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第一章

十二話 散りゆく花と盾

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「……なんだこの二人は…」


モニターを確認したアゲインは絶句した。
見た目普通の女性二人が猛スピードでエンデに接近している。


「こ、こやつら…もしやレフトーラを追ってきたか……」


腕を組み考え込むアゲイン。


…ふむ「心」とやらが機能しているようだな。


ふっふっふっ。
感情など消え失せたと思っておったが……。
感じるわ……これが……恐怖………恐怖心というやつか。
あの二人は躊躇なく我を討つだろう…。
ふっふっふっ。


拳を握るアゲイン。


ジエンドよ、こやつらは壁…だな。
まあ我もアイツらにとっては壁……か。


ふう、新世界の構築はいろいろと困難だ…。




「マーガレットさん、今さらですが……その…ごめんなさい」


「帰還できる保証はない…ということですね……ふふ、どうせ滅ぶなら……私は戦って散りたいんです」


「そうです……か」


言葉こそ丁寧だがそこに普段の冷静なマーガレットはいない。
目の前でヘルゲートが焼け野原となり、生命を燃やして力尽きたバイオ、それらのショックは大きい。


「何故だが分かりませんが…急に能力が底上げされたような気がします……不思議ですわ」


「はい、それは私も感じたというか…」


「それにバイオさんに触れたことで……彼女のことが少しだけわかったような…」


「あなたにとって彼女は大切な人なのですね」


その言葉に気を引き締めるマーガレット。
原生林を通過すると海上に禍々しい島が見える。


「…ここがエンデ…なのですか……」


「なるほど…」


周囲を調べる二人だが突如海上からレーザーブレードが浮上し彼女らを襲う。


「ちっ」


「ふふ、悪趣味な攻撃ですわね」


マーガレットはセフィアを後退させ自分の指を噛んだ。


「マーガレットさん?」


その奇行に戸惑うセフィアだが、凄まじい形相の彼女をみて息を飲む。


「ふふ、弾けなさい」


切れた指先から血が垂れ落ちそれを飛散させる。
血液はブレードに触れると爆発し、周囲は凄まじい爆破がおこる。
表情を変えることなく淡々とブレードを破壊するマーガレット。


「…これは…生命を燃やしているのか……」


マーガレットの反撃にレーザーブレードは沈下し突然どこからか拍手が聞こえる。


「んっ」


「危ないマーガレットさん、気をつけて」


拍手の音がする方向から小刀が飛んでくる。
それを分解するマーガレット。
  

「…あんたが…ヘルゲートを…」


「ようこそエンデへ、強者よ、歓迎しよう」


神々しい羽を広げ二人の前に姿を見せるアゲイン。
セフィアはその姿に面食らっている。
一方のマーガレットは拳を強く握り不快感をみせる。


「我はエンデの知人アゲイン…」


「かくごしろ」


挨拶するアゲインに突如攻撃を仕掛けるマーガレット。
彼女の右手から暗黒が放たれるがそれを無効化するアゲイン。


「よかろう、我に挑むがいい」


アゲインは腕にあるボタンを押すと目の前に光剣が現れる。


「聖剣にてお相手しよう」


聖なる剣を手にしたアゲインのその姿はまさしく神。


「聖剣だろうがなんだろうが、ここで引くことはできない」


マーガレットは魔力を全開にしてアゲインと対峙する。


「…」


言葉を失うセフィア。
荒々しい魔力が周囲を包み場は修羅と化す。
アゲインは翼を羽ばたかせ聖剣を構える。
マーガレットが大技を放つと見切り、受けの構えをとったのだ。


「消えろっ!」


左右の手から強力な暗黒が放たれる。


「やはりそうきたか」


その暗黒を無効化しようと剣を振り下ろすが、突然暗黒は上空と海へ。
上下へと軌道を変更し消滅した。


「なにっ?」


「受けてみよ」


「しまった、暗黒は…囮だったか」


マーガレットは剣を召喚して両手持ちで構えていた。
そして暗黒の変則攻撃に気をとられていたアゲインへ突撃。


「うがあっ」


剣はアゲインの腹部をとらえ深々と突き刺さる。


「ヘルゲートを……故郷を……故郷をかえせっ」


苦痛で表情が歪むアゲイン。
その眼を見てマーガレットは言い放つ。


「くっくっくっ…よい、よいぞ、痛みを感じるわ。恐怖と痛み…少しだが…理解できたぞ…」


剣を掴み狂気の眼差しをマーガレットにむける。
それに怯むことなく彼女は自分自身に稲妻を放つ。
双方に電撃が流れお互いダメージを受ける。


「ぐっ……お、おのれ……お主…恐れを知らぬか……あるいは…覚悟したか………だがっ」


「……覚悟なぞ……」


吐血するアゲイン。
無敵の神がダメージを受け深手を負い追いつめられている。


「…なんという…光景…だ」


加勢しようにもどうしてよいかわからないセフィア。
状況は一見マーガレットが優位のようにみえる。だが剣はゆっくりと引き抜かれており彼女の魔力が尽きかけているようにみえる。


「ここまで追い込まれたのは初めてだぞ、マーガレットガーデン」


「もう少し……あともう少しなのに…魔力が……」


「どういうわけか知らぬが、お主からはもう一人、別の存在がみえる。なんとも不思議なものだ」


「…くっ……」


「見事だったぞガーデンよ……惜しかったが……ここまでだ」


ついに剣を引き抜くアゲイン。
魔力が尽き脱力した彼女は海へと落下していく。


「…負けてしまったわ……ふふ…」


「マーガレットさんっ」


彼女を救出するため動くセフィアであったが、それを妨害するアゲイン。


「さて、残るは…君だけだね」


「…」


「ガーデンには迷いがあったのだ…人はコンディションが悪いと本来の実力を発揮できぬとみたが?」


「…」


アゲインを無視し海に落下したマーガレットを心配するセフィア。


「ふむ、レフトーラといい、ガーデンといい、そのポテンシャルは凄まじいとみたのだが……二人とも迷いが断ち切れんかったようだな…」


「レフト……」


その言葉で冷静になるセフィア。
そしてゆっくりと視線を上げてアゲインをみる。


「ふふふ、神からみた私たちはちっぽけな存在なのね」
 

「それは違う、私は短時間だが人に接して心を取り戻した。君たちには感謝しているし、共に新世界をつくりたいと思っている」


「…お断りよ、新世界にする意味がわからないわ。人は確かに失敗をするし、お世辞にも大陸にとって良き存在とはいえないかもしれないわ」


突如武装を解くアゲイン。
セフィアの話す内容に興味があるようである。

 
「ふむ、続けてくれ」


「私たちは苦悩し迷うことがあっても生き続けたい、生命は生存を放棄した時、その役目を終えるのよ」


「なるほど、つまり散る間際が美しい、そういうことかな?」


アゲインの問いにセフィアは首を左右にゆっくりとふる。


「あなたには理解できないわ、人の真似事やいくら、心を取り繕ってもムダよ、あなたは人じゃないのだから」


「そうだな……」


セフィアの言葉は強烈だ。
黙り込み眼を閉じて考え込むアゲイン。


「あなた……本当は…人になりたかったのでは?」


「…」


無言のアゲイン。
セフィアは魔造鏡を召喚し身構える。


「人か……そうか…人か」


なにやら苦悩するアゲイン。


「図星だったのかしらね。あなたたちエンデの者は世界をコントロールしているつもりでしょうが、生命は制御することなどできないし、やってはいけないのよ」


「それは知人たちが未熟だからだろう?役目を全うしない我々に原因があるのだ」


「未熟とかではないわ、生命の可能性を奪ってはいけないのよ」


セフィアは冷静になりアゲインへゆっくりと意思を伝える。


…正面から戦って勝てる相手ではないわね。
ならば…。


「ふっふっふっ」


セフィアを
見透かしたように急に笑うアゲイン。


「何かしら?」


「君はガーデンやレフトと違い、戦い向きの人間ではないね」


「えっ」


光剣を再び構えるアゲイン。


「その鏡のような大盾はこの世のモノとは思えない……だがっ」


眼を見開き一気に距離をつめるアゲイン。
まるで疾風のような動きが繰り出す高速攻撃がセフィアを急襲する。


「くっ」


魔造鏡でそれを防ごうとするが寸前でアゲインは攻撃を止める。


「な、何故?」


「君の力は守ることを主としているみたいだね、それでは勝負にならないぞ」


「お、おのれっ」


力の本質を見抜かれたセフィア。
冷静さを失い、盾に魔力を込めアゲインに突撃させる。


「図星だったようだね」


盾を左手で受け止めるとその宿った魔力を容易に飛散させる。


「そ、そんな…」


「耐えてみせよ」


今度はアゲインが魔造鏡に電力を送電しセフィアに反撃。
彼女の小さな身体は盾の直撃を受ける。


「うがっ」


激突の衝撃は凄まじく彼女はうずくまってしまう。


「ちとやりすぎたか…」


「う…う…」


全身へのダメージが大きいがかろうじて浮遊しているセフィア。


「どうした?みせてみよ、生命の可能性とやらを…」


彼女に接近し光剣を構えるアゲイン。


「……ふふふ、とらえたわ」


「ん、なんだ…これは…」


その時二人を包むように強烈な結界が発動した。
アゲインは戸惑っているが、セフィアは獲物をとらえたハンターの眼をみせる。


「き、きさま、計ったな」


「あなたの言うように私は機械いじりの技術者で本来戦いには向かないわ」


今度はゆっくりとアゲインに近づくセフィア。


「なんだ、う、動けんぞ…これは…」


「この空間は私が支配しているのよ。ダメージを受けてかなり危なかったけど……あなたは私の仕掛けた罠にかかったのよ」


光剣は消滅しアゲインの行動を完全に封印したセフィア。


「愚かな…こんなことをしても勝敗は…つかんぞ」


鋭い眼光でセフィアを睨むアゲイン。
彼女は深呼吸をすると右手を身体に当てる。
すると身体からなんと白い炎が現れる。


「くっ……やめろ…やめるんだ」


何かを決意した彼女を見てアゲインは恐怖した。


「生命を解放する……みんな…あとは……」


右手に燃える白い炎。
それを左手で潰そうとするセフィア。


「やめろーーー」


恐怖と絶望で表情が歪むアゲイン。


「レ、レフト…」


炎が爆ぜる瞬間、セフィアは前方にレフトをみた。
何かを叫ぶレフトだが結界内にいるセフィアにその声は届かない。
炎は空間を破壊し周囲には白い炎が荒れ狂い、場は悪夢のような光景となる。
都市部は炎に触れると跡形もなく消滅。
シールドが機能を停止していたエンデは拡散した炎により半壊した。



「セフィアさん……」



レフトは魔封剣を炎にむかって振り下ろす。
炎はたちまち鎮火し二人がうっすらとみえてくる。


「はあ…はあ…」


気絶しているセフィアの首を掴むアゲインがそこにいた。



「そ…そんな…」



「…貴様らは……悪魔だ…」



次回へ続く。
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