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1章 目覚め
9話 甦る密室
しおりを挟む想像していただきたい。
子供の正体は自分らしい。
もはや何の不思議も疑惑もない。
子供が言う事は真実だろう。
思考が読まれ、全てを見透かすその目に偽りはない。
ですが、納得できないことがある。
「似てない」
「ドッペルゲンガーってことか」
「みたら死ぬのか」
おそらくこれも読まれているでしょう。
「どういうことですか」
もう後退はできない。思考する前に言葉にして、ひたすら質問するしかない。
子供が答えるかはわからないがそこは重要ではない。とにかく止まるな。
「そのままの意味ですよ」
「その意味がわかりません」
「ふむ」
「意味不明なことが多すぎます」
「意味を知ってどうするのですか」
「知る必要があるかと」
「ふむ」
「お答えください」
これが会話と言えるのかはわかりません。
ですが、前進あるのみ、答えるまで聞く。
この根性論みたいな思想は、しつこいかガッツがあるかの二極化となり、それぞれは相容れないでしょうか。
「そうだ、相容れないのだ」
何とかなると思っていた。
こっちがフォローすれば大丈夫だと思っていたのだ。
だが、違った。
「…なんだこの記憶は…」
いきなり記憶が甦ったのか、ふと言葉が出た。うっすらと記憶のビジョンなるものも感じとれた。何かが…漠然としているが…その「何か」が起ころうとしているようだ。
「本来の役目を思い出しそうですね」
「大丈夫、ゆっくりでいいのです」
これはどういうことだろう。
まあ、これ「も」だろうか…。
記憶喪失にでもなっているのか。
すると子供は記憶を呼び覚ます役目でもあるのだろうか。空腹のことといい、何か違和感がある…違和感だらけなのだが、何かが掴めそうではあるのだが、一歩足りない。
「焦りは禁物ですよ~」
そうだ、また思考ばかりしてしまう。
子供はニッコリと笑いこちらをみている。
そうだ、この空間や子供、他の人たち。
それらは問題ではないのだ。
問題なのは自分。
私はいったい誰なのだ。
その瞬間、背筋に電流が走ったような感覚がした。
ここはとても大きくて有名な病院であり、緊急で運び込まれるシーンが甦る。
大勢の人がいて、あれこれ指示している。
猛スピードのストレッチャーでどこかへ運ばれていく。ガタガタ揺れていて今にも壊れそうだ。この異様ともいえる状況を、僅かながら覚えている。しかし、何故運ばれてきたのか、それはわからない。思い出そうとしてもできない。まるで記憶をロックされているみたいだ。よくトラウマを脳が封印するというが、似たような現象でしょうか。
「ん、脳…」
ふと、脳というワードがよぎった。
視線を上へ向けると、そこに子供の姿は存在せず、
跡形もなく消えていた。子供のいたところには、
あの時みんなを発狂させたツルツルした黒い石があった。
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