ぐるりぐるりと

安田 景壹

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第四章

ハサミ女 7

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「宮瑠璃の魔力を感じる」
 ビデオデッキを見つめながら、那美は続ける。
「宮瑠璃の魔力って?」
「うちに来た時にお義父さんが話していたでしょ。宮瑠璃市には、歴代の術者が張り巡らせた魔力のネットワークがあるの。宮瑠璃にいる退魔屋は皆、街のネットワークと接続していて力を得ている。怪異があればそれを察知出来るし、術に使う魔力のサポートも得られる。代わりに私も、自分の魔力を使って、定期的にネットワークの維持や補修をしなければいけないけれど」
「……俺も宮瑠璃の魔力ネットワークに接続しているって事?」
「どころか、そのビデオデッキの骨格は宮瑠璃の魔力で出来ている。あとは魔物喰らいの帯が吸収した魔力で肉付けされている感じ。宮瑠璃の魔力と異界の魔力のハイブリッド、みたいな」
 煌津は自分の腹に出来たビデオデッキの蓋をパカパカと押した。
「俺、まだ人間かな?」
「ええ。体にビデオデッキが出来ただけ」
 那美は事もなげに言って、ベッドの上にあった変身のビデオを手に取る。
「再生も出来る」
「いや普通の人間の体にビデオデッキ出来ないよ! お腹も刺されたのに傷口もないし!」
「魔力の多い人間は怪我の治りが早いんだよ。穂結君は元々、大量魔力吸っていたからね。今ならまだ傷の治りも早い。でも、ずっとじゃない。自分の魔力を維持して貯められるようにならなきゃ」
「俺も退魔屋になるって事……?」
 那美が厳しい顔をした。
「少なくとも退魔屋並みの訓練は必要ね。そのビデオデッキや、魔物喰らいの帯をコントロール出来るようにならないと。穂結君も、もう狙われているだろうし」
「狙われている……?」
 那美は立ち上がった。
「今日はもう寝て。明日は特殊な場所で訓練をする。それから……」
 少し言い淀んだあと、那美は続ける。
「ハサミ女の話をしよう」

 翌朝、朝食を終えた煌津は、病院の屋上へ呼び出された。風が強く、那美の銀髪がなびいている。
「ここが特殊な場所?」
「いいえ。――開け、訓練場エンター・ザ・マトリックス
 那美が屋上の何もない宙を素手で叩くと、空間に波紋が広がり、異層転移のように波紋に色がついた。
「ここも訓練場に繋がっているの?」
「そう。霊的に不安定な箇所を少しいじって繋げたの。いざという時の避難経路にも使えるしね」
 言って、すたすた那美は波紋の中に入っていく。
 波紋の中は何もない白い空間になっていた。どこまで部屋が広がっているのかもわからない、白い空間。
「いい? 時間はないけど、やる事は多いから順序立ててやっていく。午前中の課題は二つ。最初は訓練から。まず、これに一時間」
「一時間? そんなんで身に着くかな……」
「現実世界での時間は一時間。でも訓練内容は、そう、だいたい一年分くらい」
「一年分?」
「それでも足りないくらいだけど、今はそうも言っていられないからね。敵がハサミ女だし」
 那美は言いながら、宙に手をかざす。すると、光の粒子のようなものが高速で集まって、やがて星のようになり、それから、バン! と爆発音を立てて、一本のビデオになった。ラベルには『教習用』と書かれている。
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