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4.  アレクとなった俺、家族に会う

―― テレーズの家 ――

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 案内された家は、お世辞にもきれいとはいえなかった。おそらく築二十年以上はたっている、薄汚れた板張りの家だった。

 王都のなか、平民が主に住んでいる地区内で、さらに貧しいとされる貧民街の一画に、アレクの実の母の家があった。
 広い通りから、この家に通じる路地に入ると、住民が捨てたのか、カビの生えたパンやくさった野菜、割れたうつわのかけらなどが落ちていて、歩くそばから、異臭と、靴の底に雑多な物があたる、ガサゴソという嫌な音がした。
 明るい月や星、昼間なら太陽が見えなければならない南側に、光をさえぎるように大きな商家、倉庫が立ち並んでいた。魔法で地面を照らせなければ、暗闇のなかを手探りで歩くはめになるところだった。

 テレーズについて行き、家のなかに入った。
 入ってすぐのところにストーブが置いてあったが、火は入っておらず、ストーブの上には、ぶ厚い書物が、数冊置かれていた。
 奥のほうに無地の衝立てがあり、その向こうに、誰かがいる気配があった。
 小さなテーブルと、そのそばに椅子替わりにしているらしい、果物か野菜が入っていただろう木箱がふたつあった。
 壁際には、扉が壊れて、ななめにぶらさがっているクローゼットがあり、なかに数着、しわのよった衣服が掛けてあった。寒さをしのぐコートのようなものは、一着もなかった。

 衝立ての端からはみだしているベッドの足がみえた。
 あそこに、アレクの母親がいるのだ。
 俺は、つばを飲み込んだ。
 俺は、アレクではない。どういう態度をとればいいのだろう?
 もしも、息子ではないと気づかれたら……。
 生まれてわずかの間しか、そばにいなかったというし、たぶん、大丈夫だろう。俺は、無理やり楽観的な方向に考えを向けた。不信感をもたれたら、早々に退散し、二度とここに近づかなければよいだけだし……。

 テレーズが衝立ての向こうに、声をかけた。
「お客さんが来てるんだ」
 か細く低い、しゃがれた女性の声が返ってきた。
「お友だち? 病気がうつるといけないから、外で会ったほうがよくない?」
「母さまに会って、挨拶がしたいって」
「待ってね……」

 声といっしょに、ゼイゼイという、かろうじて喉を通過している息の音がする。今にも喉がつまりそうな、そんな音だ。俺のばあちゃんも、寝込んだとき、こんな息をして、家族みんなを心配させていた。
 何か薄物をはおる気配がした。
「いいわよ」
 俺は、テレーズの背後に立つような形で、衝立ての向こうをのぞき込んだ。
「こんばん――」
 その中年の女性は、はっと息をのんだ。

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