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7.  アレクとなった俺、殿下から逃げる

―― エミリー嬢との和解 3 ――

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 俺が転生者だと知らないエミリー嬢は、肉親だから、真剣に話し合えば、わかりあえると思っているようだ。転生者なのだから、当然、ソフィア殿下と過ごした記憶を持っていない。
 以前会ったときのソフィア殿下の冷たい態度からすると、本物のアレクであっても、姉と弟としての交流が持てていたのか、きわめて疑わしい。

「いや、姉上と親しくしていたような記憶は、思い浮かばないな」
「……そうですか。――でも、幼い頃なら、覚えていなくて当たり前です」
 エミリー嬢は、赤ん坊の頃や、3、4歳までなら、覚えていなくても仕方ないし、逆にソフィア様の方はもう成長されていたから、アレク殿下の幼い頃のことを覚えているのではないかという。
 ……どうなんだろう? 
 逆にアレクについてのひどい記憶を、たくさん持っているのではないだろうか。

「――とにかく、わたしがあなたに助けられたことを、ソフィア様に伝えます」
「会ってもらえるとは、思えないが……」
 俺は、ソフィア殿下の冷酷なまなざしを思い浮かべた。
「――もし、ソフィア様が会ってくださるということになったら、わたしも同席しますので、会ってくださいますか?」

 俺は、迷った。
 ソフィア殿下が俺(アレク)に対する見方を変えるとは思えない。が、一度は会わなければ、エミリー嬢やグレイ伯の助けを得られそうにない。

 俺は、決心した。
「わかった。そこまでしてくださるのなら、会おうと思う。……よろしく、お願いする」
 ソフィア殿下と会うための段取りは、すべてエミリー嬢にまかせることにした。エミリー嬢は。ソフィア殿下が会ってくれることを、まったく疑っていないらしい。    
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