に埋め込むんだ」
僕は与一の言葉を疑った。理論上それは可能だが、そんな事をしようなんて誰も思いはしないだろう。
繰り返しのコピーしたデータは劣化していく、理想論は無数の犠牲を生み出し、いつか破綻をする。
しかし、死期の近い与一はそれを信じて疑っていないようだ。
「きっとマスコミはこういうだろうな『死期を悟ったサイガフーズ会長の復讐劇』と。ふふふ」
与一は自分が主人公の物語を話すように楽しげだ。
「あの島で生き残るのはお前と真海の二人だけだ。私がモルヒネで安楽死した後にお前はチップを埋め込むんだ。その、準備の手術は近いうちにさせる。この件は絶対に誰にも知られるな」
その言葉から誰も信用しない与一は村井と僕以外の人間に、この話をしていない事を悟る。
「承知しました」
僕は勝ちを確信した。
「本当に麗美達ときたら、自分の欲望に忠実で私が築き上げた物を何から何までたかろうとしている。誰のおかげでこの世に産まれてきたと思っているんだ」
与一は身勝手にも孫達の事を貶め始める。しかし、その血を引き継ぐだけあり彼らは欲深く身勝手に僕は思っていた。
「お前は違う。何の役にも立たないが、弁えている。多くを望まないからな使いやすくていい」
与一は僕に何の感情もないと思っているのか、また、身勝手な事を言い出す。
「僕は与一様の駒ですから何でも言うことも聞きます」
僕は悪魔に心を売るような気持ちで、与一に微笑みかけた。
恐らく真海は全てを知っている。なぜかそんな気がする。
「早く帰ろう」
鳴海の顔を見るという目的を果たした僕は帰ろうとした。
「少しいいかしら?」
僕に声をかけたのは鳴海と瓜二つの真海だ。
年齢ゆえにできたシミや皺すら彼女には、円熟した気品のように思えるくらい。内面から出たであろう美しさが僕には眩しかった。
しかし、やはり鳴海とは別人だ。
素直で天真爛漫な鳴海には彼女にはない別の魅力を持ち合わせている。
僕は純粋な彼女だから好きになっていた。
「何か?」
「貴方は全てを知っているんでしょう?村井さんは与一の駒になってしまったことも」
僕はなんて答えればいいのかわからなかった。
だけど……。
「近いうちに貴女は殺されます」
僕は気がつけば口走っていた。わかっていても鳴海が傷付くなんて許せない。
これは最後のチャンスだ。逃げ出せば二人はもしかしたら助かるかもしれないと僕は思っていた。
「わかっているわ。けれど、どうせ逃げたところで無駄よ」
「だけど!」
僕は真海に食って掛かる。やる前からそんなふうに決めてしまうなんてどうかしている。
「いいの」
いや、だけど。僕も真海も与一の事をよく知っている。逃げたところで少しの時間稼ぎにしかならない。
「私はいいの。どうなっても、鳴海と村井さんが生きていてくれれば」
真海からしたら村井を人質に取られているようなものだ。逃げるに逃げられないのか。
鳴海に今のところ危害を加えるつもりは与一にはない。それがきっと彼女はわかっている。
「だけど、鳴海さんを助けたいのなら逃げて」
「出来ないわ。もう、逃げるなんてたくさんよ。私が何をしたっていうの?」
真海は何一つ悪いことなんてしていない。それは、僕も村井も鳴海もそうだ。
「それは」
「お願いがあるの。私は殺されてもいい。だけど、村井さんを助けて」
真海は被害を最小限にするための自分の運命を受け入れている。
自分が死ぬ事は鳴海や村井を助ける最低条件であると彼女は知っているのだ。
「わかった」
僕に出来ることは真海の願いを叶える事。
そして、鳴海は何も知らずに幸せなままでいてもらう。生まれた理由を知られる訳にはいかない。
だけど、ひとつだけどうしても知りたい事があった。
村井の事だ。
「村井さんはなぜ与一の駒になったんですか?貴女の事を大切に思っていたんですよね?」
「わからない。だけど、手紙の彼はもう別人よ。文面は同じなんだけど、どこか違和感あって」
真海は目を伏せてそれ以上は言わなかった。
信じられないが、僕は恐らく村井と同じような方法で与一に乗っ取られるのだろう。
「そうですか」
その方法を探ろうとしても恐らく与一は隠し通すだろう。けれど、時期が近付いたら、きっと僕にそれを教える。
その日までに与一の絶対的な信用を得なくてはならない。
もしも、それが失敗したら不意打ちで僕は僕でなくなるだろう。
「時間がかかってもいつか必ず村井さんを、鳴海さんを助けます」
「ありがとう」
真海は両目に涙を浮かべて微笑んだ。
僕に出来ることは決まっていた。
「僕は行きます」
「さようなら。きっと二度と逢うことはないと思うけど」
結局、真海の言葉の通りになってしまう。
彼女はその数年後に癌で亡くなった。与一の手にかかったのだろう。
僕はそれからまた何年もかけて水面下で鳴海を守るために準備をしていった。
皮肉な事に『偶然見つけた発癌性の薬品』を手に取った麗美達が、僕の母親を殺し、与一を手にかけようとしていた。
薄々気が付いていたが、僕は与一の傀儡と成り果てたふりをしていたのでそれをあえて見逃した。
「鳴海を呼び出そうと思っている。そして、私が大きくした会社を全て壊してやる」
癌に侵され余命宣告を受けた与一の一言で波乱が始まる。僕はそう思った。身体が震えるほどに心が揺すぶられている。恐怖なのか歓喜なのかわからないくらいに。
これで、鳴海と村井を助けられる。
きっと、麗美達を与一は許しはしない。一番の痛手を残して会社を潰すつもりなのだろう。どれだけの犠牲が出るだろう、それすらも、彼はなんとも思っていないようだ。
もしも、これから起こることで僕が失敗をしたらきっと鳴海は与一の手に堕ちるだろう。
それだけは絶対に食い止めたい。
「どうなさるおつもりでしょうか?」
僕は冷静に何の感情も持たないように心がけて与一に問いかけた。
「島を利用する。そこで、奴らに殺しあいでもさせるとしよう。まぁ、何かしら騒ぎでも起きるだろう。あれを使えば……。私はそこで自分の身体を捨てる」
与一はまるで服を着替えるかのように淡々とそう話す。
「やっと新しい真海を手に入れられる。年老いていく真海は、どうしても許せなかった。あれには綺麗で居続けて貰わなくてならない」
与一は鳴海の事を真海のコピーのように言い出す。
そして、身勝手にも年齢を重ねていった真海を『許せない』とまで言い出す。しかし、鳴海だって同じように年齢を重ねていくのだ。
「しかし、彼女も同じように年齢を重ねていきます」
「ああ、わかっている。そうなっても大丈夫なように替わりの『真海』は用意してある」
それは、まるで、何度も『真海』との恋を続けるような物言いで、僕はそれに違和感を覚える。
与一は永遠に同じことを繰り返していくのだろうか?『真海』を取り換えて。何度も何度も。
「そうですか。しかし、僕の身体も同じように年老いていきます」
「わかっている。だから、私の経験や記憶を全て詰め込んだICチップを、お前に埋め込むんだ」
僕は与一の言葉を疑った。理論上それは可能だが、そんな事をしようなんて誰も思いはしないだろう。
繰り返しのコピーしたデータは劣化していく、理想論は無数の犠牲を生み出し、いつか破綻をする。
しかし、死期の近い与一はそれを信じて疑っていないようだ。
「きっとマスコミはこういうだろうな『死期を悟ったサイガフーズ会長の復讐劇』と。ふふふ」
与一は自分が主人公の物語を話すように楽しげだ。
「あの島で生き残るのはお前と真海の二人だけだ。私がモルヒネで安楽死した後にお前はチップを埋め込むんだ。その、準備の手術は近いうちにさせる。この件は絶対に誰にも知られるな」
その言葉から誰も信用しない与一は村井と僕以外の人間に、この話をしていない事を悟る。
「承知しました」
僕は勝ちを確信した。
「本当に麗美達ときたら、自分の欲望に忠実で私が築き上げた物を何から何までたかろうとしている。誰のおかげでこの世に産まれてきたと思っているんだ」
与一は身勝手にも孫達の事を貶め始める。しかし、その血を引き継ぐだけあり彼らは欲深く身勝手に僕は思っていた。
「お前は違う。何の役にも立たないが、弁えている。多くを望まないからな使いやすくていい」
与一は僕に何の感情もないと思っているのか、また、身勝手な事を言い出す。
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