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あの魔物の件以降、ミラベルは私を外に出すことを嫌がった。
なかなか屋敷から出られない中で、ようやくチャンスな巡ってきた。
ミラベルは、ヘンウッド家と定期的にやりとりをしていて、その際に、金銭などを貰うこともあったので、人と会いやりとりをしていた。
その日は、夜遅くまでミラベルは屋敷にいなかった。

私はいつも、その日は、屋敷から一歩も出ずに過ごしていた。
しかし、こっそりと屋敷の外に出ようと考えていた。
屋敷の中にずっといるのは気分が落ち込む。小さな庭に出てもそれは薄れなかった。

いよいよその日がやってきた。

「お嬢様、行ってまいります。くれぐれも外には出ないように」

「……わかってるわ。気をつけてね」

私は、やましさがあってミラベルの顔を見ることができなかった。
ミラベルの後ろ姿が見えなくなったのを確認すると、私は急いで身支度を始める。

「さあ、行こう」

私はローブを深く被ると屋敷を出た。
いつものように草原に向かい歩き出すと、湿り気を帯びた風が吹き抜けていった。
大きく息を吸い込むと、少しだけ気分が晴れた気がした。
やはり、外と中では空気が違う気がする。
大きく伸びをしていると、背後から声をかけられた。

「おい、お前」

聞き覚えのある声に、私の胸はドキリと高鳴る。
振り返ると湖畔を思わせるような青い双眸が私を見据えていた。
あの時は、甲冑を着ていたのでわからなかったが、蜂蜜のような艶やかな髪の毛をしている。

まるで、絵本で見たような天使のように綺麗だ。

身に付けている物が平民の物なので違和感がある。
もしも、煌びやかな服を着たら高貴な身分だと言われたら、誰もが信じてしまうだろう。
ただ、その場に立っているだけなのに気品がある。 

「どうした?」

「あぁ、村長さんの息子さん!」

見惚れてしまったバツの悪さで、私は思わず大きな声を出してしまう。

「っ、そうだ」

村長さんの息子さんは、驚いた顔をして返事をした。

「その、村長さんの息子さんはやめてもらいないだろうか?」

村長の息子は、困ったような顔をしてそう言ってきたが、私にはなんと呼べばいいのかわからない。

「なんて言えばいいのかしら?」

「……ジョンでいい」

ジョンは明らかに考えるそぶりを見せて、いかにも偽名を名乗った。
こうもわかりやすいとなんだか清々しい。

「わかりました」

私はあえてそれを言わなかった。もし言ってしまえば、二度と話すことはなくなるような気がしたからだ。

「お前の名前は?」

「シビルです」

ジョンに問いかけられて私は考えるまでもなく、自分の名前を名乗った。

「いいのか?本当の名前を言っても、知られたら困ることだってあるんじゃないのか?」

「構いませんよ」

そもそもいない人間として扱われているので、名前を知られたところで困ることなどない。

「そうか」

ジョンはなんとも言えない表情でこちらを見る。
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