ファンタジー/ストーリー

雪矢酢

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第ニ章

十三話 手をとりあって

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のんびりと時間に追われることのない生活が始まった。レフトは魔封剣を地下倉庫に一時的に封印した。復興機関に属し戦い続けてきたが戦線を離れたのはこれが初めてだろう。

「きれいになったな」

周囲を清掃するレフト。
心地よい日差しに、過ごしやすい風土で静養している。

「えっと…お届け物です」

「ああ、機関からだね…」

ものすごい荷物を背負う運送屋。
人間離れしたその運送力に唖然とする。ひょいっと荷物を下ろし送り状を受け取る。

「では失礼します」

「どうもありがとうございました」

がさごそと荷物をあさる。
とにかく多い、その大半は書類関係だ。紙は束になると重い。案内書ような分厚い本もあり、一回で運ぶのを断念した。

「…これを背負う運送屋って…魔法だろうか…」

ブツブツと言いながら荷物を運ぶ。
中にはアレサが料理をつくっている。

「あら、荷物かしら」

「うん、機関からだよ」

「ちょっと…なんか多くない?」

「今まで受け取りを忘れてたのよ…」

「…ひとまず中に入れて食事にしましょうよ」


やれやれといった表情のアレサ。
手早く料理を済ませ食卓に並べる。

「さあ座って、食べましょう」

住居にはあらかじめ家具があり、テーブルと椅子も初めからついていた。
テーブルには卵焼きなどシンプルだが美味しそうな料理が並んでいる。

「ふう」

レフトはひと息つき椅子に座る。
その後にエプロンを外しアレサも座る。

「いただきましょう」

「どれも美味しそうだね」

レフトは初めてアレサの料理をみて驚いた。失礼だが素材がそのまま食卓に出るのでは…などと想像していた。

「ねえ、荷物って何なの?」

「書類がほとんどだと思う。いくら紙でもこんなに大量だと処分に困るな…依頼書とか案内書だとさ、もう期限切れだろうからね」

「シーキヨならリサイクル回収できただろうけど、この集落にはあるのかな」

「…ないでしょう…」

無いとあきらめつつもレフトは集落の案内書を開き施設を調べる。

「あっ…」

「あった?」

「うん、ここはすごいね」

「うふふ、さすがあなた、ここを選んで正解ね」

照れるレフト。
まだぎこちないようだが、アレサは楽しんでいるようだ。こういう何気ない日常こそ彼女が望む生活なのだろう。 軍は規律が厳しく自分の想いとは違っていても強行せねばならない時もある。

「片付けたら私も手伝うわ」

「ありがとう、それと…」

「ん、どうかしたの?」

「アレサ、夜になったら少し散歩でもどうかな」

「えっ…」

「ここは寒暖差が少ないし、ゆっくりと星でも…みませんか…」

精一杯の言葉でデートに誘うレフト。
 
「もちろんいきましょう。嬉しいわ、レフトから誘ってくれて」

ニコニコと喜ぶアレサ。
軍にいるアレサを知る人は笑う彼女をまず想像できないだろう。

「良かった。少しずつだけど夫らしく?というのか…頑張ってみるよ…」

必死なのが伝わる。
アレサがとても大切なのだという想いをなんとか言葉にしようとするレフト。
二人の時間は少しずつだがこうして確実につくられており、レフトの左腕は徐々に機能を回復している。
本人が気づいていないくらいゆっくりと。


荷物整理を済ませた二人は、散歩の準備をした。戻ったらすぐ寝れるよう片付けを済ませたりとやることは多い。

二人ともある程度の家事はできることと、お互いに協力しているので良い家庭ができそうである。
これが働きながらできるのか…というのが課題だろう。

「そっちに置こうか」
とか
「ここには物を置けないわね」
など
お互いが相手や物事をきちんと考えているので、本当に仲良し夫婦といった感じだ。

「こんな生活をするとは思わなかったわ」

「そうだね。きてくれてありがとう」

「散歩に誘ってくれたりとずいぶん優しいわね」

「今回の事でいろいろわかったんだ」

「ちょっと待って、その辺は散歩の時に聞くわ」

手際よく片付けていくアレサ。
家の構造をインプットし即座に対応していく様子は悪魔の特徴だろうか。

「どうしたの?急に止まって」

「ああ、適応力というか…アレサはすごいなぁと見とれてたよ」

「もう…」

やれやれといった表情のアレサ。


「それじゃあ着替えてくるわ、そしたら行きましょう」

「うん」

レフトもぱぱっと着替えて出発の準備をする。
この地域は寒暖差が少なく、夜行性の危険モンスター等は存続しない。
輸送ルートが安定しており、整備確保されているのでもっと大きな集落にすることもできそうだ。

集落の事情は深そうだが、今は静養にきている、詮索はしない。
そう言い聞かせるレフト。


「お待たせ」

軍服や戦闘服とは違う、女性らしいアレサがそこにいた。

次回へ続く
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