忘れられた妻

毛蟹葵葉

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マリーが大きくなり、セインは自分の取り巻く環境の変化に嫌でも気がつくことになった。

学生時代に親しかった何人かにマリーとの縁談の打診をするけれど、やんわりと断られる。それがなければ、すぐに婚約者を作り断られるのだ。
そして、マリー宛に縁談の打診があったとしても、エセクター家を乗っ取るという下心が見えた。

何人かやんわりと断った友人にしつこく声をかけたら。

「君が、元妻にした仕打ちを知らないわけがないだろう?大切な息子をそんな家に婿養子に出せるわけがない!もう、金輪際関わらないでくれ!」

「元妻を何度か賊に襲撃をさせたそうだね。いや、証拠がないから違うのかもしれないが、だけどね、とても、怪しいんだよ君のことが信用できないんだ。そんな奴に子供など任せられるはずがないだろう」

「エリーさんとの子供も不貞の末にできた者だろう?不誠実な家の子供にうちの子供をやるつもりはない」

と、散々なじられて縁を切られた。
セインここに来てようやく、自分が他の貴族からどのように思われていたのか理解した。
ローディンの裁判でやった無意味な証言は、種となっていつのまにか芽吹いていた。

セインはマリーの事を考えた。美しく健康に育つ彼女に不幸になることがわかっている結婚などさせたくはなかった。
エリーは、全てチネロのせいだと悲しみに明け暮れて、マリーはなかなか決まらない結婚相手に悲しみを滲ませていた。

そんな、ある日。

セインは大きな病気に罹った。
命を奪うような大きなものではなかったけれど、彼の体力は吸い取られていった。

「セイン。頼むのは癪だけれど、ローディンが診察に来てくれるそうよ」

ローディンは医師として功績を残して、爵位を貰っていた。名医になっていた。
そして、離縁が成立して数年後にチネロと結婚した。

「そうか、アイツが」

セインはローディンを信用できなかった。間接的にとはいえ、チネロに酷い事をした事には変わらないのだから。
誤診でもされて殺されてしまってはたまったものではなかった。
しかし、これは利用できると、セインは思った。

結局、離縁が成立して数年後にチネロとローディンは結婚したのだ。
和解して旧友を温めるという形でローディンと交流を持って、マリーのいい結婚相手を見つけて貰おうと考えた。

「久しぶりだな。ローディン」

セインが昔のように親しげに声をかけても、ローディンは他人行儀な微笑を浮かべるだけだった。

「お久しぶりですね。診察をします」

ローディンは慣れた手つきでセインの身体に触れながら診察をした。
しばらく考えるような素振りを見せて、質問をいくつかして診察を終えた。
処方箋を書き始めたローディンに、セインは恐る恐る声をかけた。

「どうなんだ?」

「滋養のある物を食べてちゃんと静養してください。体力はかなり落ちているので無理をすると命に関わります。この病気の恐ろしいところは完治しない上にじわじわと体力を奪っていく事です」

ローディンの淡々とした診断結果に、セインは自分の体感した事そのままを言い当てられていたような気分になった。

「領地経営も、今は可能でしょうが、年齢を重ねるごとに辛くなると思います。引退は早い方がよろしいかと」

「本当なのか?お前の言葉は信じられない」

結局、セインはローディンの診断結果が事実だとわかっていながら、それをどこかで信じるのを拒んでいた。
セインにローディンが恨みを持っているから、信用に値しなかった。離れた月日は、お互いに不信感を持つようになってしまった。
だからこそ、和解してしまえばいい。幸い、ローディンもそのつもりでここに来ているのだから。
そう思って和解の言葉を口にしようとした。

「今日、本当は来たくなかったんです」

その言葉はセインの期待を裏切るものだった。

「なんだと」

「しかし、僕は医者です。チネロの説得もあって来ました」

けれど、チネロの説得という言葉に、セインはまだチャンスがあると思った。
チネロはきっと、仲直りさせるためにここに行くようにローディンを説得したのだろう。
それなら、ローディンはセインの頼みを聞いてくれる筈だ。

「チネロが……。頼みたいことがあるんだ」

「断ります」
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