禁断の愛と嫉妬

第9話:試練の始まり

翌日、マリーは従者として
アスクの屋敷で働き始めた。
朝から夕方まで、
細やかな家事やお茶の準備、
食器の管理など、
他の従者と同じ仕事を
黙々とこなしていた。
従者たちの中には、
マリーが没落した貴族出身
で高級娼婦だということを
知っている者もいて、
冷ややかな視線を
向ける者もいた。

「やれやれ、
こんな小さなことも慣れてない
んじゃないの？」
同僚の一人が皮肉な笑みを
浮かべながら、
マリーの手元を
じっと見て言った。
「本当にロバート様の
お側にふさわしいか、
これでわかるんじゃない？」

マリーは微笑みを浮かべ
、丁寧に返答した。
「もちろん、
私もまだまだ勉強の身です。
ですが、一つ一つ心を込めて
やるつもりです」

周囲の従者たちは冷ややかな
態度で彼女を観察し、
何か失敗をするのではないか
と様子をうかがっていた。
しかし、マリーは怯むことなく、
すべての仕事に心を込めて
取り組んでいった。

その日の午後、
アスクが書斎で
仕事をしていると、
召使が入ってきた。
「アスク様、
少々お聞きしたいことが
ございます。
マリー様が家事をすべて
こなされておりますが…
一度も愚痴をこぼされず、
完璧な仕事ぶりでございます」

アスクは冷たく笑い、
「ふん、そうかね。
だが、数日であきらめる
だろうさ」と鼻で笑った。

一方、マリーはその後も
黙々と仕事を続け、
ロバートが訪ねてきた際にも、
冷静に対応した。

「マリー、
君が本当にここで働くとは…」
ロバートは少し驚いた様子で、
彼女を見つめた。

「ロバート様、こ
れもアスク様への証明です。
私は貴方のために、
どんなことでも頑張りたいのです」と、マリーは優しく微笑んだ。

すると、
ロバートは温かな眼差しで
彼女に言った。
「僕は君を信じているよ。
父が君を誤解していることを、
きっと理解させられると
思っている」

そして、数日が過ぎた。
マリーはすべての仕事を
きちんとこなし、
周囲の従者たちも
次第にその真面目さに
一目置くようになっていった。
アスクが予想していた
「すぐに投げ出す」
どころか、むしろマリーは
誰よりも率先して
働いていたのだ。

その日の夜、ア
スクは自らの書斎にマリーを
呼び出した。

「マリー・デュボワ。
どうやら一週間が
経ったようだな。
さすがに君も
疲れ果てただろう？」
彼は冷たく笑いながら、
あざ笑うように言った。

マリーはしっかりと
背筋を伸ばし、
「いえ、アスク様。
全力を尽くさせて
いただきました」と答えた。

アスクは冷ややかに
彼女を見つめ、
「ふん、全力？
君の『全力』など、
その程度だろう。何
を証明したつもりなのか、
理解しかねるがね」
と嘲るように笑みを浮かべた。

しかし、その時、召使が
急いで部屋に駆け込んできた。
「アスク様、すみません！
マリー様がこの一週間で
整えた品々や清掃の内容に、
何一つとして問題がありません
でした。従者たちも、
彼女の働きに
一目置いている様子です」

アスクはその報告に
少し動揺しながらも、
冷静を装った。
「たかが一週間で評価を
下すのは早い。
だが、君がこれ以上屋敷に
いる理由もないだろう」

だが、その時、
ロバートが部屋に入ってきた。
「父上、僕は見ていたんです。
マリーは、
名声やプライドを捨て、
僕のために
ここで働いてくれた。
彼女こそがふさわしい相手
であると証明されたはずです」

アスクは険しい表情で
息子を睨んだ。
「ロバート、
お前は本気でこの女を
選ぶというのか？」

ロバートは毅然と答えた。
「はい、父上。
マリーは僕が想いを寄せるに
ふさわしい人です。
これ以上、彼女を苦しめる
必要はありません」

アスクはしばらくの間、
冷ややかな視線で
二人を見つめていたが、
内心では驚きと苛立ちが
交錯していた。
「分かった。しかし、
私が納得したわけではない。
お前がどうしても
彼女を選ぶと言うなら…
好きにするがよい」

ロバートは安堵の表情を浮かべ、
マリーに向き直った。
「マリー、君の勝利だ。
僕はずっと君を信じていたよ」

マリーは微笑み、
「ありがとうございます、
ロバート様。
私も貴方を信じて、
ここまで頑張ることが
できました」と静かに答えた。

アスクは冷たく一瞥を送りながら、
「ふん、ここで終わりにしよう。
その後どうなるかは、
私には関係ない」
と吐き捨てるように言い残し、
書斎を後にした。

廊下に出たアスクは一瞬、
彼女の覚悟と行動に
密かに驚きと認めざるを
得ない感情を抱いていたが、
表には出さず、
無言で立ち去っていった。