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「フランツさん」

 無視するわけにもいかず、私はフランツの名前を呼んだ。
 フランツは名前を呼ばれると、鈍く瞳を輝かせて笑う。
 いつもそうだが、私はフランツに話しかけられると不安感に苛まれる。

「ちなみに、僕は三位だったよ。万年三位」

 冗談のつもりなのだろうが、「万年二位」の私としては、それを聞かされると心がザワザワする。
 フランツが何を考えているのかわからない。
 なぜ、私に話しかけてくるのか、嫌っているはずなのに、表面上は友好的な態度で接してくるのか。その理由が。

「今度、一緒に勉強しない?」

 色気を撒き散らすような笑みを浮かべて誘われて戸惑う。
 勉強を誘われているようには見えなかった。
 彼が勤勉な人なのはわかるのだが、外見のせいでそう見えない。
 それは、とても気の毒ではあるのだけれど。
 確かに、彼とは得意分野も違うので勉強をしたら捗りそうではあるのだけれど。

 二人きりでいるだけで変な噂を立てられそうだ。

 リーヌスから聞かされる彼の話は酷いもので、あまり関わりたくない。

 しかし、私が表面上から見るフランツの印象はいい。
 断るにしても嫌な断り方はしたくない。

「えっと、その」

 上手な断り文句を考えていると、すぐに反応したのはリーヌスだった。

「お断りします」

 理由もなくかなり一方的な断り方に私の方が慌てた。

「リーヌス!」

 王立学園内では身分は関係ないというけれど、高位貴族相手にあまりにも無礼だ。

「なんで君が勝手に断るの?」

 フランツは、笑顔を崩すことなく不思議そうな顔をしてリーヌスに問いかける。

「婚約者でもないのに、二人きりで会うのは問題だと僕は思いますが」

 もっともらしい理由をリーヌスが口にするが、フランツはこてりと首を傾けて私たちを交互に見た。

「君たちは?」

 確かにフランツの言う通りで、私たちは婚約者でもなんでもないのだが、普段から二人でいることが多い。

「……僕たちは友達なので」

「じゃあ、友達になろうよ」

 フランツは、それなら問題ないね。と言わんばかりに私に手を差し出してきた。
 握れということなのだろうか。

「相手は僕が選びます」

 リーヌスは言うなりその手を払いのけた。

「手酷いな」

 フランツはそれでも怒る様子はなく、私は感心してしまった。
 育ちのいい人はやはり、大らかで心が広いのかもしれない。
 だから、フランツは女性にモテるのだと思った。

「クラス違いますよね」

 まだ冷たいリーヌスの態度に、フランツは「やれやれ」と、言わんばかりに頭を掻いた。

「帰るよ。だけどさ、お互い得意分野があるんだから補い合って、勉強した方が捗ると思うんだけどな」

 フランツも私と同じことを考えていたようだ。
 二人きりで勉強会をするのなら問題はあるが、何人かで集まってやるのなら問題はないはずだ。
 その方法を提案してみようかな。

「エーデル、聞かなくていい」

 私が口を開こうとすると、リーヌスはすぐにそれを遮った。
 フランツは一瞬だけ不愉快そうな顔をして、すぐに取り繕って微笑んだ。

「またね。面白いお知らせができると思うから楽しみにしていてね」

 フランツはそれだけ言うとさっさと教室から出て行った。







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