ファンタジー/ストーリー

雪矢酢

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第一章

八話 託された女戦士たち

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集落を奪うためか、滅ぼすためか。
砂嵐団が攻めてきたのだ。

砂嵐団は門の前に火矢を配備しており、うかつに行動できない。モモは住民を集め、戦闘に巻き込まれぬように奥へ避難誘導している。ミツキは見張り台からリーダー格の三人を狙撃すべく狙っている。だがワルはそれに気づいており、そっちが攻撃するならこっちも仕掛けるといった緊張感のある状況だ。

レフトはモモと合流する。

「誘導すまない、なるべく奥へ頼む。思ったより兵が多くて少々荒っぽくなるのだが一帯を吹き飛ばすほうが被害を最小限に抑えられる気がする」

「はい、中途半端な攻撃ですと、ここは火の海になります。一気に殲滅するのが最善。よき判断かと思います」

二人の会話を耳にして、困惑するリムル。

「大丈夫だリムル。集落を破壊したりはしない。そのために我々は門外に出て、できるだけ逃亡時間を稼ぎ、敵を集落から遠ざける必要がある」

「わかりました」

火を放たれ内部に突撃されると多大な被害が出てしまう。盗賊団が門の前に陣を展開したのは
戦いの主導権を掌握するためだ。防衛するほうはこうなると厳しい決断を迫られる。

「リムル、いくぞ」

レフトはリムルと門へ向かった。


一方
布陣する盗賊団側は…

 「沈黙しておりますな」

「中で議論をしているのでしょう」

ゲーハと狂気のレインを筆頭に、砂嵐団の頭ワルがいる。

まさにこれから狩りをする、そんな様子だ。門をじっと見つめ、時折見張り台をチェックしている。


レフトとリムルは門を開けて表に出る。
二人を確認した盗賊団は一斉に武器を構える。

一触即発。

ワルは動じることもなく状況を正視している。ゲーハとレインも同様だ。
二人はゆっくりと歩き、ある程度のところで止まる。二人は強烈な殺気を受けている。リムルは震えを必死に隠そうとしている。そんな彼女にレフトは微笑む。
まるで大丈夫だ、落ち着けと言っているようだ。

「この集落を侵略することは止めて下さい。集落の者とあなた方で協力をして、共にここを豊かな地にしてほしい。それはできないでしょうか」

レフトは呼びかけるが、はい、わかりました、とはならない。むしろ盗賊団は挑発されていると勘違いさえしている。

「お前の主張はわかった。しかし、我々は悪党だ。欲しければ盗むか奪うだけの力の世界で生きてきた存在だ。だからみんな仲良くのお前の主張は却下だ。抵抗してみせろよ、ここを守りたいのなら戦え」

ワルは悪党らしい言葉を並べレフトたちを挑発する。レフトは微動だにせず、周囲を見渡し、遠距離攻撃の配置を探している。

「貴様らなど怖くはない、この地への侵略は断じて許さぬ。抵抗? ここを守れだと? 笑止」

リムルは盗賊団が攻めてこなければ抵抗も防衛もないと主張する。もっともなことであるが、相手は悪党。それをニヤニヤと笑いさらに挑発を続ける。

「勢いがある姉ちゃんじゃねえか。相手をしてほしいぜ」

ワルはリムルに揺さぶりをかける。
リムルは受けて立つと言わんばかりに抜刀する。レフトはそれを黙ってみている。

「おお、勇ましいねえ。こちらも応えよう、レインいけ」

すると二本の短剣を抜刀して、レインが待ってましたと飛び出した。
金属音が周囲に響く。

レインの素早い斬撃を冷静に処理し、反撃するリムル。
互角の戦いをしている二人。

「くっくっくっ動きが固いねえ。もっとスマートに攻撃してほしいもんだねえ」

そう言うとレインは適度な距離をとり刀身を舐めてリムルを挑発する。
それをみたリムルは剣を強く握って怒りを鎮める。

「こんな風にね!」

踊るような動きからレインは短剣をリムルめがけて投げる。勢いがついた短剣は鎧の上半身部分の隙間に突き刺さる。一瞬だけ怯むリムルだがすぐ短剣を抜き、レインとの距離をつめる。

「痛いだろう、鎧は強固なだけに、崩した時の達成感が最高なのさ。ゾクゾクするよ」

レインは人を拷問したりするのが趣味らしく、ついたあだ名が狂気のレイン。優れた洞察力で弱点を見定めそこを狙う堅実な戦いをする。異性を洗脳することができ、戦力を無力化することも可能。

「この程度のダメージなど問題ではない」

リムルは休む間もなくレインへ攻撃を続ける。それを舞うように回避し時には受け、反撃を狙うレイン。

緊迫した状況で戦う二人を全ての人が注目している。この二人の戦いの勝敗が集落と盗賊団の命運を左右しそうだからだ。
実力はほぼ互角。
リムルは短剣のダメージがあるのだが怯まず攻めている。見張り台のミツキはリムルを気にしつつ、サポートすべきかワルを暗殺するか、困惑しているようだ。

斬撃がより激しくなる。
それはこの戦いの決着が近いことを意味する。

二人は一旦距離をとる。

「決着が近いようだねえ」

「…負けられない」

お互いに武器を構える。


ワルはゆっくり腕組みをする。

二人は一気に距離をつめる。
リムルは叫びながら力任せに剣を振り下ろす。しかし、レインは残像のようで手応えがない。戸惑うリムル、その背後から短剣を突き刺すレイン。
リムルはとっさに反応し短剣は腹部に刺さる。急所を外れたことで反撃をするリムル。
刺している腕を抑え…

「捕まえたぞ、これで終わりだ」

剣でレインの腕を切断する。
絶叫するレインはそのまま倒れ込む。
リムルは腹部を抑えて膝をつく。

相討ち

ワルは手をあげて弓兵に合図する。
その一瞬にミツキは毒針をワルへめがけて投げつける。ワルはそれをギリギリで躱す。
すぐさま弓兵がミツキに応戦してミツキは肩を負傷する。ゲーハはレインに駆け寄り治癒薬を飲ませる。切断された腕を回収して、二人は前線から後退していく。
ワルはさらに合図を出して火矢が準備される。リムルやレフトもろとも門に火を放つようだ。レフトはゆっくりリムルそのそばにいき治癒魔法をかける。

「…すまないレフト殿」

レフトは微笑みポンポンと優しく肩を叩く。
状況は火矢を向けられて二人にとっては最悪だ。

「二人とも焼け死にたくなければ門を開けろ、こちとてここを焼きたくはない」

ワルは自分が戦場を支配しているかのような物言いだ。レインは倒れたが、ミツキによる暗殺を阻止して、レフトとリムルは火矢の前に屈している。

レインの腕はゲーハが復元するだろう。

勝った、この地は我々のもんだ。
そう表情がもの語っている。


その時、上空にかなり遠方より照明弾があがる。全員がそれを確認する様は、まるで花火大会のような光景だ。

…こんな世の中じゃなければねぇ…
賑わう花火大会はいつ戻ってくるかねぇ…



レフトは照明弾を待っていたのだ。
ワルは状況がわかっていないようだ。

「リムル、そばにいてくれ。これより敵を殲滅する」

レフトは剣を構えた。

「おい、抵抗すると火だるまにすんぞ、武器を捨てろ」

ワルは状況が一変したようで取り乱している。

レフトは剣をなぎ払う。
すると強風が発生して火は消えてしまう。
さらにそのまま剣を両手で持ち魔力を集中する。
剣を中心にレフトとその一帯が青白く発光している。

敵が思うことはただ一つ。


ヤバい


止めようにも強大な魔力が防壁となり二人を守っている。

「そうか、住民を逃がしていたのか、
お前らは時間をかせいでいたのかーーーーっ」


「心配するな、死にはしない」

レフトはニッコリ笑い剣を地面に突き刺した。
刺さった箇所から魔法陣が形成され、剣からの衝撃波で大半の人は吹っ飛び、門も激しく損傷。その後魔法陣が怪しく発光して、陣内で爆発が起こる。残った兵は全滅。大怪我をして負傷者多数。舞い上がった石ころや植物はパラパラと音をたて落ち、戦場は一瞬で地獄化した。

次回へ続く
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