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第一部 ご飯パトロン編

52. 初デートはスーパーへ

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「初彼氏 デート」
「初デート 誘い方」
「初デート どこに行く」

 最近、柘植野の検索履歴はこんなワードばかりだ。

 柘植野にはずっと恋人がいなかったから、恋愛のやり方を忘れた。
 今までの交際が健全だったとも言いにくい。

 健全で誠実なお付き合いだと思ってもらうには、どうしたらいいんだろう!?

 ウブで照れ屋な恋人を思い出して、柘植野は愛しくなる。
 さりげなく聞き出したところによると、柴田は誰かと付き合うのは初めて。ファーストキスもまだらしい。

 大事にしたい。お付き合いが怖いことだなんて、ひとかけらも思ってほしくない。

 キスも、その先のことも、したいならすればいいし、したくないならしなくていい。「したいです」と言ってくれるのを待とうと思う。
 まっすぐな人だから、そういう気持ちが湧いてきたらきっと伝えてくれる。急かすことではない。

 本当は、こんな綺麗事きれいごとを言いながら、毎日悶々もんもんとして自慰じいをしている柘植野であるが、恋人の前ではカッコつけたいのだ。

 お付き合いしたら、まずはデートに行くんだと思う。だが、柴田は何かと忙しい。
 今大学は夏休みだが、その分アルバイトを増やして、昼からシフトに入っている。
 さらに、秋の学園祭でピアノサークルの発表会に出演するらしく、大学に通って練習している。
 デートに誘う隙がないのだ。柘植野はため息をついた。

 柴田から送られてきた買い出しリストをチェックする。スーパーに行くのは柘植野の分担だ。

 柘植野がサンダルを履いてマンションを出ると、午前9時前なのに、刺すような陽射しに焼かれる。スーパーの開店直後を狙えば少しは涼しいかと思ったのだが。
 背後でマンションのオートロックの玄関が開く音がした。

「あれ、柘植野さん。おはようございます」
「あ、おはようございます。今から教習所?」

 柴田だった。虹色に輝くポメラニアンのTシャツを着ている。どうもカラフルな動物の柄が好きらしい。

「いや、スーパーで洗剤を買おうかと。柘植野さんもスーパー?」
「そう。洗剤もついでに買ってきますよ」
「いやいや、おれも一緒に行きます」
「そう? 買い出しは僕の仕事だし……」
「……柘植野さんと一緒に行きたいんです!」

 柴田は「一緒に」に力を込めて言ったので、柘植野には柴田も2人の時間を過ごしたいのだと分かった。 
 2人は赤い顔を見合わせて、笑った。
 並んで歩いていると、隣のアパートの階段からカンカンと足音が聞こえてきた。柘植野は身を硬くした。
 悪い予感というのは当たるもので、降りてきたのは粕川かすがわだった。

 柴田は粕川に小さく会釈えしゃくをした。柘植野は柴田と左右を入れ替わって、柴田を守るように粕川と柴田の間に立った。

 粕川はじっとりと敵意のある目で柴田を見てくる。
 柘植野は思い切って、柴田の腕に腕を絡めた。

 柴田はびっくりして柘植野を見たが、柘植野は赤い顔ながら、つーんと澄まして柴田を引っ張る。そのまま角を曲がって、粕川の視線から逃れた。

 柘植野はぱっと腕をほどいた。澄ました表情は消えて、照れた顔をしている。

「あの、ごめんなさいね。粕川くんに分からせた方がいいと思って」
「いや、あの、嬉しかったです」
「よかった。あ、スーパーが遠回りになっちゃった」
「いいじゃないですか。デート……したいから」
「……! デートしましょう」

 柘植野はじわじわと嬉しくなってきて、頬をゆるめた。僕たちは食事という時間を共有しているのを忘れていた。

 買い物に行って、作って、食べて、片付ける。
 それが僕のために確保された柴田さんの時間だから、そこで一緒の時間を過ごしていけばいい。

 まあ、ベタに水族館とか、行きたいけど。
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