ぐるりぐるりと

安田 景壹

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第五章

影の中で 9

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「作戦は決まったー?」
 指でくるくるとリングを回しながら、静星が煽る。
「ええ。とっとと終わらせましょうか」
「はっはっはっ。とっとと、ね……」
 背中越しにでも、煌津は感知出来た。静星の呪力が増した。
「やってみろよ、先輩!」
「穂結君!」
 那美の声を合図に、煌津はくねくねモドキを見据え、己の中の魔力の流れを見つめた。大群を一斉に焼き払うには生半可な威力では駄目だ。炎を燃やすための大量の魔力が必要だ。だが、それだけの量が、果たして煌津の中にあるのか……
『自分の中にあるものだけでは、足りない』
「っ!?」
 唐突に頭の中に響いた声に、煌津は思わず辺りを見回す。
『力を求めるなら、手段を選ぶな』
   『欲せよ』
  『悪を滅ぼすため』
 『悪を救済せんがため』
     『求めよ』
    『欲せよ』
「うっ――!?」
 体中に巻かれた包帯が次々と伸びる。地面に、灯篭に、倒すべきくねくねモドキに。
 九宇時那美に。
「穂結君!?」
 吸い取る包帯がいくつも体から伸びて、あらゆる場所に刺さり、エネルギーを吸い上げ始める。那美の腕にも絡み付き、接着面から魔力を吸収している。止めようにも、包帯は煌津の思い通りには動かなかった。煌津の頭部はすでに包帯に包まれている。口も動かない。
「はっはっはっ! ここにきて魔物喰らいの帯が暴走したか!」
 哄笑を上げる静星の上にも、大きな影が落ちていた。煌津にはもはや制御が出来ない。魔物喰らいの帯は、あの巨大なヒトガタと化していた。
「お前は……」
 静星の哄笑が止んだ。
「そう。どうやら適切な宿主を見つけたみたいね。わたしの物にはならなかったくせに……」
 ヒトガタは虚ろな声で答えた。
『お前の事は覚えている』
    『彷徨う女』
  『お前の帰る場所など、ない』
「黙れ、包帯風情が! 切り刻んでやる!」
 吼えた静星がリングを構え、跳躍する。
 その胴体にヒトガタの爪が容赦なく突き刺さった。
「ぐぅっ!?」
『ここでは足りない』
 吸い上げられた魔力と呪力が絡み合い、大きなエネルギーの塊となるのを煌津は感じた。
「何を……する! この、やめろ! 包帯め! お前なんかがわたしに――」
 煌津の視界からでは絶対に見る事は出来なかったが、包帯で出来たヒトガタが笑っているのを煌津は脳裏に描いた。
 吸い上げられたエネルギーが放たれる。空間に亀裂が入り、瞬間的に、三人が亀裂の中に吸い込まれる。
 組み替えられた三原の家は瓦礫の山となり、曇天の下に晒されていた。くねくねモドキもおらず、灯篭はなくなっていた。瓦礫の中で、三原稲の母親が気を失っている。
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