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3.  アレクとなった俺、陰謀に巻きこまれる

―― 殿下の陰謀 7 ――

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 ドアの奥は、しんとしており、何の気配もなかった。
 全員が上の階にいて、気づいていないのだろうか? 
 もう一度、強くドアを叩いた。やはり、何の反応もない。

 俺は、探知魔法を使い、中の様子を探った。
 ――なんだ、そういうことか。――二階に、まだ三人ともいた。
 そのうちのひとりが動き始めた。階段を下りているのか、動きだした人物の居場所が二階なのか一階なのか、はっきりしない。俺のつたない魔法では、探知対象者の高低の位置を、正確につかむのは難しかった。

 と、いきなり強い反応が、一階の奥の部屋に現れた。ドアに向かってくる。かすかに、靴音も聞こえる。
 ――来た! 
 ドアのすぐ裏側に、その人物がいた。そのまま、ドアを開けるのかと思ったが、じっと立ったまま動かない。警戒しているのか? それとも、居留守を使おうか、迷っているのか?

 俺は、ドアを叩きながら、叫んだ。
「王都より、使者として来た者だ! 開けてもらえないか?」
 ドアの中央部にある長方形の覗き穴の向こうから、誰かの両眼が覗いていた。
「お待ちください。……いま、開けますので」
 ドアが、きしむような音をたてて開いた。

 俺は、息をのんだ。
 そこに立っていたのが、耳の長い、エルフと呼ばれる種族の女性だったからだ。
 人間語が通じるのだろうか? 
 ――いや、確か、さっき普通にしゃべっていた。
「王都から来た。アレクセイ・ゴッホだ。グスタフ殿に合えないか?」
「……これは、アレクセイ殿下。失礼いたしました」
 そのエルフは、スカートの左右を持って広げ、少し膝を曲げておじぎをした。
「――こちらへどうぞ」
 俺は、グスタフに話すことを頭のなかで整理しながら、エルフのあとに続いた。

 階段をのぼり、二階のグスタフの居室まで案内すると、ノックをしてドアを開け、エルフは、部屋のなかに入るよう、うながした。
「よ、ようこそ。――アレク殿下」
 薄い茶髪の若い男が、立ち上がって、右手を差し出した。この男がグスタフだった。俺が考えていたのより若いし、前世で知っていた私腹を肥やしていた奴らのように、腹が突き出てもいない。
 グスタフと握手したあとの手が、汗で湿っていた。俺だけでなく、グスタフも緊張しているようだった。

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