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第五章
影の中で 4
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「その包帯、あの家にあった魔物喰らいの帯だよね。まさか先輩が継承するとは……。剣のほうはレプリカっぽいけど、その帯を使えているのは大したもんだよ」
「君に褒められてもね」
「ふん。生意気な」
生意気はどっちだ、と言い返そうとした時、静星の右手が煌津に向けられた。何かが、煌津の体を通過していくのがわかる。体……いや精神の中を覗き込まれているような。
「あー……なるほど。その変身にはリミットがあるのね。ビデオの残量分まで再生し切ってしまうと、巻き戻さないといけない」
「っ!?」
思わず驚きが顔に出る。静星はにやりと笑っていた。
「それに、あの巫女。姿を見せないから隠れているんだろうけど……なるほど、退魔屋チェンジ出来ないのか。なら、今は隠れるので精一杯だろうね」
記憶を読まれている。まずい。
「やめろ!」
脱兎の如く飛び出して、煌津は静星に斬りかかる。普通なら躊躇っただろうが、変身時の高揚感が後押しして、煌津に攻撃行動を取らせる。
「それに」
静星が黒い靄となって剣の軌道から消える。空振りしてつんのめった煌津の後ろに、人の気配が現れる。
「なるほど。あの子は病院か」
「……あの子?」
――嫌な予感がする。
「君は……まさか、千恵里ちゃんを」
「十年前に殺したはずのガキが、何故かまだふらふらと幽霊やっているなんて信じられない。あの時、ハサミ女に殺させた連中の魂は、全て喰わせたと思っていたのに」
静星は、忌々しげに吐き捨てた。
「十年前に……殺した?」
煌津は、彼女の言葉の意味を理解しかねていた。
「ああ、言ってなかったっけ? 十年前にハサミ女を最初に呼び出したのは、このわたしなんだよ」
どう見ても十代の女の子が、妖しげに嗤う。
「何を……何を言っているんだ」
「見た目に騙されない事だよ、先輩。……それから、よーく頭を使って考える事」
「何だって……」
ふん、と静星は鼻で笑う。
「さあ、お喋りはおしまいだ。ハサミ女!」
黒い影が目にも止まらぬ速度で動き、稲の後ろに立った。
「嘘……嫌だ……」
稲の涙声にも、ハサミ女は無表情だ。
「そいつを連れて病院に行け。わたしはこの先輩を捕まえてから行く」
「何を……させるか、そんな事――」
静星が手をかざす。黒い靄が大砲の弾のような塊になって煌津にぶつかり、吹っ飛ばす。
「先輩はこれから遊んであげるから、ちょっと待ってて。ハサミ女、早く行け。千恵里を見つけたら、取り込め。わたしが着いたら儀式を始める」
ハサミ女がこくりと頷く。怯える稲の襟首を掴むと、その背後が揺らぎ始める。やばい。急げ。立ち上がるんだ。早くしないと――
ヒュっと。
何かが空から降ってきたのはその時だった。
静星の足元に何かが突き刺さっていた。紙垂のついた平らな木製の細長い板――御幣、だ。
「これは……」
何かに気付いた静星がそう言った瞬間、
「東に青龍、西に白虎、南に朱雀、北に玄武、中に匂陣、地に帝台、天に文王、前に三台、後ろに玉女。九字を敷き、九字を建て、九字で囲う九字の箱。閉じよ、九神の封!」
空から聞こえてきた呪文とともに、四つの御幣が光を放つ。青い壁、白い壁、朱の壁、玄の壁が光の箱を形作り、ハサミ女と静星の両方を閉じ込める。
静星と煌津の間に静かに着地したのは、銀髪の少女。
「九宇時さん!」
「ごめん。遅くなった」
静星から目を離さないよう、最低限煌津に目を向けるだけで、那美は静星にリボルバーを向ける。
「君に褒められてもね」
「ふん。生意気な」
生意気はどっちだ、と言い返そうとした時、静星の右手が煌津に向けられた。何かが、煌津の体を通過していくのがわかる。体……いや精神の中を覗き込まれているような。
「あー……なるほど。その変身にはリミットがあるのね。ビデオの残量分まで再生し切ってしまうと、巻き戻さないといけない」
「っ!?」
思わず驚きが顔に出る。静星はにやりと笑っていた。
「それに、あの巫女。姿を見せないから隠れているんだろうけど……なるほど、退魔屋チェンジ出来ないのか。なら、今は隠れるので精一杯だろうね」
記憶を読まれている。まずい。
「やめろ!」
脱兎の如く飛び出して、煌津は静星に斬りかかる。普通なら躊躇っただろうが、変身時の高揚感が後押しして、煌津に攻撃行動を取らせる。
「それに」
静星が黒い靄となって剣の軌道から消える。空振りしてつんのめった煌津の後ろに、人の気配が現れる。
「なるほど。あの子は病院か」
「……あの子?」
――嫌な予感がする。
「君は……まさか、千恵里ちゃんを」
「十年前に殺したはずのガキが、何故かまだふらふらと幽霊やっているなんて信じられない。あの時、ハサミ女に殺させた連中の魂は、全て喰わせたと思っていたのに」
静星は、忌々しげに吐き捨てた。
「十年前に……殺した?」
煌津は、彼女の言葉の意味を理解しかねていた。
「ああ、言ってなかったっけ? 十年前にハサミ女を最初に呼び出したのは、このわたしなんだよ」
どう見ても十代の女の子が、妖しげに嗤う。
「何を……何を言っているんだ」
「見た目に騙されない事だよ、先輩。……それから、よーく頭を使って考える事」
「何だって……」
ふん、と静星は鼻で笑う。
「さあ、お喋りはおしまいだ。ハサミ女!」
黒い影が目にも止まらぬ速度で動き、稲の後ろに立った。
「嘘……嫌だ……」
稲の涙声にも、ハサミ女は無表情だ。
「そいつを連れて病院に行け。わたしはこの先輩を捕まえてから行く」
「何を……させるか、そんな事――」
静星が手をかざす。黒い靄が大砲の弾のような塊になって煌津にぶつかり、吹っ飛ばす。
「先輩はこれから遊んであげるから、ちょっと待ってて。ハサミ女、早く行け。千恵里を見つけたら、取り込め。わたしが着いたら儀式を始める」
ハサミ女がこくりと頷く。怯える稲の襟首を掴むと、その背後が揺らぎ始める。やばい。急げ。立ち上がるんだ。早くしないと――
ヒュっと。
何かが空から降ってきたのはその時だった。
静星の足元に何かが突き刺さっていた。紙垂のついた平らな木製の細長い板――御幣、だ。
「これは……」
何かに気付いた静星がそう言った瞬間、
「東に青龍、西に白虎、南に朱雀、北に玄武、中に匂陣、地に帝台、天に文王、前に三台、後ろに玉女。九字を敷き、九字を建て、九字で囲う九字の箱。閉じよ、九神の封!」
空から聞こえてきた呪文とともに、四つの御幣が光を放つ。青い壁、白い壁、朱の壁、玄の壁が光の箱を形作り、ハサミ女と静星の両方を閉じ込める。
静星と煌津の間に静かに着地したのは、銀髪の少女。
「九宇時さん!」
「ごめん。遅くなった」
静星から目を離さないよう、最低限煌津に目を向けるだけで、那美は静星にリボルバーを向ける。
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