ぐるりぐるりと

安田 景壹

文字の大きさ
上 下
37 / 100
第二章

運悪くこの世界にたどり着いてしまった方へ 15

しおりを挟む
「お義父さん。穂結君来たよ。那岐が向こうでお世話になっていた」
「……おお」
 台所で新聞を読んでいた宮司らしい格好の壮年の男性が振り向く。細身で、心なしか九宇時那岐に顔立ちが似ている。白衣に紫の袴。袴には紫色の紋も入っている。紫の袴の神職は上級の位階なのだと、昔何かの本で読んだ。
「はじめまして。那岐の父です」
「あの……穂結煌津です。九宇時君とは仲良くさせてもらっていました。この度は……」
 急な事でとも、とんだ事でとも、言葉が出てこなかった。舌が急に重くなったかのようだった。
「いえ。まあ、まずはあちらへどうぞ」
 那岐の父親に促され、煌津は居間のほうへと向かった。
 広い居間の奥、神棚に下に祭壇が作られていた。そこには、遺骨を納めた骨壺、那岐が良く飲んでいたエナジードリンクの缶、花瓶に生けられた花、使っていたスマートフォン、そして那岐の写真が写真立てに入って飾られていた。
 三月五日。夜。未明。九宇時那岐は宮瑠璃市の端にある灯台の下で亡くなった。
 転んだ拍子に頭を打ったのだと煌津は聞いていたが、詳しい状況は知らされていない。MMAの返事が一週間近くなかったので、引っ越す前に知らされていた九宇時那岐の実家の番号にかけた煌津は、そこで初めて彼が亡くなった事を知った。
 実に六か月振りに見る友人の顔は、煌津が知らない写真の中にあった。こうして改めて見ると、綺麗な顔立ちをしていると場違いにそう思う。
 一礼をして、祭壇に手を合わす。ごちゃごちゃ何か言葉を考えるくらいなら、無心で祈ったほうがいいような気がして、現にそうする。
 一呼吸置いて、那岐の父と那美のほうへと向き直る。
「那岐が退魔屋の仕事をしていたのは、穂結君もご存知だと聞いています」
 おもむろに、那岐の父が話し始めた。
「はい」
「何でも、一度那岐と一緒に幽霊を見たとか。それなら、あまり余計な説明はいらないかもしれないですね」
那岐の父がそう言って笑う。笑った時の顔が、やはり那岐に似ている。
「そう、ですね」
つい最近はもっと深く関わるような事があったのだが、話がややこしくなりそうなので当然言わないでおく。
「穂結君は、退魔屋という仕事をどう思いますか」
「え?」
 急な質問に、煌津は戸惑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

処理中です...