10 / 27
10
しおりを挟む
「ああ、なるほど、そういう事か」
放課後、私達は早速図書室で勉強をしていた。
苦手だった分野をフランツに教えられながら、自分はどれだけ的外れな努力をしていたのか気付かされる。
「今まで無闇矢鱈に数式覚えてたんでしょ?」
苦笑い混じりのフランツに、私は同じく苦笑いを返した。
「そう」
「よく覚えられたね」
感心と呆れ半々の反応に、私は恥ずかしくて頬を掻く。
「かなり大変だったわよ」
「家庭教師もつけないであの順位とか、本当に頭が下がるよ。その熱意と努力と根性じゃ、僕は当然勝てないわけだよ」
バカにしている様子はないが、引いているのが少しだけ伺える。
ずっと、意味のない努力をしていたのだと突きつけられたような気分になる。
「意味のない努力って無意味じゃない?」
「そうだね。でも、意味のある努力が二人ならできるじゃないか」
思わず出た卑屈な言葉。フランツは過去は過去で先を見ればいい。とバカにする事はなかった。
少し心が軽くなったような気がした。
「そうね。確かに」
「僕の家って騎士の家系なんだ。兄さんは才能があって僕はなかった。最初はがむしゃらに鍛錬してたけど、ふと、無意味だなって思ってね」
どうやら、フランツも「無駄な努力」を経験をしていたようだ。
「努力の方向性を変えたんだ。僕は兄さんほど強くないけど、兄さんは僕ほど勉強はできない。昔は、強さしか目がいってなかったから、関係もギクシャクしてた。今はね。すごく仲がいいんだ」
「そうなんだ」
努力の方向性を変えたらうまく行ったようだ。
そこまでくるのに、彼はかなり苦労したはずだ。
やはり、フランツは噂とは全然違う。
「勉強ができるって言っても、君ほどじゃないけどね。まあ、僕は万年三位を誇っているよ。成績優秀であることには変わらないでしょう?」
「……確かに」
見方を変えればこんなにも変わるのか、ただ、何となく一位にこだわっていたけれど、もっと、肩の力を抜いても良かったのかもしれない。
勉強のことばかり考えていたから、気がついたら一人になっていた。
それは、良くなかった。
「……君のことをバカにする奴なんて気にしなくていいんだよ。君は十分凄いんだから」
「それができたら簡単なことなんだけど」
リーヌスとミランダの事を言っているのだろうか、わかっていてもそれをするのは難しい。
「何を言われても、がむしゃらに勉強してきたんだからできると思うよ」
フランツは、大丈夫だと言い切る。
「何があったのか知らないけど、今は辛くても、いつか笑い飛ばして、あんな人なんて取るに足らない。と、言える日が来るよ」
今日、勉強に誘ったのは、もしかしたら、励ますためにしてくれたのかもしれない。
フランツは、無意識にしているのだと思うが、無意識の優しさはこんなにも嬉しいものだなんて知らなかった。
放課後、私達は早速図書室で勉強をしていた。
苦手だった分野をフランツに教えられながら、自分はどれだけ的外れな努力をしていたのか気付かされる。
「今まで無闇矢鱈に数式覚えてたんでしょ?」
苦笑い混じりのフランツに、私は同じく苦笑いを返した。
「そう」
「よく覚えられたね」
感心と呆れ半々の反応に、私は恥ずかしくて頬を掻く。
「かなり大変だったわよ」
「家庭教師もつけないであの順位とか、本当に頭が下がるよ。その熱意と努力と根性じゃ、僕は当然勝てないわけだよ」
バカにしている様子はないが、引いているのが少しだけ伺える。
ずっと、意味のない努力をしていたのだと突きつけられたような気分になる。
「意味のない努力って無意味じゃない?」
「そうだね。でも、意味のある努力が二人ならできるじゃないか」
思わず出た卑屈な言葉。フランツは過去は過去で先を見ればいい。とバカにする事はなかった。
少し心が軽くなったような気がした。
「そうね。確かに」
「僕の家って騎士の家系なんだ。兄さんは才能があって僕はなかった。最初はがむしゃらに鍛錬してたけど、ふと、無意味だなって思ってね」
どうやら、フランツも「無駄な努力」を経験をしていたようだ。
「努力の方向性を変えたんだ。僕は兄さんほど強くないけど、兄さんは僕ほど勉強はできない。昔は、強さしか目がいってなかったから、関係もギクシャクしてた。今はね。すごく仲がいいんだ」
「そうなんだ」
努力の方向性を変えたらうまく行ったようだ。
そこまでくるのに、彼はかなり苦労したはずだ。
やはり、フランツは噂とは全然違う。
「勉強ができるって言っても、君ほどじゃないけどね。まあ、僕は万年三位を誇っているよ。成績優秀であることには変わらないでしょう?」
「……確かに」
見方を変えればこんなにも変わるのか、ただ、何となく一位にこだわっていたけれど、もっと、肩の力を抜いても良かったのかもしれない。
勉強のことばかり考えていたから、気がついたら一人になっていた。
それは、良くなかった。
「……君のことをバカにする奴なんて気にしなくていいんだよ。君は十分凄いんだから」
「それができたら簡単なことなんだけど」
リーヌスとミランダの事を言っているのだろうか、わかっていてもそれをするのは難しい。
「何を言われても、がむしゃらに勉強してきたんだからできると思うよ」
フランツは、大丈夫だと言い切る。
「何があったのか知らないけど、今は辛くても、いつか笑い飛ばして、あんな人なんて取るに足らない。と、言える日が来るよ」
今日、勉強に誘ったのは、もしかしたら、励ますためにしてくれたのかもしれない。
フランツは、無意識にしているのだと思うが、無意識の優しさはこんなにも嬉しいものだなんて知らなかった。
35
お気に入りに追加
2,131
あなたにおすすめの小説
花冠の聖女は王子に愛を歌う
星名柚花
恋愛
『この国で一番の歌姫を第二王子の妃として迎える』
国王の宣言により、孤児だった平民のリナリアはチェルミット男爵に引き取られ、地獄のような淑女教育と歌のレッスンを受けた。
しかし、必死の努力も空しく、毒を飲まされて妃選考会に落ちてしまう。
期待外れだったと罵られ、家を追い出されたリナリアは、ウサギに似た魔物アルルと旅を始める。
選考会で親しくなった公爵令嬢エルザを訪ねると、エルザはアルルの耳飾りを見てびっくり仰天。
「それは王家の宝石よ!!」
…え、アルルが王子だなんて聞いてないんですけど?
※他サイトにも投稿しています。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
伝える前に振られてしまった私の恋
メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
完結 俺に捧げる至宝はなんだと聞かれたので「真心です」と答えたら振られました
音爽(ネソウ)
恋愛
欲深で知られる隣国の王子と見合いした王女。
「私の差し上げられる至宝は真心」と答えたら怒って帰国してしまった。
後に、その真心というのは拳大の宝石であると気が付いた王子は……
好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?
【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫
紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。
スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。
そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。
捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。
【完結】愛していないと王子が言った
miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。
「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」
ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。
※合わない場合はそっ閉じお願いします。
※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。
虐げられた令嬢のざまぁ日記
リオール
恋愛
義母と義妹、そして実の父に虐げられてきたリンティア。
やむことない義妹からの虐めにも負けること無く、気丈にも強く生きる彼女は心の内を日記へと吐き出していた。
そんな彼女の何よりの支えは、ある日出会ったバルトという一人の男性。
何処の誰なのか素性が全く分からない彼と恋に落ちたのだ。
けれど無情にも宣告される、王太子との婚約。そして裏切り。
それらを乗り越え、彼女が日記の最後に書き記す言葉とは──
========
全13話
完結しました
※番外編追加
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる