MEAL GAME -ミール ゲーム-

双瀬桔梗

文字の大きさ
上 下
1 / 50
第一章 恐怖のテンシ

第1話 GAME START

しおりを挟む
『GAME OVER』

 無慈悲な機械音声に続いて、ゲーム終了のアナウンスが流れる。
必ず、喰べてあげる。だからまた遊ぼうね」
 暗闇の中、地面に倒れ込んでいる少年が、意識を手放す前に聞いたのは――さまざまな動植物が混ざり合った、怪物テンシの言葉だった。





 第1話『GAME START』


 どこか懐かしい街並み、一度は憧れる宇宙、落ち着く大自然、個性的な形のビルが建ち並ぶ世界。他にもさまざまな光景が、ギュッと小さくなって、そこには広がっている。
 ガラスケースの中には刀や銃、斧、大鎌など可愛らしいサイズの武器類が並ぶ。
 それらをじっと見つめる、黒髪の少年が一人。

めぐるにぃ~そろそろお迎えが来るっすよ~」

 自作の小規模ジオラマや武器のフィギュアを眺め、空想にふけっていたおとなしめぐるは妹に名前を呼ばれ、現実に引き戻される。

「はーい! すぐ行く!」

 旋は急いで制服のワイシャツの上に緑色のパーカーを羽織り、リュックを背負う。そしてもう一度だけ、ジオラマ達の方を見てふと、部屋の奥にある幻想的な世界観のジオラマが目に入り、首を傾げた。

 自然に囲まれたジオラマの中には、二つの建物の模型がある。一つは外壁の色がアリスブルーの、オシャレでシックな西洋風の城。その隣りには、ミドリを基調とした神殿の模型が配置されている。

 そのジオラマに近づき、大きく開いた城の扉から中を覗けば、背もたれと座面部分がめっ色の、玉座のミニチュアがポツンとあった。神殿の柱の隙間からも、同じような玉座が見え、こちらの色はフォレストグリーンだ。

 今まであまり気にしていなかったが、このジオラマを作ったのはいつだったかと、不意にそんな疑問が旋の頭の中に浮かんだ。気になって、懸命に記憶を辿るが、一向に思い出せない。

 ――あ! 今はこんな事、考えてる場合じゃなかった……。

 そう我に返った旋はキャリーバックを持ち上げ、名残惜しそうな顔でジオラマ達にしばしの別れを告げると、自室を出た。

「ごめん! お待たせ」

 階段を降りてすぐそこにある玄関で、白スカーフの黒セーラー服を着た、ボブヘアのリツがスニーカーを履いて待っていた。彼女の傍らには旋のものより大きなキャリーバックがあり、肩には黒いギターケースを担いでいる。ちなみに、その両方に貼られているのは、苺を被ったマイクのステッカーだ。

 リツは「も~遅いっすよ~」と言いながらも怒ってはいない。それどころか、ようやく一階に降りてきた旋の顔を見ると、うれしそうに微笑んだ。





 迎えの車に乗り込み、どこか寂しげな表情の両親に見送られた旋とリツは少々、緊張した面持ちで座席に座っている。
 二人がこれから向かうのは、中高大一貫の名門校『こうりゃく学園』がある人工島、“てん島”だ。皇掠学園は年に二回、の才能に秀でた学生を、全国から百人前後スカウトしているらしい。学園を卒業は皆、大成しており、将来を保証されている。ゆえに、全寮制で滅多に帰省できない条件付きであっても、スカウトを断る者はいない。

 旋とリツは去年の秋頃、皇掠学園にスカウトされたため、それぞれ高校三年生と中学三年生になるこの年に、転入する事となった。まさか、自分達がスカウトされるとは夢にも思っていなかった旋とリツは、いまだに実感がわかず、車中でそわそわしていた。しかし、そんな互いの姿を見て、何だかおかしくなり、笑い合っている内に緊張がほぐれ、いつも通りそれぞれの趣味の話に花が咲く。





 船乗り場に到着すると、そこにはスカウトを受けた他の学生も徐々に集まってきていた。制服を着ている中高生が圧倒的に多く、大学生は数人程だ。

 ほどなくして大型船に乗り継ぎ、顛至島へ向かう。
 島に上陸すれば、転入生全員が指示通りに荷物を体育館に置いてから、統一感のないさまざまな建物に囲まれた広場へ、足を運んだ。旋達の視線の先には時計塔があり、全員が広場に揃ったタイミングで針が丁度、昼の十二時を指した。

 妙に不気味で、大きな鐘の音が鳴る。同時に時計塔の後ろからが姿を現す。たくさんの棘に覆われた、五メートルは超えている真っ赤な体に、翼のように生えている彼岸花に似た無数の羽。そのは、翼を羽ばたかせながら、地面に着地する。

 リツと一緒に後方にいた旋は、視線の先にいる生命体がなんなのか分からず、ただ呆然と立ち尽くしていた。

「キョフキョフ……オ前ラハ、今カラ、我々、テンシ様ノ餌ダ」

 を自称した生命体は、ガラガラ声の片言で、そんな事を言い出す。テンシに恐怖を感じ、身動きが取れない者。大掛かりなレクリエーションでも始まったのかと、ざわつく者。冷やかしをいれる者など、転入生達の反応は様々だ。

 旋は無意識の内に、リツの手を取っていた。いつでもリツを連れて、この場から離れられるようにと。
 テンシは危険だと、本能が訴えてきたからだ。

「旋にぃ……」
「大丈夫。にぃちゃんがついてるから」
 不安そうに見上げてくるリツに、旋は無理やり笑って見せた。

「餌共ニ、コノ俺様ガ、今カラ第一ゲームノ、ルールヲ説明シテヤル。ノ一。ノ、“建物エリア”内ヲ探索シ、鍵ト箱ヲ見ツケ出セ。其ノ二。箱ノ中ニ居ル、契約相手ト、手ヲ組メ。其ノ三。制限時間ハ、時計ノ針ガ、一時ヲ指スマデ。其ノ四。ゲーム終了時ニ、契約相手ト、手ヲ組メナカッタ餌ハ、即座ニ喰ウ。コンナ風ニナ――」

 何やら説明を始めたテンシは途中で話を止めて、棘を一本伸ばした。その瞬間、嫌な予感がした旋は、反射的に大声で「逃げてくれ!」と叫んだ。
 その叫びも虚しく、伸びた棘は前方にいた人の腹部を刺した。
 棘だらけのテンシの体が、半分に開く。中には大きなハサミが二つと、鳥のような顔があった。

 ――これ以上は、リツに見せてはいけない。

 そう思った旋は反射的にリツを正面から抱きしめ、視界と耳を塞ぐ。その刹那、テンシのクチバシから炎が放たれ、断末魔が響いた。テンシは愉快そうに、焼いた人をハサミで切りながらクチャクチャ、バリボリとしゃくする。
「尚、ゲーム中、追ッテ来ル、俺様ノニ、捕マッタ餌モ、同ジ様ニ喰ワレルゾ。マァ、精々、必死デ逃ゲルンダナ」
 その言葉を合図に周辺の建物の影から、同じ見た目のが複数体、姿を現した。

 一連の流れを目の当たりにした人達は当然、一斉に騒ぎ出す。だが、「黙ラナイト、喰ッチマウゾオォ!」と言うテンシの怒鳴り声に皆、恐怖で凍りつく。
「キョフキョフ……俺様達ハ、慈悲深イカラナ。十四分ダケ、ココカラ動カズ、待ッテテヤル。デハ、ゲーム、スタートオォォ!」
 テンシの合図と同時に、その場にいた人達がわらわらと一斉に動き出す。
 喧騒の中、旋はリツと逸れないように彼女の手をぎゅっと握りなおし、流れに逆らい斜め前の建物に向かって走り出す。

 ――とにかく、リツを逃がさなければ……何があっても、リツだけは絶対に守る。例え、ジブンがどうなろうとも。

 リツの手の温もりに、旋はそう強く決心した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

わたしの百物語

薊野ざわり
ホラー
「わたし」は、老人ホームにいる祖母から、不思議な話を聞き出して、録音することに熱中していた。  それだけでは足りずに、ツテをたどって知り合った人たちから、話を集めるまでになった。  不思議な話、気持ち悪い話、嫌な話。どこか置き場所に困るようなお話たち。  これは、そんなわたしが集めた、コレクションの一部である。 ※よそサイトの企画向けに執筆しました。タイトルのまま、百物語です。ホラー度・残酷度は低め。お気に入りのお話を見付けていただけたら嬉しいです。 小説家になろうにも掲載しています。

JOLENEジョリーン・鬼屋は人を許さない 『こわい』です。気を緩めると巻き込まれます。

尾駮アスマ(オブチアスマ おぶちあすま)
ホラー
ホラー・ミステリー+ファンタジー作品です。残酷描写ありです。苦手な方は御注意ください。 完全フィクション作品です。 実在する個人・団体等とは一切関係ありません。 あらすじ 趣味で怪談を集めていた主人公は、ある取材で怪しい物件での出来事を知る。 そして、その建物について探り始める。 怪異と共にその物件は関係者を追ってくる。 物件は周囲の人間たちを巻き込み始め 街を揺らし、やがて大きな事件に発展していく・・・ 事態を解決すべく「祭師」の一族が怨霊悪魔と対決することになる。 読みやすいように、わざと行間を開けて執筆しています。 もしよければお気に入り登録・投票・感想など、よろしくお願いいたします。 大変励みになります。 ありがとうございます。

心霊探偵同好会

双瀬桔梗
ミステリー
中高一貫校で、同じ敷地内に中学と高校、両方の校舎がある遠駆(とおかる)学園には『心霊探偵』という不思議な同好会があるらしい。 メンバーは幽霊を信じない派の柊 悠(ひいらぎ ゆう)と、信じる派(割とオカルト好き)の宇津木 怜斗伊(うつぎ さとい)の二人。 彼らは現在、使われていない旧校舎の一室を拠点とし、時々、舞い込んでくるさまざまな依頼を引き受けている。 ※カクヨムにも公開しています。 ※ひとまずシリーズもの(短編連作)として、二つのエピソードを投稿しました(いつか設定を少し変えたものを、中編または長編として執筆したいなと思っております)。 ※表紙の画像は「いらすとや」様からお借りしています。 【リンク:https://www.irasutoya.com/?m=1】

意味がわかるとえろい話

山本みんみ
ホラー
意味が分かれば下ネタに感じるかもしれない話です(意味深)

禁忌

habatake
ホラー
神社で掃除をしていた神主が、学校帰りの少年に不思議な出来事を語る

カーネーション

坂田火魯志
ホラー
 漫画家水守青蔵の部屋のベランダに赤いカーネーションが落ちていた。それは確か都市伝説の。都市伝説ものです。

【完結】さらしあい~JSが堕ちたSNS地獄

歌川ピロシキ
ホラー
「誰よ!?こんなひどいことするのは!?」  須藤星空(すてら)は絶望した。  ある日を境にSNSに溢れはじめた見るに堪えない罵詈雑言の数々。  至るところで個人情報が晒され、いくら削除依頼を出してもきりがない。  溢れた悪意は興味本位の傍観者たちに煽られどこまでもエスカレートしていく。  そして幼い魂がたどり着いた結末とは? ※徹頭徹尾胸糞悪いです。ドロドロした人間の醜さを見たい方向け。絶対にスカっとしません。 ※不適切な人間関係をにおわせる描写がありますが、反社会的もしくは不健全な人間関係を推奨するものではありません。 ※執拗なイジメの描写があります。イジメっ子や傍観者視点は終始胸糞思考です。苦手な方はご自衛ください。 ※ラストを見ると他の拙作に繋がっているのがわかるかもしれません

処理中です...