ぐるりぐるりと

安田 景壹

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第二章

運悪くこの世界にたどり着いてしまった方へ 20

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「何を――!?」
 那美が息を呑んだ。訓練場のテクスチャーが剝がされていた。夕暮れの稜線が描かれていた景色は無残に引き千切られた壁紙のようにぼろぼろで、その向こうはただ真っ暗な闇が広がっていた。パァン! と、青い壁が割れる。続いて白、朱、玄。ヒトガタを封じようとしていた箱を構成するはずの壁は全て破壊されていく。
「魔力を取り込んでいる!?」
 那美が引き金を引き、弾切れと同時に排莢、ポーチからスピードローダーを取り出して装填。再び連射する。煌津には色が見える。魔力というあらゆる色が混在する塊に、銃弾に込められた浄力というゼロに変化させる式が飛び込んでいくのを。だが、それは無駄だ。魔力は無限に増量し続ける。絶対に、ゼロにはならない。
「っ!?」
 ヒトガタから無数の包帯が伸びて、那美の体を次々と掴んでいく。ヒトガタが何をやろうとしているのか、煌津にもわかった。取り込む気だ。
「やめっ――」
 叫ぼうとした瞬間、喉の包帯が締め付ける。喉だけではない。腕も、足も。まるで煌津に邪魔はさせないとでも言うかのように。
 ――意識が深く潜る。これは、ヒトガタの内側か。自分の内側か。
『馬鹿な真似は止せ』
 闇の中にどろどろと蠢く極彩色の中、声が響く。
     『お前はただの器』
                『我が現世で魔を退散するための器』
          『誰でも良いのだ』
 『この娘でも』
              『器として適格ならば』
 煌津は様々な色の糸を見ている。それら全てがエネルギーだ。それら全てが魔力だ。
 掴もうと思えば、この手に届く。
「魔を、退散させるっていうなら……」
 泥の中でもがくように、煌津は力づくで手を伸ばす。
「相手を間違えるな。その子は人間だ……!」
 無数の糸を、煌津は掴む――!
 次の瞬間、全て糸が煌津自身に流れ込んでくるのを感じる。まるで色の奔流を一身に受けているかのようだ。無数のイメージ、無数のエネルギーを感じる。骨という骨、肉という肉、神経の全てに魔力が行き渡っていく。
「はっ――!?」
 気が付くと、煌津は半壊した訓練場の上に立っていた。目の前では巫女装束の那美が荒い息をついている。
「穂結君、まさか……」
 呼吸を整えながら、那美が言った。
「魔物喰らいの帯を、コントロールした……?」
「……何か、見えたよ。たくさんの糸。あれが魔力ってやつかな」
 考えるより先に、煌津は答えていた。とてつもない疲労を感じるが、同時に体中にエネルギーが満ちているのがわかる。体が、熱い。爆発するのではないかと思うほどに。
「何だか、ヤバい感じがする……」
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