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第ニ章
十六話 内なる想い
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「まぶしい」
朝日が差し込む。
レフトはゆっくりと起き上がる。
となりにはアレサがいるが、まだ寝ている。
彼女が起きないようにそっとベットから抜け出す。
だがベットの隅に足をぶつけ、ダンッという音が響きアレサが目を覚ます。
「んんっ…おはよレフト…」
「おはよう、ごめん起こしちゃったかな」
どこにでもある夫婦の日常であろう。
「顔洗って朝食にしよう。眠かったらまだ寝てていいよ。できたら起こすね」
「うん、ありがとう」
散歩で夜更かしをした二人。
レフトは任務中の不規則な生活に慣れていたが、アレサは軍人。
規則正しい生活のためこうした夜更かしには慣れていないのだろう。
顔を洗い、冷たい水が意識を覚醒させる。すると流れる水が急に真っ赤に染まる。
「…なんだこれは…」
レフトは別の蛇口をひねり水の色を確認する。
「赤い…これはいったい…」
慌てて外に出るレフト。
辺りを見回し驚愕した。
なんと川が真っ赤に染まっている。
だが住民はそれに驚くことはなく普通に生活をしている。
「いったいどうなってるんだ…」
すると一人の老人が話しかけてきた。
「あんたは確か…新参者でしたな…」
「はい。レフトといいます」
「レフトさんか…あんた連れがいたね?」
「ええ、家でまだ寝ていますよ…」
と…。
レフトは突撃鈍器のような物で後頭部を殴られた。
薄れゆく意識の中、家に何人かが入っていくのがわかる。
「アレサ…」
目覚めると家にいた。
不思議なことに後頭部に痛みはない。
「大丈夫?レフト」
アレサの声だ。
後ろから聞こえた。
「大丈夫だよ。アレサは大丈夫?」
そう言い後ろを向くと…。
そこには住民が数人横たわっていた。
出血していたり、手足が無かったりと、皆息をしていない。
そしておぞましい化け物がそこにいた。
「ここの住民はよそ者をなぶり、川の上流に捨てているわ。赤い川を見たでしょ?」
…。
この化け物はアレサなのか…。
これが悪魔の正体なのだろうか…。
頭を抱えるレフト。
その様子を心配したのかアレサは近付いてくる。
「ねえ、顔色が悪いわよ」
「いや…大丈夫…」
平常心でいようとするレフトだが、変わり果てたアレサを直視できない。
「何よ?私の顔に何かついてるの?」
当然だがそれに気づくアレサはレフトに問う。
「いや…」
「ならいいけど…ここの住民は全員倒したから私たちの集落よ」
「えっ…倒した?」
「うん、攻撃してきたから反撃したわ」
アレサはそう言うと、その辺の住民を起こし腹部を殴り胴を貫通させる。
「もう動かないわよ。人間は脆いわね」
「人間が脆い?」
「うん、すぐ壊れるし」
「…」
アレサは明らかにおかしい。
「何を言っているのかわからないよ」
「え…レフト、あなた本当に大丈夫かしら?」
レフトはふと自分の手をみる。
すると化け物のように爪が伸びており、レフトは怪人のような容姿になっていた。
「あら、あなたは悪魔になったのよ。ボロい人間でいる必要はないし左腕は回復しているはずよ」
「…」
言葉を失ったレフト。
変異した姿をみたことで急に吐き気や頭痛がひどくなった。
立っていられない。
それに急に後頭部が痛み出した。
痛い…。
それを見た化け物はレフトの身体を支えた。
その時。
「………フト………レフト」
目の前にアレサがいるのにアレサの声が頭に響く。
「レフト」
ガバッと目覚めるレフト。
寝汗がひどい。
ものすごい量である。
「ちょっとレフト大丈夫?」
アレサ?
アレサを見るレフト。
「…ああ、アレサ…」
「どうしたの?すごくうなされてたから悪夢をみたのね…」
「…悪夢…か…そうだね」
ふぅとひと息つくレフト。
そのレフトにすっと寄り添い抱きしめるアレサ。
「えっ…」
「大丈夫よ、それは現実ではないわ。何を見たかわからないけど、つらい時は私がそばにいるから」
突然の行動にレフトの心拍数は上がる。ドキドキしている様子にアレサは気づいた。
「うふふ、朝からお熱いわねっとか言われちゃうわね」
レフトの頭を撫でてアレサは椅子に座った。
「さあ起きてお寝坊さん、朝食にしましょう」
…。
夢だったのか…。
レフトは起き上がり椅子に座った。
目覚めてからどうも後頭部に違和感がある。
「そういえば、ついさっきね…」
「えっ…ついさっき?」
「あなたの後頭部を肘打ちしちゃったのよ…」
「肘打ちって…」
「ごめんなさい、わざとじゃないのよ。肘打ちしてから私は目が覚めて…あなたを見たらうなされていた…という…」
罪を懺悔するようなアレサ。
…こんな正直な女性が…化け物ねぇ。
「ちょっと怒ってるのレフト?」
「いや…」
「もう何か言いたいことがあるならはっきり言ってよね」
「うん…」
「私が化け物にでもなる夢でもみたのかしら?」
「それは…」
「あなたのイメージする悪魔はおそらくあのネズミでしょう。あの禍々しい姿を見たら悪魔はおぞましい化け物と思っちゃうわよね。私も化け物に変身するとか…」
「…一瞬よぎったけど、それでもアレサは……アレサだと…化け物でも」
「やーね、レディにむかって化け物とか失礼よ」
「…失礼…って…」
「レフト聞いて」
「うん」
「私は確かに人ではないわ…あなたの三倍くらいは生きているし、あれこれ疑問に思うのはよくわかるわ」
「そんなつもりは…」
「いいのよそれで…それが普通よ。ただ信じてほしいわ。あなたは私にとって特別な人なの。だから知りたいことは全て話すわ。安心して私は化け物にはならない」
「…アレサだって特別だよ」
「ふふ、ありがとう」
喜ぶ姿が乙女チックである。
「いつか話したと思うけど…あのね…」
急に恥じらうアレサ。
何か言いたいことがあるようだが、珍しくもじもじして言い出せないようだ。
「私を…探してほしい?」
「うん」
二人は食事を済ませてお茶を飲みながら会話している。
人間世界ではどこにでもある光景だ。
アレサはレフトの胸に手をあて念じた。
すると以前と同じように白い炎が胸から現れた。
「私はあなたと同じ時間を生きたい」
白い炎を眺めながらアレサは呟く。
コンコン
その時ドアをノックする音が響く。
二人は我に返り、顔を見合わせる。
いったい誰?
「もう……」
白い炎は消えアレサはぶつぶつ言いながらドアへ向かう。
だが何かを察知し急に止まり身構えた。
「…レフト、奥に隠れてて…」
次回へ続く
朝日が差し込む。
レフトはゆっくりと起き上がる。
となりにはアレサがいるが、まだ寝ている。
彼女が起きないようにそっとベットから抜け出す。
だがベットの隅に足をぶつけ、ダンッという音が響きアレサが目を覚ます。
「んんっ…おはよレフト…」
「おはよう、ごめん起こしちゃったかな」
どこにでもある夫婦の日常であろう。
「顔洗って朝食にしよう。眠かったらまだ寝てていいよ。できたら起こすね」
「うん、ありがとう」
散歩で夜更かしをした二人。
レフトは任務中の不規則な生活に慣れていたが、アレサは軍人。
規則正しい生活のためこうした夜更かしには慣れていないのだろう。
顔を洗い、冷たい水が意識を覚醒させる。すると流れる水が急に真っ赤に染まる。
「…なんだこれは…」
レフトは別の蛇口をひねり水の色を確認する。
「赤い…これはいったい…」
慌てて外に出るレフト。
辺りを見回し驚愕した。
なんと川が真っ赤に染まっている。
だが住民はそれに驚くことはなく普通に生活をしている。
「いったいどうなってるんだ…」
すると一人の老人が話しかけてきた。
「あんたは確か…新参者でしたな…」
「はい。レフトといいます」
「レフトさんか…あんた連れがいたね?」
「ええ、家でまだ寝ていますよ…」
と…。
レフトは突撃鈍器のような物で後頭部を殴られた。
薄れゆく意識の中、家に何人かが入っていくのがわかる。
「アレサ…」
目覚めると家にいた。
不思議なことに後頭部に痛みはない。
「大丈夫?レフト」
アレサの声だ。
後ろから聞こえた。
「大丈夫だよ。アレサは大丈夫?」
そう言い後ろを向くと…。
そこには住民が数人横たわっていた。
出血していたり、手足が無かったりと、皆息をしていない。
そしておぞましい化け物がそこにいた。
「ここの住民はよそ者をなぶり、川の上流に捨てているわ。赤い川を見たでしょ?」
…。
この化け物はアレサなのか…。
これが悪魔の正体なのだろうか…。
頭を抱えるレフト。
その様子を心配したのかアレサは近付いてくる。
「ねえ、顔色が悪いわよ」
「いや…大丈夫…」
平常心でいようとするレフトだが、変わり果てたアレサを直視できない。
「何よ?私の顔に何かついてるの?」
当然だがそれに気づくアレサはレフトに問う。
「いや…」
「ならいいけど…ここの住民は全員倒したから私たちの集落よ」
「えっ…倒した?」
「うん、攻撃してきたから反撃したわ」
アレサはそう言うと、その辺の住民を起こし腹部を殴り胴を貫通させる。
「もう動かないわよ。人間は脆いわね」
「人間が脆い?」
「うん、すぐ壊れるし」
「…」
アレサは明らかにおかしい。
「何を言っているのかわからないよ」
「え…レフト、あなた本当に大丈夫かしら?」
レフトはふと自分の手をみる。
すると化け物のように爪が伸びており、レフトは怪人のような容姿になっていた。
「あら、あなたは悪魔になったのよ。ボロい人間でいる必要はないし左腕は回復しているはずよ」
「…」
言葉を失ったレフト。
変異した姿をみたことで急に吐き気や頭痛がひどくなった。
立っていられない。
それに急に後頭部が痛み出した。
痛い…。
それを見た化け物はレフトの身体を支えた。
その時。
「………フト………レフト」
目の前にアレサがいるのにアレサの声が頭に響く。
「レフト」
ガバッと目覚めるレフト。
寝汗がひどい。
ものすごい量である。
「ちょっとレフト大丈夫?」
アレサ?
アレサを見るレフト。
「…ああ、アレサ…」
「どうしたの?すごくうなされてたから悪夢をみたのね…」
「…悪夢…か…そうだね」
ふぅとひと息つくレフト。
そのレフトにすっと寄り添い抱きしめるアレサ。
「えっ…」
「大丈夫よ、それは現実ではないわ。何を見たかわからないけど、つらい時は私がそばにいるから」
突然の行動にレフトの心拍数は上がる。ドキドキしている様子にアレサは気づいた。
「うふふ、朝からお熱いわねっとか言われちゃうわね」
レフトの頭を撫でてアレサは椅子に座った。
「さあ起きてお寝坊さん、朝食にしましょう」
…。
夢だったのか…。
レフトは起き上がり椅子に座った。
目覚めてからどうも後頭部に違和感がある。
「そういえば、ついさっきね…」
「えっ…ついさっき?」
「あなたの後頭部を肘打ちしちゃったのよ…」
「肘打ちって…」
「ごめんなさい、わざとじゃないのよ。肘打ちしてから私は目が覚めて…あなたを見たらうなされていた…という…」
罪を懺悔するようなアレサ。
…こんな正直な女性が…化け物ねぇ。
「ちょっと怒ってるのレフト?」
「いや…」
「もう何か言いたいことがあるならはっきり言ってよね」
「うん…」
「私が化け物にでもなる夢でもみたのかしら?」
「それは…」
「あなたのイメージする悪魔はおそらくあのネズミでしょう。あの禍々しい姿を見たら悪魔はおぞましい化け物と思っちゃうわよね。私も化け物に変身するとか…」
「…一瞬よぎったけど、それでもアレサは……アレサだと…化け物でも」
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「…失礼…って…」
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「うん」
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