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「わぁ……」
チネロは久しぶりに見た海に瞳を輝かせた。
太陽に照らされたアイスブルーの海。星粒のように輝く砂浜。
旅行は始まったばかりで、これから先の事を考えるだけでチネロは楽しかった。
少しだけ気がかりな事はあるけれど、その件で前に出てくれたのはローディンだった。
「綺麗ですね」
ローディンは楽しそうに笑うチネロに微笑んだ。
連れてきて良かった。
屋敷に居た時のチネロの笑みも素晴らしい物だったが、開放的な場所で見せる屈託のない笑みはまた格別だ。
チネロとの距離が近くなればなるほど、目まぐるしく変わる表情の一つ一つが、ローディンの心を掻き乱すようになっていた。
ローディンは、自分の湧き上がる気持ちに戸惑っていた。
「ローディンさん。本当にありがとう」
チネロの心からの感謝の言葉にローディンは、自分にはそんな価値などない人間なのに。と、思い表情を曇らせる。
「ローディンさんは、なんで、いつも私に親切なの?」
チネロは出会った時よりも、幾分か気安く声をかけられるようになった。気がする。
ローディンはそれがとても嬉しくて怖かった。
自分のしでかした事を彼女が知ったらどんな反応をするのか、考えるだけで怖かった。
チネロに親切にするのは当然の事だ。しかし、それすら罪滅ぼしにすらなっていない。
ただ、何も考えずに口にした言葉が彼女の人生を狂わせて、大切な人を苦しめる結果になってしまった。
「したい事をしただけです」
悔やんだ所で、彼女が苦しんだ月日は戻らない。
謝罪をしたところで自分の気が楽になるだけだ。謝罪をを口にして自分だけ楽になろうとローディンは思ってはいなかった。
「したい事をしただけです」
そう言ったローディンの表情はとても痛ましく、チネロは胸が痛んだ。
ローディンは嘘をつかない。だからこそ、余計な事は言わない。
チネロはローディンが何か隠していることに気がついていた。それが、彼の心に影を落としている事にも。
チネロに過保護なまでに手を貸すのは、強い責任感からくるものだと察していた。
チネロはローディンに救われた。しかし、ローディンを救えるのは自分にはできない思っていた。
ローディンを救えるのは自分自身しかいない。
「ローディンさんは、優しいですね」
だから、チネロは気が付かないフリをする。
ローディンは、きっとチネロへの罪悪感を持って生きていく事を選んだ。彼が望んでいる事を止めるつもりはない。
「そんな事ないです。だけど」
続きの言葉を言おうとしてためらうローディンに、チネロは首を傾ける。
「旅行が終わっても逢いに行ってもいいですか?」
旅行も始まったばかりなのに、もう、先の話をするなんて……。
誠実な距離の詰め方に、チネロは、おかしくなって声を出して笑った。
「ふふふ。もちろんです。いつでも逢いにきてください。待っていますから」
チネロは久しぶりに見た海に瞳を輝かせた。
太陽に照らされたアイスブルーの海。星粒のように輝く砂浜。
旅行は始まったばかりで、これから先の事を考えるだけでチネロは楽しかった。
少しだけ気がかりな事はあるけれど、その件で前に出てくれたのはローディンだった。
「綺麗ですね」
ローディンは楽しそうに笑うチネロに微笑んだ。
連れてきて良かった。
屋敷に居た時のチネロの笑みも素晴らしい物だったが、開放的な場所で見せる屈託のない笑みはまた格別だ。
チネロとの距離が近くなればなるほど、目まぐるしく変わる表情の一つ一つが、ローディンの心を掻き乱すようになっていた。
ローディンは、自分の湧き上がる気持ちに戸惑っていた。
「ローディンさん。本当にありがとう」
チネロの心からの感謝の言葉にローディンは、自分にはそんな価値などない人間なのに。と、思い表情を曇らせる。
「ローディンさんは、なんで、いつも私に親切なの?」
チネロは出会った時よりも、幾分か気安く声をかけられるようになった。気がする。
ローディンはそれがとても嬉しくて怖かった。
自分のしでかした事を彼女が知ったらどんな反応をするのか、考えるだけで怖かった。
チネロに親切にするのは当然の事だ。しかし、それすら罪滅ぼしにすらなっていない。
ただ、何も考えずに口にした言葉が彼女の人生を狂わせて、大切な人を苦しめる結果になってしまった。
「したい事をしただけです」
悔やんだ所で、彼女が苦しんだ月日は戻らない。
謝罪をしたところで自分の気が楽になるだけだ。謝罪をを口にして自分だけ楽になろうとローディンは思ってはいなかった。
「したい事をしただけです」
そう言ったローディンの表情はとても痛ましく、チネロは胸が痛んだ。
ローディンは嘘をつかない。だからこそ、余計な事は言わない。
チネロはローディンが何か隠していることに気がついていた。それが、彼の心に影を落としている事にも。
チネロに過保護なまでに手を貸すのは、強い責任感からくるものだと察していた。
チネロはローディンに救われた。しかし、ローディンを救えるのは自分にはできない思っていた。
ローディンを救えるのは自分自身しかいない。
「ローディンさんは、優しいですね」
だから、チネロは気が付かないフリをする。
ローディンは、きっとチネロへの罪悪感を持って生きていく事を選んだ。彼が望んでいる事を止めるつもりはない。
「そんな事ないです。だけど」
続きの言葉を言おうとしてためらうローディンに、チネロは首を傾ける。
「旅行が終わっても逢いに行ってもいいですか?」
旅行も始まったばかりなのに、もう、先の話をするなんて……。
誠実な距離の詰め方に、チネロは、おかしくなって声を出して笑った。
「ふふふ。もちろんです。いつでも逢いにきてください。待っていますから」
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