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3. アレクとなった俺、陰謀に巻きこまれる
―― 殿下の陰謀 8 ――
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「ど、どうぞ、こちらの椅子へ」
どもりながら、大型の長椅子を示す。椅子の前、小型の応接テーブルの向こう側には、黒の魔法着を着た、グスタフより、さらに若い男が立っていた。
こいつが、結界を張っているのだろう。結界が役に立たなかったことに怒っているのか、不機嫌な顔をしている。
「レン君は、向こうの椅子に――」
グスタフは、魔法使いに声をかけると、俺の向かい側にすわった。
「王室の、ある御方からの、伝言です」
俺は、グスタフの表情を観察しながら、口を開いた。
「ど、どうも。……光栄です」
グスタフは、心配そうな表情で、次の俺の言葉を待っている。
「実は、あなたの命をねらっている者がいる」
「ええっ――」
グスタフの顔の青白さが増した。膝の上にのせられたこぶしが、さらに強く握りしめられる。
「知っての通り、いまは王位継承権争いが、はげしくなっています。陛下の体調も、すぐれない」
俺は続けた。
「セルゲイ派、ニコライ派、クレア派が、激しく争っている」
グスタフは、うなずいた。
俺は、万事心得ているかのように、
「あなた方、グレイ伯爵家は、どの陣営にも属していなかった」
グスタフは、眉を寄せた。額にも少し、しわができている。
「いまでも、そうですが……」
坊ちゃま、と脇に控えていたエルフが、あわてたように声をかける。どうやら、グレイ伯爵家がセルゲイ派についたことは、知らされていなかったらしい。
「エルフ殿は知っていたようですな。――グレイ伯爵は、セルゲイ殿下支持にまわった」
「そんな、……あれほど、父上は、王位争いには加わらないと――」
グスタフは、はっと気づいて顔をあげた。
「わたしのせいか?」
俺はうなずいて、続けた。
「あなたが、いま、身を隠しておられる理由、交易違反――許可の下りていない物品の輸入を、セルゲイ派にかぎつけられてしまった」
「そんな、――父上は厳しい方だ。わたしのことで、節を曲げるなど……」
グスタフが、エルフのほうを向くと、エルフは黙って首を振った。
グスタフは、愕然とした表情で、首を振り、一瞬眼をつぶった。
「わ、わたしの命をねらっているのは、ニコライ派かソフィア派のものか?」
「はっきりとは、申せませんが、王族の誰かであることは、確かです。もちろん、自分に類が及ばぬよう、繋がりのない者を、暗殺者にしている……」
「ど、どうしたらいい?」
グスタフは、さらに青ざめて続けた。
「3桁にみたない額の交易違反など、罰金をいくらか払って、謹慎しておれば、数年で復帰できる。――辺境での事件など、王都では話題になることもあるまい、と踏んでいたんだ!」
「平民ならそうでしょうが、……貴族である領主の一族がやったとなれば、厳罰を処さねばならない。……そうしないと、示しがつかない」
「わ、わたしなら、罰をうけても……」
「もう遅い。――辺境伯は、知りながら、あなたに厳罰をくださなかった」
「王都の貴族議会で、おおやけにされれば、爵位の降格も、まぬがれまい。――それだけで終わればよいが、辺境拍は敵も多い。領地の豊かな地域を召し上げられる恐れもある。――意図的に罪を隠したとされれば、あなたの国外追放もありうる」
「そ、そんな……」
俺は、そこで身を乗り出した。
「わたしが、王都から伝言をもってきたのは、それを防ぎ、辺境伯に王位争いから離れていただくためだ」
どもりながら、大型の長椅子を示す。椅子の前、小型の応接テーブルの向こう側には、黒の魔法着を着た、グスタフより、さらに若い男が立っていた。
こいつが、結界を張っているのだろう。結界が役に立たなかったことに怒っているのか、不機嫌な顔をしている。
「レン君は、向こうの椅子に――」
グスタフは、魔法使いに声をかけると、俺の向かい側にすわった。
「王室の、ある御方からの、伝言です」
俺は、グスタフの表情を観察しながら、口を開いた。
「ど、どうも。……光栄です」
グスタフは、心配そうな表情で、次の俺の言葉を待っている。
「実は、あなたの命をねらっている者がいる」
「ええっ――」
グスタフの顔の青白さが増した。膝の上にのせられたこぶしが、さらに強く握りしめられる。
「知っての通り、いまは王位継承権争いが、はげしくなっています。陛下の体調も、すぐれない」
俺は続けた。
「セルゲイ派、ニコライ派、クレア派が、激しく争っている」
グスタフは、うなずいた。
俺は、万事心得ているかのように、
「あなた方、グレイ伯爵家は、どの陣営にも属していなかった」
グスタフは、眉を寄せた。額にも少し、しわができている。
「いまでも、そうですが……」
坊ちゃま、と脇に控えていたエルフが、あわてたように声をかける。どうやら、グレイ伯爵家がセルゲイ派についたことは、知らされていなかったらしい。
「エルフ殿は知っていたようですな。――グレイ伯爵は、セルゲイ殿下支持にまわった」
「そんな、……あれほど、父上は、王位争いには加わらないと――」
グスタフは、はっと気づいて顔をあげた。
「わたしのせいか?」
俺はうなずいて、続けた。
「あなたが、いま、身を隠しておられる理由、交易違反――許可の下りていない物品の輸入を、セルゲイ派にかぎつけられてしまった」
「そんな、――父上は厳しい方だ。わたしのことで、節を曲げるなど……」
グスタフが、エルフのほうを向くと、エルフは黙って首を振った。
グスタフは、愕然とした表情で、首を振り、一瞬眼をつぶった。
「わ、わたしの命をねらっているのは、ニコライ派かソフィア派のものか?」
「はっきりとは、申せませんが、王族の誰かであることは、確かです。もちろん、自分に類が及ばぬよう、繋がりのない者を、暗殺者にしている……」
「ど、どうしたらいい?」
グスタフは、さらに青ざめて続けた。
「3桁にみたない額の交易違反など、罰金をいくらか払って、謹慎しておれば、数年で復帰できる。――辺境での事件など、王都では話題になることもあるまい、と踏んでいたんだ!」
「平民ならそうでしょうが、……貴族である領主の一族がやったとなれば、厳罰を処さねばならない。……そうしないと、示しがつかない」
「わ、わたしなら、罰をうけても……」
「もう遅い。――辺境伯は、知りながら、あなたに厳罰をくださなかった」
「王都の貴族議会で、おおやけにされれば、爵位の降格も、まぬがれまい。――それだけで終わればよいが、辺境拍は敵も多い。領地の豊かな地域を召し上げられる恐れもある。――意図的に罪を隠したとされれば、あなたの国外追放もありうる」
「そ、そんな……」
俺は、そこで身を乗り出した。
「わたしが、王都から伝言をもってきたのは、それを防ぎ、辺境伯に王位争いから離れていただくためだ」
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