ファンタジー/ストーリー

雪矢酢

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第一章

二十話 武で語れ

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「それをカレンに飲ませて下さい」

「…ゼットなのか?」

すると奥から独眼の男が現れる。

「レフトさん、やはりあなたがソサリを倒してくれましたか」

「これはどういうことなんだ?本当にゼットなのか…」

「ええ、私です。ここでは注射されたり運動させられたりでしたが、外出さえしなければ厚遇すると科学者に言われて…監禁されてはいましたが無事でした」

ゼットは元気そうだ。

レフトは受け取った小瓶の蓋を開けレンに飲ませる。透明な液体はどうやら解毒薬のようだ。

「ここらの防衛システムは強力で、私も誤作動により何回も死にかけました」

レンの荒く苦しそうな呼吸が安定していく。薬により回復しているようだ。

「カレン、大丈夫か。君を探すつもりが敵に捕まってこの様だよ」

ゼットはカレンの保護者のようで、彼女がシーキヨへ派遣されてすぐに自分もシーキヨに転属願いを申請。


「とりあえずここを出ましょう」

ゼットは負傷したスコーピオンを担ぎ上げ応急措置をする。意識が戻ったスコーピオンは自分で歩けることを告げたが早急に医者にみせたほうがよさそうだ。

「ゼット…彼女はカレンであるのだが、彼女ではないんだ」

レフトはどう伝えればよいかわからず言葉に困っていた。

「ええ、わかっております。しかし今は脱出しましょう。詳細は彼女から聞きます」



機械墓地の調査は深部に潜伏していた鋼鉄のさそり残党ゲーハを討ったことでモンスター騒動を含め完了した。

機関にはゼットが戻った。
そして終戦から一連の出来事の説明を国家が機関に要求してきた。

レフトはシフ、ゼット、モモを連れて国家の召集に応じた。レンやスコーピオンも参加を願ったが大事をとり静養を命じられた。

レフトたちは大広間へ通された。
そこは豪華な装飾品があり人数分の椅子が用意されていた。
レフトは前にも来たことがあるような錯覚を感じていた。機関はシーキヨの国家関係者と話すのは初めてであり、レフトは適度な緊張感があった。皆もそれを察知しており、若干空気が重い。

そんな空気を吹き飛ばす勢いで扉が開き、鋼鉄の鎧で武装した騎士が二人、フードで顔を覆い戦闘服を着た女性が入ってくる。

「お集まり下さりありがとうございます。復興機関の皆様、無礼をお許し下さい」

そう言い放つと騎士たちは抜刀して剣を構える。女性は格闘技が得意なようでファイティングポーズをとる。
機関の四人は突然の事態に戸惑った。

「よくわからないが鎧の騎士を倒せばいいのか」

シフは剣を抜刀して戦闘体勢になる。

「言葉で議論するよりこちらのほうが楽でいいわ。アル、お願い」

女性が騎士の一人に合図する。

「我が名はアルフレッド、いざ」

「ご丁寧にどうも、復興機関シフです」

二人の戦いが始まる。
お互いに隙のない斬撃が繰り広げられ一瞬の油断で勝敗が決まるようだ。

「レフトさん、このままだとシフ殿は負けますぞ。あの鎧を何とかせねば」

「うむ」

完全武装している騎士アルフレッドは剣技こそ並みではあるが、頑丈な鎧に守られているため守備力が高い。
シフは身軽で手数が多く有利に攻めているがここぞという一撃がない。
このままだと疲れたシフにアルの一撃で勝敗が決まってしまう…ゼットはそう予測したのだ。レフトもそれはわかっていた。

「ちっ…鎧の騎士を相手にするとは思わなかったよ。そもそも国家の者となぜ戦わなきゃいかんのよ」

「ふっ…それは私とて同じ事よ。さあシフ、かかってこい」

アルフレッドは勝負を決めるつもりだ。
今から強力な攻撃を仕掛けるぜ、どっちが勝つか勝負だ!
ということを姿勢が示している。

「受けてたつよ」

シフは短剣を取り出し二刀の構えをみせた。
右手に長剣、左手の短剣は逆さで構えた。
周囲はざわつき、女性は腕を組み、戦況をみて口元がニヤニヤ笑っているのが確認できる。


「いくぞ」

「こい、シフ」


アルに突撃するシフ。
剣を両手持ちにし、アルは大きく振り上げる。
その間合いにあえて突っ込むシフ。
勢いよく剣を振り下ろすアル。
右手の剣で受けるシフだが、両手持ちで威力が増した一撃にシフの剣は折れてしまう。

「覚悟っ!」

そのまま切り進め右肩に刃が命中し血がにじむ。

「武器を捨てよ、これ以上は無意味であり、この勝負は我の勝ちだ」

勝利の雄叫びが周囲に響くのだが皆、冷静に戦況を見つめている。

「…少々痛いが我慢してくれ」

するとシフは身体をスルリと後退させ、折れた剣と逆手に構えた短剣を鎧の肩当て部分下の右脇へ突き刺す。
攻撃されたことがない箇所からのダメージにアルは衝撃を受けて剣を落とし膝をついてしまう。
シフは重厚な兜を奪い、刺した短剣を抜き顔に突きつける。

「…負けを認める」

アルはそう告げると座り込んでしまった。

「武器破壊でなく、振り下ろした勢いでそのまま右肩を切り裂けばあなたが勝っていたでしょう」

シフは勝敗よりも大切なことがあると感じ、座り込んだアルに手を貸す。


「よい、よい、よき勝負であった」


いきなり広間に響く拍手。
顔を覆った女性が二人に拍手をしている。


「レフトさん、真剣勝負はよいものね。本気と本気がぶつかる瞬間はいつみてもよいものですわ」


女性の独特な物言いにレフトは沈黙しているが女性の正体には気づいたようだ。

もう一人の鎧騎士が剣を構える。こちらの騎士は盾を持ち、攻守バランスのとれたスタンダードな戦闘スタイルかと思われる。

「カールがお相手いたす。覚悟」

騎士カールは悠々と名乗り出た。
しかし次の瞬間。

ドン! という轟音とともに衝撃波が大広間に放たれた。急な出来事に全員が驚き、一斉に構え事態を把握しようとした。

「遊びはおしまいにしようか」

レフトが魔力を解放したのだ。
青く発光するレフトの魔力は広間を包んだ。
皆がその圧倒的な魔力にしり込みしているが女性は一歩も引かずレフトに近づく。

「あらあら無粋ね。ご機嫌ななめかしら」

歩きながら女性は手を上げて振り下ろす。
 すると似たような衝撃波がレフトの魔力を貫通する。
圧縮された衝撃波はかまいたちのような真空の刃となりレフトを襲う。
顔を傾けて回避するレフトだったが、今の一撃で女性の正体が完全にわかったようだ。

「…」

レフトは魔力を消失させて武装を解く。

次回へ続く
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