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1. 俺、異世界に巻きこまれる
―― 突然、事故に ――
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しまった!
乗っていたバイクがクルマにはねられたとき、俺はまだ意識があった。
いつもなら、こんな無茶はしなかった。
四車線の道路で、中央分離帯の切れ目を垂直に横切って対向車線に入ったとき、真横からクルマが来た。
いつもなら一時停止をし、ゆっくり道路をよこぎったのだ。
が、今朝は雨が降っていたうえに、家を出るのが遅れた。普段は、自転車通勤や徒歩通勤の人々が、雨でクルマに切り替えたせいか、交通量も増えていた。一時停止をしてもしなくても、この場所でクルマが迫ってくることはなかった。田舎で、交通量がそれだけ少なかったのだ。
普段どおりなら、分離帯の切れ目からクルマが見えていなければ、そのまま入っても大丈夫なはずだった。
油断していた。
本当に、はかったようなタイミングで、俺のバイクが対向車線に突っこんだとき、クルマが来た。
耳をつんざくような音がした。
バイクと一緒にはねられ、宙に舞った。
身体が逆さまになり、地面がみえた。茶色い水たまりのできた黒い道路に、容赦なく頭から落下し、ぶつかった。
それが最後の記憶だった。
ふっと意識が消えた。
目覚めたとき、醜いものがふたつ、俺を覗き込んでいた。
覗きこんでいるもの達は、暖かい息をはいて呼吸をしている。どうやら、それは人の顔らしかった。
「目覚めたぞ」
「目覚めたかの?」
のぞき込んでいたしわくちゃの二つの顔がしゃべったあと、顔を遠ざけた。明かりがまぶしい。
「起き上がれるかの?」
俺をのぞき込んでいたひとり、どうやら、より年を取っいるらしい女のほうが、声をかけてきた。もうひとりは、顔はしわくちゃだが、声をかけてきた老女よりは若く、元気がありあまってそうな、中年の女だった。
二人の顔は、よく似ている。
姉妹だろうか?
「ここは、いったい……?」
俺は、しゃべり始めた。が、しゃべった声に驚いた。
これ、俺の声か?
……おかしい。
俺は、こんなに声が高くない。それに信じられないことに、しゃべっている言語が違っていた。日本語じゃなかった。なのに、理解ができている……当たり前のように話せている。
俺の動揺に気づいたのか、年取った女の方が、なだめるようにいった。
「アレク様。落ち着いてください。何も案ずる事はありません」
もう一人の女も、
「再生は成功です。あなたは、生き返ったのです」
アレク?。……アレクとは誰だ?
「落ち着いてください。驚かれるのは、わかりますが」
老女が、重ねていう。なんとかして、俺を落ち着かせようとしているようだ。
「アレクって誰だ?俺は耕平だ。……守口耕平だ!」
老女と中年の女、ふたりとも、怪訝そうな表情を浮かべ、眉を寄せた。そういう表情をすると、ふたりの女は、さらにそっくりに見えた。
「コウヘイだと?」
老女が俺のいった名前を繰り返す。隣の女と顔を見合わせる。ふたりの女の表情が、みるみる青ざめていった。
「姉者!。失敗じゃ」
中年の女性が声をはりあげた。
「大変じゃ!」
老女たちは、頭を抱え、台の前にうずくまった。
何が大変……なのか、教えてほしい。
俺は、何度も繰り返し、うずくまったまま動こうとしない老女たちに、声をかけた。老女たちの、ひゅうひゅうという喉を通りすぎる息の音が聞こえる。
年老いた方の女が、ゆっくりと台に手をつき立ち上がった。
「間違ったのじゃ!」
乗っていたバイクがクルマにはねられたとき、俺はまだ意識があった。
いつもなら、こんな無茶はしなかった。
四車線の道路で、中央分離帯の切れ目を垂直に横切って対向車線に入ったとき、真横からクルマが来た。
いつもなら一時停止をし、ゆっくり道路をよこぎったのだ。
が、今朝は雨が降っていたうえに、家を出るのが遅れた。普段は、自転車通勤や徒歩通勤の人々が、雨でクルマに切り替えたせいか、交通量も増えていた。一時停止をしてもしなくても、この場所でクルマが迫ってくることはなかった。田舎で、交通量がそれだけ少なかったのだ。
普段どおりなら、分離帯の切れ目からクルマが見えていなければ、そのまま入っても大丈夫なはずだった。
油断していた。
本当に、はかったようなタイミングで、俺のバイクが対向車線に突っこんだとき、クルマが来た。
耳をつんざくような音がした。
バイクと一緒にはねられ、宙に舞った。
身体が逆さまになり、地面がみえた。茶色い水たまりのできた黒い道路に、容赦なく頭から落下し、ぶつかった。
それが最後の記憶だった。
ふっと意識が消えた。
目覚めたとき、醜いものがふたつ、俺を覗き込んでいた。
覗きこんでいるもの達は、暖かい息をはいて呼吸をしている。どうやら、それは人の顔らしかった。
「目覚めたぞ」
「目覚めたかの?」
のぞき込んでいたしわくちゃの二つの顔がしゃべったあと、顔を遠ざけた。明かりがまぶしい。
「起き上がれるかの?」
俺をのぞき込んでいたひとり、どうやら、より年を取っいるらしい女のほうが、声をかけてきた。もうひとりは、顔はしわくちゃだが、声をかけてきた老女よりは若く、元気がありあまってそうな、中年の女だった。
二人の顔は、よく似ている。
姉妹だろうか?
「ここは、いったい……?」
俺は、しゃべり始めた。が、しゃべった声に驚いた。
これ、俺の声か?
……おかしい。
俺は、こんなに声が高くない。それに信じられないことに、しゃべっている言語が違っていた。日本語じゃなかった。なのに、理解ができている……当たり前のように話せている。
俺の動揺に気づいたのか、年取った女の方が、なだめるようにいった。
「アレク様。落ち着いてください。何も案ずる事はありません」
もう一人の女も、
「再生は成功です。あなたは、生き返ったのです」
アレク?。……アレクとは誰だ?
「落ち着いてください。驚かれるのは、わかりますが」
老女が、重ねていう。なんとかして、俺を落ち着かせようとしているようだ。
「アレクって誰だ?俺は耕平だ。……守口耕平だ!」
老女と中年の女、ふたりとも、怪訝そうな表情を浮かべ、眉を寄せた。そういう表情をすると、ふたりの女は、さらにそっくりに見えた。
「コウヘイだと?」
老女が俺のいった名前を繰り返す。隣の女と顔を見合わせる。ふたりの女の表情が、みるみる青ざめていった。
「姉者!。失敗じゃ」
中年の女性が声をはりあげた。
「大変じゃ!」
老女たちは、頭を抱え、台の前にうずくまった。
何が大変……なのか、教えてほしい。
俺は、何度も繰り返し、うずくまったまま動こうとしない老女たちに、声をかけた。老女たちの、ひゅうひゅうという喉を通りすぎる息の音が聞こえる。
年老いた方の女が、ゆっくりと台に手をつき立ち上がった。
「間違ったのじゃ!」
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