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1. 俺、異世界に巻きこまれる
―― 間違って、転生された ――
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俺は、首をかしげた。何を間違ったというのか?
「アレク様の身体に、別の魂が入ってしもうた」
老女は、さらに蒼白になった顔で、俺に告げた。
「アレク様の身体?」
俺は、自分の身体をさわってみた。妙に筋肉質で、変だとは思っていた……。
腹や背中に手をまわしてみる。腹筋がかたい、背筋も分厚い。
確かに、俺の身体じゃない。俺はこんなにがっしりしていない。
腕を曲げると、信じられないくらい大きな力こぶができる。運動ぎらいの俺に、そんなものができるわけがない。
「この身体は何なんだ?」
嘘だろ。いくら別世界でもこんなことって、あるのか?
腕をぐるぐるまわしてみる、ちゃんと動く。ひざを曲げる、伸ばしてみる、ちゃんと動く。
意識は、しっかりしている……これは、本当に別人の身体だ。なぜか、どうしてか、他人の身体のなかに閉じ込められてしまった。
「お主は、何者じゃ?」
年取ったほうの老女が問いかけてきた。
「だから……耕平だ! 日本人だ!」
老女たちは、まだ青白い、ひきつったような表情のまま、顔を見あわせた。呆然として、どうしたらよいのか、分からないようにみえる。
俺は、自分が事故で死んだらしいこと、そのあと意識がなくなり、目覚めると、ここに居たことを話した。
老女たちは、少し落ち着いたのか、部屋のすみに片付けられていた、背もたれのない椅子をふたつ取ってきて、座って耳を傾けている。
年取ったほうの老女が深いため息をついた。
「なんて、運が悪い……」
中年の女が、うなずく。
「ほんとうに」
俺は、どういうことだと話をせかした。
中年の女が、ゆっくりと噛んで含めるような調子で話しはじめた。
「我らは、死んだ人間を魔法で甦らせるように、依頼を受けた」
そこでひと呼吸、間をあけ、続ける。
「死体の損傷は、修復魔法で直した。そのあと、魂を呼び戻せれば、生き返るはずじゃった。――亡くなってから半日も経っていなかったから、まず大丈夫なはずじゃった。戦の際は、こういうことは、何度もやっていたし、よほどひどい損傷でなければ、成功するはずじゃったのじゃ……」
「ところが、同じときに、お主が死んだ。ひとつの世界で死んだ人間の魂は、いったん、世界の外に出ることになっておる。そこから、輪廻の流れに入って、また元の世界に生まれ変わる。アレク様の亡くなられたときに、たまたま、お主が死んで、魂が世界の外に出た。甦らせるためには、輪廻の流れに入る前に魂を呼び戻さないといけない……。たまたま、同じときに世界の外にでた魂を、我らが、間違ってアレク様の身体に呼び戻してしまった。こんなことが、起こるとは……。こんな偶然、ありえないのじゃが……」
ありえないと言っても、現に起こっている。じゃあ、輪廻転生って本当にあったのか。何事もなければ、もといた世界に生まれ変わり、別の人生をおくれたのだ。
なんてこった。これから、どうなるんだ?
「申しわけないが、元へは戻せんのだ」
考えてもみない、きびしい現実だ。
「元の世界では、お主は、死んでいる。今の話では、身体の損傷も激しい……お主の世界では死体は、土に埋めるのか?」
「いや、焼くことになっている」
「それでは、身体は残っておるまい。残っておっても、わしらの魔力では、もとに戻せんかったじゃろう」
「ほんに。弱ったのう」
老女たちは、また頭をかかえ、ため息をついた。
「俺を、どうしたらよいかで、困っているのか?」
「再生の依頼主が、この国の王族での。秘密裏に頼まれたのじゃ。……失敗したと知れたら、わしらふたりとも、命はない」
中年の方の女が続ける。
「逃げてもよいが、この年で王城を出たら、野垂れ死ぬか、追手に殺されるか、どちらかじゃろう」
老女たちは、また深いため息をついた。
老女たちは、俺のほうをチラチラと見ながら、顔を見合わせ、何か言いたそうにしている。
俺は、自分から聞いてみた。
「何か、あるのか?」
これ以上、不運なことが、あるのだろうか。
俺は、別人の身体になってしまったこと以上の不幸を、耳にする準備をした。
「お主に、無理を承知で頼みたい……」
姉のほうの老女が、何事か決意した表情で話し出した。
「アレク様になってほしいのじゃ」
「アレク様の身体に、別の魂が入ってしもうた」
老女は、さらに蒼白になった顔で、俺に告げた。
「アレク様の身体?」
俺は、自分の身体をさわってみた。妙に筋肉質で、変だとは思っていた……。
腹や背中に手をまわしてみる。腹筋がかたい、背筋も分厚い。
確かに、俺の身体じゃない。俺はこんなにがっしりしていない。
腕を曲げると、信じられないくらい大きな力こぶができる。運動ぎらいの俺に、そんなものができるわけがない。
「この身体は何なんだ?」
嘘だろ。いくら別世界でもこんなことって、あるのか?
腕をぐるぐるまわしてみる、ちゃんと動く。ひざを曲げる、伸ばしてみる、ちゃんと動く。
意識は、しっかりしている……これは、本当に別人の身体だ。なぜか、どうしてか、他人の身体のなかに閉じ込められてしまった。
「お主は、何者じゃ?」
年取ったほうの老女が問いかけてきた。
「だから……耕平だ! 日本人だ!」
老女たちは、まだ青白い、ひきつったような表情のまま、顔を見あわせた。呆然として、どうしたらよいのか、分からないようにみえる。
俺は、自分が事故で死んだらしいこと、そのあと意識がなくなり、目覚めると、ここに居たことを話した。
老女たちは、少し落ち着いたのか、部屋のすみに片付けられていた、背もたれのない椅子をふたつ取ってきて、座って耳を傾けている。
年取ったほうの老女が深いため息をついた。
「なんて、運が悪い……」
中年の女が、うなずく。
「ほんとうに」
俺は、どういうことだと話をせかした。
中年の女が、ゆっくりと噛んで含めるような調子で話しはじめた。
「我らは、死んだ人間を魔法で甦らせるように、依頼を受けた」
そこでひと呼吸、間をあけ、続ける。
「死体の損傷は、修復魔法で直した。そのあと、魂を呼び戻せれば、生き返るはずじゃった。――亡くなってから半日も経っていなかったから、まず大丈夫なはずじゃった。戦の際は、こういうことは、何度もやっていたし、よほどひどい損傷でなければ、成功するはずじゃったのじゃ……」
「ところが、同じときに、お主が死んだ。ひとつの世界で死んだ人間の魂は、いったん、世界の外に出ることになっておる。そこから、輪廻の流れに入って、また元の世界に生まれ変わる。アレク様の亡くなられたときに、たまたま、お主が死んで、魂が世界の外に出た。甦らせるためには、輪廻の流れに入る前に魂を呼び戻さないといけない……。たまたま、同じときに世界の外にでた魂を、我らが、間違ってアレク様の身体に呼び戻してしまった。こんなことが、起こるとは……。こんな偶然、ありえないのじゃが……」
ありえないと言っても、現に起こっている。じゃあ、輪廻転生って本当にあったのか。何事もなければ、もといた世界に生まれ変わり、別の人生をおくれたのだ。
なんてこった。これから、どうなるんだ?
「申しわけないが、元へは戻せんのだ」
考えてもみない、きびしい現実だ。
「元の世界では、お主は、死んでいる。今の話では、身体の損傷も激しい……お主の世界では死体は、土に埋めるのか?」
「いや、焼くことになっている」
「それでは、身体は残っておるまい。残っておっても、わしらの魔力では、もとに戻せんかったじゃろう」
「ほんに。弱ったのう」
老女たちは、また頭をかかえ、ため息をついた。
「俺を、どうしたらよいかで、困っているのか?」
「再生の依頼主が、この国の王族での。秘密裏に頼まれたのじゃ。……失敗したと知れたら、わしらふたりとも、命はない」
中年の方の女が続ける。
「逃げてもよいが、この年で王城を出たら、野垂れ死ぬか、追手に殺されるか、どちらかじゃろう」
老女たちは、また深いため息をついた。
老女たちは、俺のほうをチラチラと見ながら、顔を見合わせ、何か言いたそうにしている。
俺は、自分から聞いてみた。
「何か、あるのか?」
これ以上、不運なことが、あるのだろうか。
俺は、別人の身体になってしまったこと以上の不幸を、耳にする準備をした。
「お主に、無理を承知で頼みたい……」
姉のほうの老女が、何事か決意した表情で話し出した。
「アレク様になってほしいのじゃ」
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