上 下
7 / 27

7

しおりを挟む
「そう」

 リーヌスの本音をようやく聞けたような気がした。
 きっと、私に何も言わなかったのは「どうでもよかった」からなのだろう。
 なんとも思っていないからこそ、こんなに酷いことができるのだ。
 きっと、ミランダに言われるままにこれをしたのだろう。
 ……いや決めつけは良くない。
 リーヌスの事を見抜けなかったのは自分の落ち度だ。
 あるはずない未来を信じて、バカみたいに期待した自分はとても愚かで情けない。
 こんな事になるくらいなら早く聞けばよかったのだ。
 長い間見て見ぬふりなんてせずに……、諦め時を逃したせいで、手酷い裏切りでこんなにも苦しむことなんてなかった。
 
「リーヌス。可哀想だからあまり酷い事を言わないであげて」

 ミランダは勝ち誇ったような顔をしてリーヌスに抱きつく。
 そこは、私がどうしても欲しい場所だったのに、ミランダは当然のようにそこに立っていた。
 羨ましい。悔しい。悲しい。様々な感情が私の中で渦巻いていた。

「……婚約おめでとうございます」

 ようやく出た声は掠れていて、情けない今の自分の心情のようだ。
 早く離れよう。このままだと泣いてしまいそうだ。
 それなのに、ミランダはさらに私が傷つく言葉を吐き出した。

「ありがとう。貴女のお陰で仲良くデートもできたの」

 なぜ、お礼を言われるのかわからなかった。
 
「え?」

 何を言っているのかわからなかった。
 私が二人のデートの役に立ったとはどういう意味なのか。
 意味がわからずにリーヌスを見ると、「ああ」と何かを思い出したように笑った。

「エーデルと行った店は全部下見で、ミランダと後からデートしたんだ。色々と手伝ってくれてありがとう」

 その説明でようやく、リーヌスに励まされていたのではなくて、ミランダとのデートのために自分が利用されていた事に気がつく。

「もしかして、リーヌスとデートしていたと思っていたの?バカね」

「あんたなんかリーヌスに相手にされるわけがないじゃない」と、言わんばかりにミランダは、首をわざとらしく傾けた。

「エーデルのお陰で有意義なデートができたよ。もう、協力しなくていいから」

「バカみたいに勘違いしてた?婚約してもらえると思ってた?そんな事、絶対に有り得ないわ。だから、万年二位なのよ」

 リーヌスの一方的な通告。そして、ミランダは私を侮辱する言葉を残して去っていった。

 残された私はその場に膝から崩れ落ちた。
 私の大切なものはいつのまにか、手のひらから滑り落ちていた。
 いや、そもそも、そんなものなんてなかったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幸せにしてもらわなくても、自分で幸せになります

青い縞猫
恋愛
ラールリード公爵家の令嬢として生まれたブランシュは、さっぱりとした性格でしっかり自分の意見を持った芯の強い女性だった。 その為、婚約者である第3王子ヴァーミリアンに婚約破棄をされてしまう。 もともと、男性に幸せにしてもらおうだなんて、微塵も考えたことのないブランシュは婚約破棄を受け入れ、自分の夢を実現させるべく、行動をはじめるのだった。

【完結】地味令嬢の願いが叶う刻

白雨 音
恋愛
男爵令嬢クラリスは、地味で平凡な娘だ。 幼い頃より、両親から溺愛される、美しい姉ディオールと後継ぎである弟フィリップを羨ましく思っていた。 家族から愛されたい、認められたいと努めるも、都合良く使われるだけで、 いつしか、「家を出て愛する人と家庭を持ちたい」と願うようになっていた。 ある夜、伯爵家のパーティに出席する事が認められたが、意地悪な姉に笑い者にされてしまう。 庭でパーティが終わるのを待つクラリスに、思い掛けず、素敵な出会いがあった。 レオナール=ヴェルレーヌ伯爵子息___一目で恋に落ちるも、分不相応と諦めるしか無かった。 だが、一月後、驚く事に彼の方からクラリスに縁談の打診が来た。 喜ぶクラリスだったが、姉は「自分の方が相応しい」と言い出して…  異世界恋愛:短編(全16話) ※魔法要素無し。  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆ 

義妹ばかりを溺愛して何もかも奪ったので縁を切らせていただきます。今さら寄生なんて許しません!

ユウ
恋愛
10歳の頃から伯爵家の嫁になるべく厳しい花嫁修業を受け。 貴族院を卒業して伯爵夫人になるべく努力をしていたアリアだったが事あるごと実娘と比べられて来た。 実の娘に勝る者はないと、嫌味を言われ。 嫁でありながら使用人のような扱いに苦しみながらも嫁として口答えをすることなく耐えて来たが限界を感じていた最中、義妹が出戻って来た。 そして告げられたのは。 「娘が帰って来るからでていってくれないかしら」 理不尽な言葉を告げられ精神的なショックを受けながらも泣く泣く家を出ることになった。 …はずだったが。 「やった!自由だ!」 夫や舅は申し訳ない顔をしていたけど、正直我儘放題の姑に我儘で自分を見下してくる義妹と縁を切りたかったので同居解消を喜んでいた。 これで解放されると心の中で両手を上げて喜んだのだが… これまで尽くして来た嫁を放り出した姑を世間は良しとせず。 生活費の負担をしていたのは息子夫婦で使用人を雇う事もできず生活が困窮するのだった。 縁を切ったはずが… 「生活費を負担してちょうだい」 「可愛い妹の為でしょ?」 手のひらを返すのだった。

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

救国の大聖女は生まれ変わって【薬剤師】になりました ~聖女の力には限界があるけど、万能薬ならもっとたくさんの人を救えますよね?~

日之影ソラ
恋愛
千年前、大聖女として多くの人々を救った一人の女性がいた。国を蝕む病と一人で戦った彼女は、僅かニ十歳でその生涯を終えてしまう。その原因は、聖女の力を使い過ぎたこと。聖女の力には、使うことで自身の命を削るというリスクがあった。それを知ってからも、彼女は聖女としての使命を果たすべく、人々のために祈り続けた。そして、命が終わる瞬間、彼女は後悔した。もっと多くの人を救えたはずなのに……と。 そんな彼女は、ユリアとして千年後の世界で新たな生を受ける。今度こそ、より多くの人を救いたい。その一心で、彼女は薬剤師になった。万能薬を作ることで、かつて救えなかった人たちの笑顔を守ろうとした。 優しい王子に、元気で真面目な後輩。宮廷での環境にも恵まれ、一歩ずつ万能薬という目標に進んでいく。 しかし、新たな聖女が誕生してしまったことで、彼女の人生は大きく変化する。

「僕は病弱なので面倒な政務は全部やってね」と言う婚約者にビンタくらわした私が聖女です

リオール
恋愛
これは聖女が阿呆な婚約者(王太子)との婚約を解消して、惚れた大魔法使い(見た目若いイケメン…年齢は桁が違う)と結ばれるために奮闘する話。 でも周囲は認めてくれないし、婚約者はどこまでも阿呆だし、好きな人は塩対応だし、婚約者はやっぱり阿呆だし(二度言う) はたして聖女は自身の望みを叶えられるのだろうか? それとも聖女として辛い道を選ぶのか? ※筆者注※ 基本、コメディな雰囲気なので、苦手な方はご注意ください。 (たまにシリアスが入ります) 勢いで書き始めて、駆け足で終わってます(汗

婚約者が隣国の王子殿下に夢中なので潔く身を引いたら病弱王女の婚約者に選ばれました。

ユウ
ファンタジー
辺境伯爵家の次男シオンは八歳の頃から伯爵令嬢のサンドラと婚約していた。 我儘で少し夢見がちのサンドラは隣国の皇太子殿下に憧れていた。 その為事あるごとに… 「ライルハルト様だったらもっと美しいのに」 「どうして貴方はライルハルト様じゃないの」 隣国の皇太子殿下と比べて罵倒した。 そんな中隣国からライルハルトが留学に来たことで関係は悪化した。 そして社交界では二人が恋仲で悲恋だと噂をされ爪はじきに合うシオンは二人を思って身を引き、騎士団を辞めて国を出ようとするが王命により病弱な第二王女殿下の婚約を望まれる。 生まれつき体が弱く他国に嫁ぐこともできないハズレ姫と呼ばれるリディア王女を献身的に支え続ける中王はシオンを婿養子に望む。 一方サンドラは皇太子殿下に近づくも既に婚約者がいる事に気づき、シオンと復縁を望むのだが… HOT一位となりました! 皆様ありがとうございます!

別れた婚約者が「俺のこと、まだ好きなんだろう?」と復縁せまってきて気持ち悪いんですが

リオール
恋愛
婚約破棄して別れたはずなのに、なぜか元婚約者に復縁迫られてるんですけど!? ※ご都合主義展開 ※全7話  

処理中です...