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第四章
ハサミ女 1
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目の前で真っ赤な血が噴き上がる。千恵里が息を呑む声が聞こえた。白い巫女装束が崩れ落ちていくのが見えて、煌津は何かに突き動かされるかのように掌から包帯を射出する。両手から出た包帯が那美の体をぐるぐる巻きにしてきつく縛る。倒れそうになる那美を、煌津はすんでのところで受け止めた。
「九宇時さん!」
那美は反応しなかった。目はぎりぎり開いているが、顔は真っ青で、ぐったりしている。
「やばい……」
すぐに病院へ連れて行かないと。だが……
――カッ、カッ、カッ、カッ、カッ。
金属が打ち鳴らされる音が聞こえる。黒く乱れた長髪の女が、煌津の足から胸元くらいまでの長さのある大きなハサミを開けたり、閉じたりしている。女、と表現したのは、あくまでも立ち姿が女性っぽいだけで、実際のところ性別はわからない。顔は墨のように真っ黒で、どろどろと蠢いている。真っ白な両目が二つあるだけの顔は、まるで仮面か被り物のようでさえある。
「こいつが……ハサミ女」
黒い人影がぬらりと動く。本能的な危機感が、煌津の体を反射的に動かした。
【早送り】
「千恵里ちゃん!!」
怯える千恵里の手を掴み、煌津は屋根の上を【早送り】の力で加速した速度で駆ける。作戦はこうだ。この後、屋根の端から飛び降りる。下にはフジバカマノヒメが先生を抱えているはずだ。皆を店の中に入れ、包帯で店ごと巻く。そうすれば、多少はもつだろう。あとは、外に残った煌津が、さっきのようにハサミ女をビデオテープにしてしまえば……!
――カッ、カッ、カッ、カッ、カッ。
すぐ真横で、ハサミを開閉する音が聞こえた。
「嘘だろっ!?」
音のほうへ振り向いた煌津の眼前に、ハサミ女の真っ白な目が飛び込んできた。
ハサミ女が手に持った大きなハサミが振り上げられる。目で動きは追えるが、両手は塞がっている。無理だ。避け切れない。
死角から飛来した無数の矢がハサミ女の頭部や胴部に突き刺さる。矢の勢いは止まらない。
「ハゼランノヒメ!」
振り返ると、後方でハゼランノヒメが矢をつがえていた。
「ありがとう!」
ハゼランノヒメはアルカイックスマイルのまま、矢を連射する。千恵里を抱え、屋根の端から飛び降りる。着地。衝撃が骨に響く。
「フジバカマノヒメ! 先生を連れて中へ!」
頷いたフジバカマノヒメが柳田先生を抱えて店に入る。
「千恵里ちゃんも中へ!」
素早く千恵里が煌津の腕から下りて、店内へ駆け込んだ。煌津は急いで店の中に入る。厨房の店主と女将さんは気を失っているようだ。今はどうしようもない。煌津は那美の体を店の床に横たえる。
そろそろ【早送り】の効力が切れる。
「ここで待っていて。いいね」
千恵里にそう言って、煌津は店の出入り口を閉めた。両掌から包帯を射出し、中華料理屋の建物に横巻にする。これで、いくらかは守りになるだろうか。
【停止】
ボタンを押す。【早送り】状態が解除された。煌津は道路に出る。
狙いはある。だが、うまくいくかどうか……。
ぼとり、と何かが上から落ちてきた。
腕だ。弓を持った腕。続いて、胴体。右足。それらが地面にぶつかって、それから枯れ葉がちりぢりになるように消えていく。
「ハゼランノヒメ……!」
屋根のほうを見る。ハサミに頭を串刺しにされたハゼランノヒメが、煌津のほうを見下ろしていた「何て事を……」
カッ。ハサミが閉じ、ハゼランノヒメの頭部が落ちる。太陽を背に受けたハサミ女が、次はお前だと無言で煌津に告げている気がした。
「九宇時さん!」
那美は反応しなかった。目はぎりぎり開いているが、顔は真っ青で、ぐったりしている。
「やばい……」
すぐに病院へ連れて行かないと。だが……
――カッ、カッ、カッ、カッ、カッ。
金属が打ち鳴らされる音が聞こえる。黒く乱れた長髪の女が、煌津の足から胸元くらいまでの長さのある大きなハサミを開けたり、閉じたりしている。女、と表現したのは、あくまでも立ち姿が女性っぽいだけで、実際のところ性別はわからない。顔は墨のように真っ黒で、どろどろと蠢いている。真っ白な両目が二つあるだけの顔は、まるで仮面か被り物のようでさえある。
「こいつが……ハサミ女」
黒い人影がぬらりと動く。本能的な危機感が、煌津の体を反射的に動かした。
【早送り】
「千恵里ちゃん!!」
怯える千恵里の手を掴み、煌津は屋根の上を【早送り】の力で加速した速度で駆ける。作戦はこうだ。この後、屋根の端から飛び降りる。下にはフジバカマノヒメが先生を抱えているはずだ。皆を店の中に入れ、包帯で店ごと巻く。そうすれば、多少はもつだろう。あとは、外に残った煌津が、さっきのようにハサミ女をビデオテープにしてしまえば……!
――カッ、カッ、カッ、カッ、カッ。
すぐ真横で、ハサミを開閉する音が聞こえた。
「嘘だろっ!?」
音のほうへ振り向いた煌津の眼前に、ハサミ女の真っ白な目が飛び込んできた。
ハサミ女が手に持った大きなハサミが振り上げられる。目で動きは追えるが、両手は塞がっている。無理だ。避け切れない。
死角から飛来した無数の矢がハサミ女の頭部や胴部に突き刺さる。矢の勢いは止まらない。
「ハゼランノヒメ!」
振り返ると、後方でハゼランノヒメが矢をつがえていた。
「ありがとう!」
ハゼランノヒメはアルカイックスマイルのまま、矢を連射する。千恵里を抱え、屋根の端から飛び降りる。着地。衝撃が骨に響く。
「フジバカマノヒメ! 先生を連れて中へ!」
頷いたフジバカマノヒメが柳田先生を抱えて店に入る。
「千恵里ちゃんも中へ!」
素早く千恵里が煌津の腕から下りて、店内へ駆け込んだ。煌津は急いで店の中に入る。厨房の店主と女将さんは気を失っているようだ。今はどうしようもない。煌津は那美の体を店の床に横たえる。
そろそろ【早送り】の効力が切れる。
「ここで待っていて。いいね」
千恵里にそう言って、煌津は店の出入り口を閉めた。両掌から包帯を射出し、中華料理屋の建物に横巻にする。これで、いくらかは守りになるだろうか。
【停止】
ボタンを押す。【早送り】状態が解除された。煌津は道路に出る。
狙いはある。だが、うまくいくかどうか……。
ぼとり、と何かが上から落ちてきた。
腕だ。弓を持った腕。続いて、胴体。右足。それらが地面にぶつかって、それから枯れ葉がちりぢりになるように消えていく。
「ハゼランノヒメ……!」
屋根のほうを見る。ハサミに頭を串刺しにされたハゼランノヒメが、煌津のほうを見下ろしていた「何て事を……」
カッ。ハサミが閉じ、ハゼランノヒメの頭部が落ちる。太陽を背に受けたハサミ女が、次はお前だと無言で煌津に告げている気がした。
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