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「ああ、なるほど、そういう事か」

 放課後、私達は早速図書室で勉強をしていた。
 苦手だった分野をフランツに教えられながら、自分はどれだけ的外れな努力をしていたのか気付かされる。

「今まで無闇矢鱈に数式覚えてたんでしょ?」

 苦笑い混じりのフランツに、私は同じく苦笑いを返した。

「そう」

「よく覚えられたね」

 感心と呆れ半々の反応に、私は恥ずかしくて頬を掻く。

「かなり大変だったわよ」

「家庭教師もつけないであの順位とか、本当に頭が下がるよ。その熱意と努力と根性じゃ、僕は当然勝てないわけだよ」

 バカにしている様子はないが、引いているのが少しだけ伺える。
 ずっと、意味のない努力をしていたのだと突きつけられたような気分になる。

「意味のない努力って無意味じゃない?」

「そうだね。でも、意味のある努力が二人ならできるじゃないか」

 思わず出た卑屈な言葉。フランツは過去は過去で先を見ればいい。とバカにする事はなかった。
 少し心が軽くなったような気がした。

「そうね。確かに」

「僕の家って騎士の家系なんだ。兄さんは才能があって僕はなかった。最初はがむしゃらに鍛錬してたけど、ふと、無意味だなって思ってね」

 どうやら、フランツも「無駄な努力」を経験をしていたようだ。

「努力の方向性を変えたんだ。僕は兄さんほど強くないけど、兄さんは僕ほど勉強はできない。昔は、強さしか目がいってなかったから、関係もギクシャクしてた。今はね。すごく仲がいいんだ」

「そうなんだ」

 努力の方向性を変えたらうまく行ったようだ。
 そこまでくるのに、彼はかなり苦労したはずだ。
 やはり、フランツは噂とは全然違う。

「勉強ができるって言っても、君ほどじゃないけどね。まあ、僕は万年三位を誇っているよ。成績優秀であることには変わらないでしょう?」

「……確かに」

 見方を変えればこんなにも変わるのか、ただ、何となく一位にこだわっていたけれど、もっと、肩の力を抜いても良かったのかもしれない。
 勉強のことばかり考えていたから、気がついたら一人になっていた。
 それは、良くなかった。

「……君のことをバカにする奴なんて気にしなくていいんだよ。君は十分凄いんだから」

「それができたら簡単なことなんだけど」

 リーヌスとミランダの事を言っているのだろうか、わかっていてもそれをするのは難しい。

「何を言われても、がむしゃらに勉強してきたんだからできると思うよ」

 フランツは、大丈夫だと言い切る。

「何があったのか知らないけど、今は辛くても、いつか笑い飛ばして、あんな人なんて取るに足らない。と、言える日が来るよ」

 今日、勉強に誘ったのは、もしかしたら、励ますためにしてくれたのかもしれない。
 フランツは、無意識にしているのだと思うが、無意識の優しさはこんなにも嬉しいものだなんて知らなかった。
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