MEAL GAME -ミール ゲーム-

双瀬桔梗

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第二章 ゲリラゲーム

第13話 少女の行方

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「そういえばさ、一年生のあくつさんもZ組だよね?  彼女、自分で『関係者の身内』って言ってたし」
 めぐるは第一ゲームで助けてくれたシャボン玉の少女、あくつおとの言葉を思い出し、こう寿じゅに問いかける。

 ――乙和、関係者の身内って言っちゃったのか……。言った相手が旋君で良かった。全く、あの子は……。

 煌寿は内心、ヒヤリとしながら乙和の心配をする。その心の声を、フローガは微笑ましそうに読み取るが、口には出さず、「そうだよ」とだけ答えた。

「それで……君はどうして乙和の事を知っているのかな?」
「第一ゲームで助けてもらったんだ」
「乙和が赤の他人の君を……?」
「そんなに珍しいことなのか?」
 怪訝けげんそうな煌寿の言葉に、旋はキョトンとした顔をする。

「……乙和は見知らぬ誰かを理由もなく助けたりしない。彼女にとっての“大切な人”以外に、興味がないからね」
「理由……あぁ、そういえば、『どうして、お友達でもない子を助けたの?』って聞かれたな。それを聞きたくて助けてくれたのかも」
「なるほどね……それで? 乙和がどうかしたのかな?」
 なんとなく煌寿から妙な圧を感じ、旋は若干たじろぎつつも口を開く。

「その、ゲリラゲームが始まってからも全然、圷さんの姿を見てないから気になってさ。テンシが放たれていないエリアにいるんならいいんだけど……」
「あぁ、乙和はとても自由な子だからね。まだ学生寮で眠っているか、別のエリアにいるかのどちらかだと思う。なんにしても、乙和が契約したの能力は強力で、彼女ならそれを使いこなせているだろうから大丈夫だよ」
「子達? たくさんの相手と契約することもできるのか?」
「あぁ、乙和の体内のエネルギーは膨大だからね。君と僕もだけど、そういう子は強い種族や複数の相手と契約できるんだ。ちなみに乙和の相棒は“妖精ヨウセイ族の三姉妹”だよ」
「へ~そうだったのか」
 まるで、旋のその言葉を合図にしたかのように、中等部エリアの方から連続で爆発音が聞こえてくる。

「これってまさか……圷さん?」
「恐らく、そうだろうね……」
「でもなんで中等部に……? 誰かに会いに行ってたとか?」
「いや、それはないと思う。ただ……高等部ここにいたくなかっただけだろうね」
「へ……どうして?」
「どうしてだろう?」
 そう言った煌寿の表情は当然、仮面で見えない。けれども旋はなんとなく、煌寿が悲しい顔をしているような気がした。

「まぁでも丁度、良かったかもね。中等部に“戦う気のある”乙和が加わった事で、戦力の均等が取れた」
「どういうこと?」
「高等部は君達と僕ら。更にB~D組の生徒も多い。大学にはがいる。中等部にはがいるけど、今はE組とF組の生徒が圧倒的に多いから少し心配だったんだ。だけど、乙和が中等部で戦ってくれるなら、高等部と大学との戦力差も、心配する必要もなくなったよ」

 煌寿の説明を受け、旋は頭の中で大まかな戦力図を思い浮かべ、感心する。けれども、心のどこかで、リツに対する心配が完全には拭えない。それを無理にかき消すように、「それにしても……」と話を振る。

「大学生って人数は少ないけど、強者揃いなんだな」
「いや、人間ヒト族だけで言ったら、まともに戦えるのは彼一人だけだよ。僕の言った“彼ら”は、相棒達も含まれている。彼は学園一の古株で、戦闘経験も豊富だ。更に相棒達も当然、強い。なんせ彼の相棒は“アク族”と……だからね」
「へ……? テンシ……?」
「ふふっ……会ってみれば分かるよ。その内、何か理由をつけて、向こうから君に会いにきてくれると思うからさ」
 困惑する旋を他所に、煌寿は更に混乱させるような事を言う。

 旋の相棒レイは無言で煌寿を睨みつけ、『口を慎め』と言いたげな顔で圧をかけている。怖い表情のレイにどれだけ睨まれても、煌寿は「ふふっ……」と笑うだけだった。





 ――時はさかのぼり……ゲリラゲーム開始、約十分前。大学エリア内、グラウンド。

「む……来るのだ」
 ワインレッドのモフモフの毛に覆われた二頭身のアクマが、つぶらな瞳で空を見上げてそう言った。二本の黒い角と垂れた耳、小さな手足と背中に生えた白い翼……そんな可愛らしい見た目に反して、声はずっしりとした低音だ。

「うむ! やつらが来るぞォ」
 黒薔薇に似た翼が生えているイソギンチャクのようなは、アクマと同じ方角を見て、触手をバタバタさせる。

「まじか~。あ~……どうしよっかなぁ、この子」
 アクマを抱きかかえ、テンシを肩に乗せた男子大学生は困ったような顔で、巨大な白いシャボン玉を覗き込む。その中には、スヤスヤと気持ちよさそうに眠る乙和がいる。
 大学生は何度も乙和に声をかけるが、彼女は全く目を覚まさない。

 仕方なく大学生は乙和の相棒達、ヨウセイ族のハポンバル三姉妹を呼ぶ。すると、チェリーピンク、サーモンピンク、ベビーピンクそれぞれ違う色の光を纏った、掌に乗るサイズの少女達が姿を現す。ハポンバル三姉妹はキャッキャと大学生達の周りを飛び回り、あまり話を聞く気はなさそうだ。

「もうすぐゲリラゲームが始まるみたいだから、休息エリアに連れてってあげて。キミらの相棒ちゃんを。ねぇ、聞いてる? 三姉妹ちゃん、キミらに言ってるんだけど……」

 ハポンバル三姉妹は飛び回るのを止めて、大学生の前に並ぶと、彼の言葉にニッコリとうなずいた。そして乙和が入ったシャボン玉を、テンシが絶対に入れない休息エリアの方へと導く。それを確認した大学生は、ゲリラゲームが始まる前に、戦闘向きでない学生にも休息エリアに戻るよう声をかけに行った。

 一方、ハポンバル三姉妹は途中でシャボン玉の進行方向を変え、乙和を中等部へと運ぶ。彼女らは“スリリングな戦いを観戦する”のが大好きで、その趣味のためなら平気で契約相手を危険に晒す。

 故に今回も一番、戦力が不足しているエリアと分かっていながら、目的地を中等部に変更した――。
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