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第四章
ハサミ女 16
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「話がだいぶ逸れたね。作戦の話をするよ。三原さんの家に行ったら、穂結君は二階に駆け上がって。稲か、母親か、どちらかがハサミ女の触媒だろうけど、たぶん稲のほう」
「霊感があるから?」
「その通り。今の私は退魔屋チェンジが出来ない。でも、穂結君は包帯マンに変身出来るから……」
「待って。包帯マンはちょっと……」
「何、不満?」
「むしろ何でそれで満足すると思ったのか……」
「うーん」
那美は腕組みをして、考えるように唸った。
「じゃあ、ビデオマンね。ビデオで変身するから」
「それもちょっと……」
「今はビデオマンでいいでしょ。何ならあとでかっこいいの考えてあげるから」
「いや、自分で考えるよ!」
「とにかく。穂結君は二階に上がると同時にビデオマンに変身。ハサミ女が出てきたら、そのケースの中身を全力でぶち当てて。あとは私が何とかする」
「……オッケー。怖いけど、やってみるよ」
緊張感に身震いしながら、煌津は言った。
「ところで、これの中身って何?」
煌津はアタッシェケースを軽く持ち上げて問うた。
「〝その御佩せる十握劔を拔きて、その蛇を切り散りたまひしかば〟」
那美は、何かの一節を諳んじてみせた。知らないフレーズ……ではない。どこかで、読んだ覚えがある。
「……古事記?」
「それの本物は、この国でも最強の武器とされる。それは、かの大蛇を斬り殺した英雄の剣」
那美の言葉が、ケースの中身の神通力を通わせているかのような気がした。
「十握剣――通称を天羽々斬。そのレプリカだよ」
閑静な住宅街の中で、ぽつんとその家だけ建てられたような場所に、三原の家はあった。
「準備はいい?」
「うん。大丈夫」
ショルダーバッグの留め具を外しておく。中には変身用のビデオが入っている、
「念のために言っておくけど、スマホの電源は入れたままにしておいて。何に使うかわからないから」
「オッケー」
スマホの電源……大丈夫だ。ちゃんと入っている。
三原家の外観は妙なところがなく、嫌な気配も感じられない。自分で言っておいて何だが、本当にこの中にいる人物がハサミ女と関係があるのだろうか。
ブゥーン、ブゥーンと、スマホが唐突に震えた。
MMAのトーク受信のバイブレーションだった。見覚えのないアイコンだ。こんな時に一体何だろう。運送会社のアイコンではなさそうだ。
『先輩、御無事ですか? 救急車で運ばれて行っちゃったので、心配しています。良くなったら、連絡ください』
「え、誰……?」
戸惑いながら、画面に表示された名前を見る。
左上には、静星乙羽と表示されている。
「静星さん……?」
「穂結君、何やっているの。行くよ」
「ああ、ごめん」
返信している暇はなさそうだ。仕方なく、煌津はスマホをポケットに仕舞う。
それにしても、静星にMMAのアカウントを教えただろうか? どうにも身に覚えがない。
那美が三原家のチャイムを鳴らす。
「霊感があるから?」
「その通り。今の私は退魔屋チェンジが出来ない。でも、穂結君は包帯マンに変身出来るから……」
「待って。包帯マンはちょっと……」
「何、不満?」
「むしろ何でそれで満足すると思ったのか……」
「うーん」
那美は腕組みをして、考えるように唸った。
「じゃあ、ビデオマンね。ビデオで変身するから」
「それもちょっと……」
「今はビデオマンでいいでしょ。何ならあとでかっこいいの考えてあげるから」
「いや、自分で考えるよ!」
「とにかく。穂結君は二階に上がると同時にビデオマンに変身。ハサミ女が出てきたら、そのケースの中身を全力でぶち当てて。あとは私が何とかする」
「……オッケー。怖いけど、やってみるよ」
緊張感に身震いしながら、煌津は言った。
「ところで、これの中身って何?」
煌津はアタッシェケースを軽く持ち上げて問うた。
「〝その御佩せる十握劔を拔きて、その蛇を切り散りたまひしかば〟」
那美は、何かの一節を諳んじてみせた。知らないフレーズ……ではない。どこかで、読んだ覚えがある。
「……古事記?」
「それの本物は、この国でも最強の武器とされる。それは、かの大蛇を斬り殺した英雄の剣」
那美の言葉が、ケースの中身の神通力を通わせているかのような気がした。
「十握剣――通称を天羽々斬。そのレプリカだよ」
閑静な住宅街の中で、ぽつんとその家だけ建てられたような場所に、三原の家はあった。
「準備はいい?」
「うん。大丈夫」
ショルダーバッグの留め具を外しておく。中には変身用のビデオが入っている、
「念のために言っておくけど、スマホの電源は入れたままにしておいて。何に使うかわからないから」
「オッケー」
スマホの電源……大丈夫だ。ちゃんと入っている。
三原家の外観は妙なところがなく、嫌な気配も感じられない。自分で言っておいて何だが、本当にこの中にいる人物がハサミ女と関係があるのだろうか。
ブゥーン、ブゥーンと、スマホが唐突に震えた。
MMAのトーク受信のバイブレーションだった。見覚えのないアイコンだ。こんな時に一体何だろう。運送会社のアイコンではなさそうだ。
『先輩、御無事ですか? 救急車で運ばれて行っちゃったので、心配しています。良くなったら、連絡ください』
「え、誰……?」
戸惑いながら、画面に表示された名前を見る。
左上には、静星乙羽と表示されている。
「静星さん……?」
「穂結君、何やっているの。行くよ」
「ああ、ごめん」
返信している暇はなさそうだ。仕方なく、煌津はスマホをポケットに仕舞う。
それにしても、静星にMMAのアカウントを教えただろうか? どうにも身に覚えがない。
那美が三原家のチャイムを鳴らす。
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