ファンタジー/ストーリー

雪矢酢

文字の大きさ
上 下
24 / 42
第一章

二十三話 左腕

しおりを挟む
魔術士の一斉攻撃を受けたレフト。
放たれた魔力は地面をえぐり、砂ぼこりが舞い上がっていた。サナはニヤリと笑い、進行を指揮した。
戸惑う者が多数いるがサナは鋭い眼光で再び進めと指示した。

嫌々進行する魔術士たちだが、突如、周囲が凍結して進行どころか身動きができなくなった。

「ちっ、あやつは戦闘不能ではなかったのか。こんな強大な魔力があるなど聞いておらんわ」

その様子をみて焦るサナ。

「魔力を提供してくれるとはありがたいね。どうも本調子じゃないので助かるよ」

皮肉いっぱいのレフト。
魔術士が一斉に放った魔力を剣が吸収し、それを圧縮して放出したようだ。

「…ばっ…ばかな…この化け物め」

サナは人間離れしたその光景に恐怖した。魔術士たちはもはや戦闘放棄し逃亡。

「大人しく撤退して下さい。シーキヨの軍隊が動く前に」

「わかった…レフト、いずれまた会おう」

そういうとサナは撤退した。
レフトは久しぶりに魔力を使い、一気に疲労を感じた。一息つき、その場に座り込んでしまった。

「…ある程度の相手なら片手が堕ちていても十分対応できる…だがあの化け物クラスだと…」

自分の現在の戦力を分析していた。
眉間にシワを寄せ難しい顔のレフト。

ふと人の気配を感じ横をみるとニナがいた。

「いたのね」

「怪我人がずいぶんと無防備ね。心配してすぐに駆けつけたのよ」

オメガはすっと近づきレフトに手を貸す。立ち上がれないことを悟ったオメガの優しさだ。

「たぶん負傷しててもあなたは単身で行動すると思ったわ。本調子ならわざわざ援軍には来ないわよ」

「…申し訳ない」

素直に謝るレフト。

「いいのよ。私たちはチーム。お互いをフォローするのは当然よ」

「うむ」

二人はレフトを連れてひとまず本部へ帰還した。伝令をシーキヨへ出し、レフトの無事と魔術士集団を追い払ったことの報告をした。アレサはレフトのことが気になっていたが、今は滅私の精神で目の前のことに集中した。


「お疲れ様ですレフトーラさん」

「お疲れ様です」

「負傷したそうで至急医務室へお願いしまーす」

本部の受付が変わったらしく、チャラい男が担当になったようだ。
男運が無いニナは要注意だよっと思うレフトとオメガであった。


医務室に入るとすぐさまに左腕を調べられた。外傷がないため見た目での判断ができない。


「詳しく調べますが、魔力とは別のエネルギーが左腕を蝕んでいるようです」

「…なるほど」

「魔力を使わなければ四~五年で完治しそうですが…」

「…ええ。そうはいかないんですよね…」

常に前線にいるレフトから魔力を奪うことは大幅な戦力ダウンを意味する。

「いっそ切断して高度な義手にする方法もありますが」

「義手だと圧縮した魔力に耐えられないんですよ。魔力が義手を受けつけないというか…すみません」

「ふむ、なかなか解決方法がないですね。やはりここは静養をすすめます」



機関の医師ではレフトの腕の治療は難しいようだ。行き詰まった状況にレフトはアレサの言っていたエンデへ行くことを思い出していた。

北へ向かう。

ネズミに打ち勝つには今の状態ではいけない。オメガやニナ、それにアレサには迷惑をかけられない。
医務室を出たレフトに二人は症状を問う。

「四~五年かかるそうだわ」

「でしょうね。それに戦わないことが前提でしょ」

「そうみたいだ」

「レフト、休め。悪魔の脅威はあるが、我々や機関の総力とアレサやシーキヨの協力があれば十分撃退できる。一人で背負うことはない」

「オメガの言う通りよ。私たちはチームであり組織の一員。もし立場が逆ならあなたは同じように言ってくれるでしょう」

「…」

「気になることがあるようだ。レフト、話すと楽になる」

「エンデに行けば腕が治るのか」

「エンデ? 北方のエンデ国のことかしら?」

「アレサか」

「症状がわかっていたようで、北を目指すよう言われて二人で行くつもりだったんだ」

「あの軍人なら幻獣も殴り倒しそうだものね。もし治療方があるなら私はそれに賛成よ。オメガは?」

「二人でエンデにたどり着くのはほぼ不可能だ。レフトは大丈夫だろうがアレサはエンデへ着く前に力尽きる。本当にアレサを想い、腕の治療を急ぐならエンデへ向かうのは我々だ」

「力尽きるって…あの人が…想像できないわ」

「だがみんなで一緒に向かって、もしあの化け物が復活したら…」

「そこはアレサに耐えてもらう他無い。だからこそ決断を急ぐ必要がある。向かうならすぐにでもここを立つべきである」

「決まったわね。私はすぐにでも出発できるわ」

「オメガ、ありがとう。化け物のことやエンデなどわからないことだらけだが、進むしかない。力を貸してほしい」

すると急にオメガは膝をつきレフトに従う意志を示した。

「心配ない、エンデへ行き腕を治療しよう。レフト、アレサは相手のために身を捨てる覚悟だ。アンドロイドの私が言うのはおかしいが、そんなことはさせないほうがよい」

「そうだね。行こうエンデへ」


次回へ続く

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ファンタジー/ストーリー5

雪矢酢
ファンタジー
この作品には転生系の要素はございません。 また、ループなどの構成を排除したシンプルで分かりやすい内容を目指しています。 ◇作品紹介◇ 作中最強の主人公や個性豊かなキャラクターが活躍するシンプルなお話です。 物語は最終章へ突入、滅びの運命に抗った者たちや世界の行方を見届けよう。 (内容紹介の詳細はお手数ですが第一期をご覧下さい) ※誤字脱字は可能な限りチェックしており不備は修正いたします。修正により本編内容が変更することはございません 表紙:イラストAC yumazi様より

ファンタジー/ストーリー2

雪矢酢
ファンタジー
転生しないファンタジー作品です。 第一期から読むほうがより作品を楽しめます。 謎は残さない、読者に結末を委ねない、後味の良い作品です。 ◇作品紹介◇ 魔法剣士が主人公のお話です。 ファンタジーをベースに、強い主人公や個性豊かなキャラクターが活躍するエンターテイメント風な物語です。 シンプルな構成でわかりやすいお話です。 (内容紹介の詳細はお手数ですがシーズン1をご覧下さい) ※誤字脱字は可能な限りチェックしており不備は修正いたします。修正により本編内容が変更することはございません。 表紙:イラストAC ガジャマル様より

ファンタジー/ストーリー3

雪矢酢
ファンタジー
注意! この作品には転生系の要素はございません。 第一期から読むほうがより作品を楽しめます。 隙間時間で読める、謎は残さない、読者に結末を委ねない後味の良い作品を目指しております。 ◇作品紹介◇ 魔法剣士が主人公のお話です。 ファンタジーをベースに、強い主人公や個性豊かなキャラクターが活躍するシンプル構成でわかりやすいエンターテイメント風な物語です。 組織から離れた主人公の活躍にご期待下さい。 (内容紹介の詳細はお手数ですが第一期をご覧下さい) ※誤字脱字は可能な限りチェックしており不備は修正いたします。修正により本編内容が変更することはございません。 表紙:イラストAC arayashiki様より

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

処理中です...