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20 ミランダ

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 欲しいものは必ず手に入った。物も人もいつだってそうだった。
 初めてフランツと出会った時の胸の高鳴りを覚えている。
 その美しい顔は、私に相応しいと思っていた。
 けれど、フランツと婚姻したいと両親に話すと「それは無理だ」とはっきりと言われてしまった。
 同じ「こうしゃく」なのに、向こうのほうが立場が上だかららしい。
 しかし、フランツに気に入られれば婚姻することはできると両親から言われた。
 こうも言われた。フランツは次男で家を継げないらしい。しかし、ケネス公爵家にはもう一つ伯爵の爵位があるらしく、それをフランツが継げば平民にならないで済む。と。
 私の家には凡庸な兄がいて、それが家を継ぐので、私が家を継ぐことはできない。
 ずっと腹立たしかった。人並み程度のつまらない兄が私の家を継ぐことが。
 なぜ私が継ぐことができないのか。
 怒りは勉強の原動力になった。
 努力を続けることで私は才女と呼ばれるようになっていた。
 フランツと距離を詰めようとしても、曖昧な微笑みを浮かべて逃げていくだけだ。
 だから、彼に結婚相手を作らせないために沢山の悪い噂を流した。
 近づこうとする女も排除した。

 王立学園に行けば私の優秀さを理解してくれる。そう思っていた。
 それなのに、私はあの女に出鼻を挫かれた。

 王立学園の入園式は、事前の実力テストの最優秀者が新入生代表としてスピーチを読む事になっている。
 自分がスピーチをする物だと思っていたし、当然のように声がかかった。
 打ち合わせをしている時、教師からあることを教えられた。

「実は、貴女が一番じゃないのよ」

「え?」

 私は自分が一番ではない事に戸惑った。
 教師は、「秘密なんだけどね」と前置きして、残酷な事実を私に突きつける。

「エーデルワイス・チェンバースさんが一番だったの」

「だったら、なぜ、私に声がかかったんですか」

「貴女がこの都市に近かったからよ」

 聞くところによると、エーデルワイスは田舎者で、都市からかなり離れているところに住んでいるらしい。
 入園準備で忙しいのに、前倒しして呼び出すのは気の毒だと教師たちは判断したようだ。
 それに、実力テストの結果は、張り出されることはないので誰も知らない。

「……知りませんでした」

「でもね。一番を取るよりも大切な事が沢山あるの。だから気にしないで学園生活を楽しんでね」

 教師はそう言って微笑むが、私はちっともそんな気分にはならなかった。

 私が一番なのに……!許せない!
 
 エーデルワイス・チェンバースがどんな生徒なのか、そちらの方がずっと気になっていた。
 そして、入園式の日、初めて彼女の顔を見た。

 黒い髪の毛と赤い瞳は、この国では珍しくエキゾチックな雰囲気を漂わせていた。気味の悪い見た目を美人だと認識する人もいるかもしれない。
 とにかく気に食わない女と認識した瞬間だった。

 あの女に負けたことが悔しくて、家庭教師を何人も雇い勉強をした。
 その結果、テストの順位は一位だった。
 それなのに、エーデルワイスは悔しそうな顔一つしなかった。

「一度くらいは一位を取りたいな」

 と、のほほんと話しているところを聞いて余計に腹が立った。
 そして、フランツもあの女を気にかけるようになった。

 あの女は、私が築き上げてきた物全てを狙っている。才女としての名声も、最愛のフランツも……。

 許せなかった。

 フランツに話しかけられて、困ったような顔をしているあの女を見て。
 私はどんな手を使ってもあの女を排除しようと思った。

 だから、私はまず最初に、あの女のオマケの男に声をかける事にした。

 リーヌスは子爵の次男らしく、何の取り柄もないつまらない男だった。
 私はエーデルワイスの勉強の邪魔をするようにリーヌスに指示した。
 思わせぶりな態度をとらせてその気にさせて、最悪なタイミングで婚約破棄を突きつければあの女も学園に来なくなるだろう。と、私は思っていた。

 それなのにあの女は、悲しそうな素振りなど見せる様子もなく学園にやってきたのだ。

 どれだけ傷つけてもあの女は、前を向いて学園にやってくる。そして、私からフランツすら奪おうとしてくる。

 リーヌスはエーデルワイスにとって、大切な男だと思っていたが、どうやらそうではないようだ。
 彼を利用して傷つけようとしても、無駄だと気がついた時。利用価値がなくなったと私は思った。

 私は大切な話があるとリーヌスを屋敷へと呼び出した。

「リーヌス、婚約を解消しましょう」

 元々そのつもりだった。
 あの女を排除したらリーヌスとは婚約を解消するつもりだった。
 どうせ、断る事ができないのを私は知っていたから。
 その方法もちゃんと考えてあった。

「ミランダ、何を言っているんだ。そんな事できるはずがないだろ」

 リーヌスは予想通りの反応をする。やり取りが面倒だから即座に行動に移す事にした。

「もう、貴方に利用価値はないの。だからいらない」

「え?」

 戸惑っているリーヌスを横目に見ながら、私はブラウスの胸元を引きちぎった。
 そして、悲鳴をあげる。

「っ、きゃぁぁ!!」

「お嬢様!」

 悲鳴に大慌てでやってきた侍女に、抱きつき私は涙を流した。
 誰よりも可哀想な女に見えるために。

「リーヌスが、突然襲いかかってきて……!私!怖い!」

 本来なら婚約破棄の理由になるが、「大事にしたくない」と、私が情けをかけて婚約は解消する事になった。

 婚約解消の書類にサインするリーヌスを見て、私はとてもいいことを思いついた。
 あの女がフランツに相応しくないと誰もが納得するような理由を作ればいいのだ。

「僕はどうしたら……」

 絶望感に打ちひしがれるリーヌスに、私は甘い言葉を囁く。

「リーヌス、もう貴方にはエーデルしかいないわ。でも、きっと、もう許してはくれないでしょうね。だから、逃げられられないようにするしかないわ」

「……」

 黙り込んだリーヌスを見て、私は微笑む。
 きっと、リーヌスは思い通りに動いてくれるはずだ。
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