上 下
11 / 109
第一部 ご飯パトロン編

11. パトロンにしてくれませんか②

しおりを挟む

「ねえ、柴田さん。僕をパトロンにしてくれませんか?」

 突飛とっぴな提案をした。目の前の青年は、腰に手を当てて首をかしげた。

「パトロン……って、なんでしたっけ?」
「ファンとして、柴田さんに出資する人間のことです」
「ファン!?」

 柴田は目を丸くして、それから照れた顔で目を逸らした。

「おれは、そこまでじゃ……」
「僕は柴田さんのお料理がとても好きです。……お邪魔してもいいですか?」
「あ、どうぞどうぞ」

 柘植野は、柴田の家の敷居を初めてまたいだ。
 今、柴田さんに踏み込もうとしている。ものすごく難しい関係を作ろうとしている。
 柘植野は一瞬、身体をこわばらせた。

 柴田の家の玄関はスニーカーが1足あるだけで、すみに引っ越しの段ボールが2段積んであり、さっぱりとしていた。

 柴田はサンダルを脱いで玄関を上がったので、柘植野はいつもよりさらに柴田を見上げる形になった。

「パトロンと言ってもさすがに、柴田さんの生活すべてを支える出資はできません」
「あ、そりゃそうですよね、そんなことお願いできないし」
「僕はファンとして、柴田さんが作ってくれる夕ご飯に出資をします」
「ご飯パトロンだ」

 柴田がひらめいたように言うので、柘植野はくすくす笑った。

「そうですね。材料費にプラスでお金をお支払いします」
「えーっ!? アルバイトになっちゃいますよ」
「アルバイトとパトロンの何が違うかというと、柴田さんに義務がないところです。僕は柴田さんの『才能』にれ込んでお金をお支払いする。僕が払うお金はお料理の対価じゃないんです」
「なるほど……?」
「だから柴田さんは1ヶ月に一度もお料理を作らなくて構わない」
「えっ!?」

 柴田はぶんぶんと顔の前で手を振った。けれども柘植野は気にせず話を続けた。

「大学は結構忙しいですよ。重荷にならない範囲で、夕ご飯を食べさせてください」

 この条件が柘植野のこだわりだった。
 若者の勉学を邪魔してはいけない。心の支えとして感想が欲しいときだけ、夕ご飯を食べさせてもらえればよかった。
 だから「パトロン」という関係を選んだ。

 ——僕をいいように使ってください。

 わざわざ言わないけれど、柘植野はそう思っている。

「もちろんファンレターを書きます。どうですか? すぐに決めなくて構いません」
「いや、めっちゃありがたいお話です……!」

 柴田の頬は嬉しさに上気して、身体の前で手をぎゅっと握り合わせていた。今にもぴょんぴょん飛び跳ねそうな、嬉しくてたまらない顔をしている。

「じゃあ前向きに話を進めましょう。ところで、お金は発生するから税金のことを考えないといけないんだけど——」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

螺旋の中の欠片

琴葉
BL
※オメガバース設定注意!男性妊娠出産等出て来ます※親の借金から人買いに売られてしまったオメガの澪。売られた先は大きな屋敷で、しかも年下の子供アルファ。澪は彼の愛人か愛玩具になるために売られて来たのだが…。同じ時間を共有するにつれ、澪にはある感情が芽生えていく。★6月より毎週金曜更新予定(予定外更新有り)★

転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都
ファンタジー
 大館ムギト。底辺大学生。「神の使い」と名乗るノアの誘導的な契約によりうっかり魔王を討伐する勇者となる。  だが、ノアが本来契約したかったのはムギトではなく彼の優秀な弟のほうだった。しかも現実世界のムギトはすでに死んでしまっているし、契約は取り消せないと言う。 「魔王を討伐できた暁には、神に生き返らせるよう取り繕ってやる」  ノアにそう言われ仕方がなく異世界に転生するムギトだったが、彼が神から与えられた能力は謎のクラス【赤子の悪魔《ベビー・サタン》】」だった。  魔力は僅か、武器はフォーク。戦闘力がない中、早速ムギトは強敵な魔物に襲われる。  そんな絶体絶命の彼を救ったのは、通りすがりのオネエ剣士・アンジェだった。  怪我の治療のため、アンジェの故郷「オルヴィルカ」に連れられるムギトたち。  そこを拠点に出会った筋肉隆々の治療師神官やゴーレム使いのギルド受付嬢……明らかに自分より強い仲間たちに支えられながらも、ムギトは魔王討伐を目指す。  だが、ギルドで起こったとある事件を境に事態は大きく変わっていく――  これは、理不尽に異世界に転生してしまった勇者と仲間たちによる魔王討伐冒険記である。 ◆ ◆ ◆ ※カクヨムにプロト版を掲載。 上記と内容が多少変わっております。(キャラクターの設定変更、矛盾点の修正等)

もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!

をち。
BL
公爵家の3男として生まれた俺は、家族からうとまれていた。 母が俺を産んだせいで命を落としたからだそうだ。 生を受けた俺を待っていたのは、精神的な虐待。 最低限の食事や世話のみで、物置のような部屋に放置されていた。 だれでもいいから、 暖かな目で、優しい声で俺に話しかけて欲しい。 ただそれだけを願って毎日を過ごした。 そして言葉が分かるようになって、遂に自分の状況を理解してしまった。 (ぼくはかあさまをころしてうまれた。 だから、みんなぼくのことがきらい。 ぼくがあいされることはないんだ) わずかに縋っていた希望が打ち砕かれ、絶望した。 そしてそんな俺を救うため、前世の俺「須藤卓也」の記憶が蘇ったんだ。 「いやいや、サフィが悪いんじゃなくね?」 公爵や兄たちが後悔した時にはもう遅い。 俺には新たな家族ができた。俺の叔父ゲイルだ。優しくてかっこいい最高のお父様! 俺は血のつながった家族を捨て、新たな家族と幸せになる! ★注意★ ご都合主義。基本的にチート溺愛です。ざまぁは軽め。 ひたすら主人公かわいいです。苦手な方はそっ閉じを! 感想などコメント頂ければ作者モチベが上がりますw

元四天王は貧乏令嬢の使用人 ~冤罪で国から追放された魔王軍四天王。貧乏貴族の令嬢に拾われ、使用人として働きます~

大豆茶
ファンタジー
『魔族』と『人間族』の国で二分された世界。 魔族を統べる王である魔王直属の配下である『魔王軍四天王』の一人である主人公アースは、ある事情から配下を持たずに活動しいていた。 しかし、そんなアースを疎ましく思った他の四天王から、魔王の死を切っ掛けに罪を被せられ殺されかけてしまう。 満身創痍のアースを救ったのは、人間族である辺境の地の貧乏貴族令嬢エレミア・リーフェルニアだった。 魔族領に戻っても命を狙われるだけ。 そう判断したアースは、身分を隠しリーフェルニア家で使用人として働くことに。 日々を過ごす中、アースの活躍と共にリーフェルニア領は目まぐるしい発展を遂げていくこととなる。

懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣
恋愛
社会人の鳳健吾(おおとりけんご)と高校生の鮫島凛香(さめじまりんか)はアパートのお隣同士だった。 兄貴気質であるケンゴはシングルマザーで常に働きに出ているリンカの母親に代わってよく彼女の面倒を見ていた。 リンカが中学生になった頃、ケンゴは海外に転勤してしまい、三年の月日が流れる。 三年ぶりに日本のアパートに戻って来たケンゴに対してリンカは、 「なんだ。帰ってきたんだ」 と、嫌悪な様子で接するのだった。

隣のチャラ男くん

木原あざみ
BL
チャラ男おかん×無気力駄目人間。 お隣さん同士の大学生が、お世話されたり嫉妬したり、ごはん食べたりしながら、ゆっくりと進んでいく恋の話です。 第9回BL小説大賞 奨励賞ありがとうございました。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

処理中です...