42 / 100
第二章
運悪くこの世界にたどり着いてしまった方へ 20
しおりを挟む
「何を――!?」
那美が息を呑んだ。訓練場のテクスチャーが剝がされていた。夕暮れの稜線が描かれていた景色は無残に引き千切られた壁紙のようにぼろぼろで、その向こうはただ真っ暗な闇が広がっていた。パァン! と、青い壁が割れる。続いて白、朱、玄。ヒトガタを封じようとしていた箱を構成するはずの壁は全て破壊されていく。
「魔力を取り込んでいる!?」
那美が引き金を引き、弾切れと同時に排莢、ポーチからスピードローダーを取り出して装填。再び連射する。煌津には色が見える。魔力というあらゆる色が混在する塊に、銃弾に込められた浄力というゼロに変化させる式が飛び込んでいくのを。だが、それは無駄だ。魔力は無限に増量し続ける。絶対に、ゼロにはならない。
「っ!?」
ヒトガタから無数の包帯が伸びて、那美の体を次々と掴んでいく。ヒトガタが何をやろうとしているのか、煌津にもわかった。取り込む気だ。
「やめっ――」
叫ぼうとした瞬間、喉の包帯が締め付ける。喉だけではない。腕も、足も。まるで煌津に邪魔はさせないとでも言うかのように。
――意識が深く潜る。これは、ヒトガタの内側か。自分の内側か。
『馬鹿な真似は止せ』
闇の中にどろどろと蠢く極彩色の中、声が響く。
『お前はただの器』
『我が現世で魔を退散するための器』
『誰でも良いのだ』
『この娘でも』
『器として適格ならば』
煌津は様々な色の糸を見ている。それら全てがエネルギーだ。それら全てが魔力だ。
掴もうと思えば、この手に届く。
「魔を、退散させるっていうなら……」
泥の中でもがくように、煌津は力づくで手を伸ばす。
「相手を間違えるな。その子は人間だ……!」
無数の糸を、煌津は掴む――!
次の瞬間、全て糸が煌津自身に流れ込んでくるのを感じる。まるで色の奔流を一身に受けているかのようだ。無数のイメージ、無数のエネルギーを感じる。骨という骨、肉という肉、神経の全てに魔力が行き渡っていく。
「はっ――!?」
気が付くと、煌津は半壊した訓練場の上に立っていた。目の前では巫女装束の那美が荒い息をついている。
「穂結君、まさか……」
呼吸を整えながら、那美が言った。
「魔物喰らいの帯を、コントロールした……?」
「……何か、見えたよ。たくさんの糸。あれが魔力ってやつかな」
考えるより先に、煌津は答えていた。とてつもない疲労を感じるが、同時に体中にエネルギーが満ちているのがわかる。体が、熱い。爆発するのではないかと思うほどに。
「何だか、ヤバい感じがする……」
那美が息を呑んだ。訓練場のテクスチャーが剝がされていた。夕暮れの稜線が描かれていた景色は無残に引き千切られた壁紙のようにぼろぼろで、その向こうはただ真っ暗な闇が広がっていた。パァン! と、青い壁が割れる。続いて白、朱、玄。ヒトガタを封じようとしていた箱を構成するはずの壁は全て破壊されていく。
「魔力を取り込んでいる!?」
那美が引き金を引き、弾切れと同時に排莢、ポーチからスピードローダーを取り出して装填。再び連射する。煌津には色が見える。魔力というあらゆる色が混在する塊に、銃弾に込められた浄力というゼロに変化させる式が飛び込んでいくのを。だが、それは無駄だ。魔力は無限に増量し続ける。絶対に、ゼロにはならない。
「っ!?」
ヒトガタから無数の包帯が伸びて、那美の体を次々と掴んでいく。ヒトガタが何をやろうとしているのか、煌津にもわかった。取り込む気だ。
「やめっ――」
叫ぼうとした瞬間、喉の包帯が締め付ける。喉だけではない。腕も、足も。まるで煌津に邪魔はさせないとでも言うかのように。
――意識が深く潜る。これは、ヒトガタの内側か。自分の内側か。
『馬鹿な真似は止せ』
闇の中にどろどろと蠢く極彩色の中、声が響く。
『お前はただの器』
『我が現世で魔を退散するための器』
『誰でも良いのだ』
『この娘でも』
『器として適格ならば』
煌津は様々な色の糸を見ている。それら全てがエネルギーだ。それら全てが魔力だ。
掴もうと思えば、この手に届く。
「魔を、退散させるっていうなら……」
泥の中でもがくように、煌津は力づくで手を伸ばす。
「相手を間違えるな。その子は人間だ……!」
無数の糸を、煌津は掴む――!
次の瞬間、全て糸が煌津自身に流れ込んでくるのを感じる。まるで色の奔流を一身に受けているかのようだ。無数のイメージ、無数のエネルギーを感じる。骨という骨、肉という肉、神経の全てに魔力が行き渡っていく。
「はっ――!?」
気が付くと、煌津は半壊した訓練場の上に立っていた。目の前では巫女装束の那美が荒い息をついている。
「穂結君、まさか……」
呼吸を整えながら、那美が言った。
「魔物喰らいの帯を、コントロールした……?」
「……何か、見えたよ。たくさんの糸。あれが魔力ってやつかな」
考えるより先に、煌津は答えていた。とてつもない疲労を感じるが、同時に体中にエネルギーが満ちているのがわかる。体が、熱い。爆発するのではないかと思うほどに。
「何だか、ヤバい感じがする……」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
天使は愛を囁く
けろよん
キャラ文芸
天界では今ある問題が持ち上がっていた。何と地上の人々が愛を忘れつつあるというのだ。天界の天使達は愛を伝えるために地上へ向かうこととなった。
天使の一人ミンティシアが担当することになったのは正樹という高校生の少年だった。彼には幼馴染の少女や初恋の人がいた。ミンティシアはこの状況を利用して天使として愛を伝えるために頑張ることになった。
妹の作った謎薬でTSした僕を幼馴染の双子兄妹が狙っている。
楠富 つかさ
キャラ文芸
異世界帰りの妹が作った錬金薬で女体化してしまった主人公、そんな主人公には幼馴染が二人いて……
性転換する前の主人公に好意を抱いていた女子と、性転換後の主人公に好意を抱く男子、そんな三角関係のTSラブコメです。
※表紙イラストはAI生成による主人公のイメージ画像です。美少女がちょっと少年みたいな動作をしているそんな感じ。
傍へで果報はまどろんで ―真白の忌み仔とやさしい夜の住人たち―
色数
キャラ文芸
「ああそうだ、――死んでしまえばいい」と、思ったのだ。
時は江戸。
開国の音高く世が騒乱に巻き込まれる少し前。
その異様な仔どもは生まれてしまった。
老人のような白髪に空を溶かしこんだ蒼の瞳。
バケモノと謗られ傷つけられて。
果ては誰にも顧みられず、幽閉されて独り育った。
願った幸福へ辿りつきかたを、仔どもは己の死以外に知らなかった。
――だのに。
腹を裂いた仔どもの現実をひるがえして、くるりと現れたそこは【江戸裏】
正真正銘のバケモノたちの住まう夜の町。
魂となってさまよう仔どもはそこで風鈴細工を生業とする盲目のサトリに拾われる。
風鈴の音響く常夜の町で、死にたがりの仔どもが出逢ったこれは得がたい救いのはなし。
雨嫌いな私が雨を好きになるまで
麻木香豆
キャラ文芸
シングルマザーの百田さくらは雨が嫌い。女手1人、高校生の藍里を育てる。
元夫の精神的暴力のせいで雨が嫌いになった。
コントロールも効かなくなる。
雨が大嫌いである。
そんなさくらの元に「時雨」という雨という漢字が付く年下男性と出会う。
一万字くらいの短編予定です。
藍里とさくらシリーズ。
後宮浄魔伝~視える皇帝と浄魔の妃~
二位関りをん
キャラ文芸
桃玉は10歳の時に両親を失い、おじ夫妻の元で育った。桃玉にはあやかしを癒やし、浄化する能力があったが、あやかしが視えないので能力に気がついていなかった。
しかし桃玉が20歳になった時、村で人間があやかしに殺される事件が起き、桃玉は事件を治める為の生贄に選ばれてしまった。そんな生贄に捧げられる桃玉を救ったのは若き皇帝・龍環。
桃玉にはあやかしを祓う力があり、更に龍環は自身にはあやかしが視える能力があると伝える。
「俺と組んで後宮に蔓延る悪しきあやかしを浄化してほしいんだ」
こうして2人はある契約を結び、九嬪の1つである昭容の位で後宮入りした桃玉は龍環と共にあやかし祓いに取り組む日が始まったのだった。
東雲を抱く 第一部
新菜いに
キャラ文芸
昊涯国《こうがいこく》――時和《ときなぎ》と呼ばれる時を読む能力者が治める国。時和は管理され、その中から選ばれた者が時嗣《ときつぎ》として国を治めていた。
銀色の髪を持つ少女・三郎《さぶろう》は、この昊涯国で時嗣候補の少年・白柊《はくしゅう》の護衛役を勤めていた。
彼は家のしきたりで性別も顔も隠さなければならない三郎が、素顔を晒すことのできる数少ない相手。ついつい気を抜きがちな三郎に厳しい叱責を飛ばすが、二人の間には確かな絆があった。
平和な日々が続いていたある日、白柊が自身の周りに不穏な空気を感じ取る。
幼い主人の命令で、周囲の調査に赴く三郎。しかしそこで、自分を遥かに上回る実力を持つ男・天真《てんま》と遭遇してしまう。
時嗣に次ぐ権力者である白柊を傀儡にしようと目論む天真。しかも彼は『腰が気に入った』という理由で三郎に纏わりつく。
さらに白柊に至っては、信用できない天真までも自らの目的のために利用しだす始末。
脅かされる三郎の安寧。要領を得ない主の指示。
しかしそうこうしている間にも、白柊の感じた不穏な空気はどんどん形を帯びていき……――。
※本作は三部構成の予定です(第二部〜連載中)
※第一部は全体のプロローグ的な位置付けになっています。
※本作はカクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
観月異能奇譚
千歳叶
キャラ文芸
「君に頼みたいことがある」
突然記憶を失った「わたし」は救護者の兄妹に協力を要請される。その内容とは――彼らの目となり耳となって様々な情報を得ること。
「協力してくれるなら身の安全を確保しよう。さぁ、君はどうしたい?」
他に拠り所のない「わたし」は「音島律月」として〈九十九月〉に所属することを決意する。
「ようこそ〈九十九月〉へ、音島律月さん。ここはこの国における異能者の最終防衛線だ」
内部政治、異能排斥論、武装組織からの宣戦布告。内外に無数の爆弾を抱えた〈異能者の最終防衛線〉にて、律月は多くの人々と出会い、交流を深めていく。
奇譚の果てに、律月は何を失い何を得るのか。
――――――――
毎週月曜日更新。
※レイティングを設定する(R15相当)ほどではありませんが、人によっては残酷と感じられるシーン・戦闘シーンがあります。ご了承ください。
※カクヨムにも同じ内容を投稿しています。
忍チューバー 竹島奪還!!……する気はなかったんです~
ma-no
キャラ文芸
某有名動画サイトで100億ビューを達成した忍チューバーこと田中半荘が漂流生活の末、行き着いた島は日本の島ではあるが、韓国が実効支配している「竹島」。
日本人がそんな島に漂着したからには騒動勃発。両国の軍隊、政治家を……いや、世界中のファンを巻き込んだ騒動となるのだ。
どうする忍チューバ―? 生きて日本に帰れるのか!?
注 この物語は、コメディーでフィクションでファンタジーです。登場する人物、団体、名称、歴史等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
ですので、歴史認識に関する質問、意見等には一切お答えしませんのであしからず。
❓第3回キャラ文芸大賞にエントリーしました❓
よろしければ一票を入れてください!
よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる