9 / 100
第一章
カンナギ・ガンスリンガー 6
しおりを挟む
宮瑠璃市立宮瑠璃東高校は、小高い丘の上にある。そこの2‐C教室が、煌津のクラスだ。建物は古く、九十年代の半ばに建てられたのだという。教科書やノートや提出物でさえも、タブレット一つで済むご時世だが、以前からこの学校にいる先生の中には、未だに黒板を利用する人もいる。
相遇因縁得立身
花開不競百花春
薔薇汝是應妖鬼
適有看來惱殺人
古典の教科書に表示された、一見物騒な字面の漢詩を眺める。『菅家文草』という本に収められている『殿前の薔薇を感む、一絶』という漢詩だった。
「殺人だって」
「怖ぁっ」
隣の席でひそひそと話す声が聞こえる。転校して一週間が経過しているが、煌津は特定の誰かと話してはいなかった。休み時間は教室にはあまりいないようにしていたし、帰りはいつも早い。人と話すより勉強に集中しているほうが楽だ。こうして人を遠ざける雰囲気を作っていたおかげで、煌津に進んで話しかけて来るクラスメイトは一人もいない。
「えー、菅家文草という名前から想像がつくかもしれませんが、作者は菅原道真です。皆さんご存知の通り、宮瑠璃という名前の名付け親と言われており、天神様、有名な学問の神様であり、怨霊としても知られていますね」
「やっぱ怖いじゃん」
クラスのうちの何人かが笑う。古典の先生は気にも留めていない。まるで書き慣れているかのように、黒板にスラスラと漢詩を書いていく。
「えー、因縁に相遭いて、身を立つること得たり。花開くも、百花の春に競はず……」
「先生、タブレットに書いて送ってよ。黒板じゃ画面に残らないじゃん」
「授業の録画を見てください。これは残しておきますから、あとで、カメラで撮ってもいいですよ」
あくまでもペースを崩さずに、先生は授業を続けていく。煌津はタブレットの画面に黒板の文字を機械的に写した。あまり集中出来ていない。頭の中は、学校に来る途中からずっと、別の事を考えている。
チャイムが鳴る。先生がチョークを置いた。あっ、と声にならない声で呟く。最後のほう、解説を全然聞いていなかった。
「えー、次回は小テストを行いますので、これまでの授業の復習をしておいてください。それでは日直の人」
「はい。起立」
煌津は慌てて号令する。礼。ありがとうございました。
転校もそこそこに、もう日直だ。画面を上書き保存して、タブレットにペンタブを戻す。
「穂結君、理科準備室の場所わかった?」
隣の男子生徒が声をかけてきた。彼はもう一人の日直だった。
「あぁ、大丈夫だったよ。鍵は開けて先生に返しておいたから」
「オッケー、ありがとう~」
次の授業は化学だ。準備をしないといけないが、気になる事が頭を離れない。
――今朝の女子生徒。
相遇因縁得立身
花開不競百花春
薔薇汝是應妖鬼
適有看來惱殺人
古典の教科書に表示された、一見物騒な字面の漢詩を眺める。『菅家文草』という本に収められている『殿前の薔薇を感む、一絶』という漢詩だった。
「殺人だって」
「怖ぁっ」
隣の席でひそひそと話す声が聞こえる。転校して一週間が経過しているが、煌津は特定の誰かと話してはいなかった。休み時間は教室にはあまりいないようにしていたし、帰りはいつも早い。人と話すより勉強に集中しているほうが楽だ。こうして人を遠ざける雰囲気を作っていたおかげで、煌津に進んで話しかけて来るクラスメイトは一人もいない。
「えー、菅家文草という名前から想像がつくかもしれませんが、作者は菅原道真です。皆さんご存知の通り、宮瑠璃という名前の名付け親と言われており、天神様、有名な学問の神様であり、怨霊としても知られていますね」
「やっぱ怖いじゃん」
クラスのうちの何人かが笑う。古典の先生は気にも留めていない。まるで書き慣れているかのように、黒板にスラスラと漢詩を書いていく。
「えー、因縁に相遭いて、身を立つること得たり。花開くも、百花の春に競はず……」
「先生、タブレットに書いて送ってよ。黒板じゃ画面に残らないじゃん」
「授業の録画を見てください。これは残しておきますから、あとで、カメラで撮ってもいいですよ」
あくまでもペースを崩さずに、先生は授業を続けていく。煌津はタブレットの画面に黒板の文字を機械的に写した。あまり集中出来ていない。頭の中は、学校に来る途中からずっと、別の事を考えている。
チャイムが鳴る。先生がチョークを置いた。あっ、と声にならない声で呟く。最後のほう、解説を全然聞いていなかった。
「えー、次回は小テストを行いますので、これまでの授業の復習をしておいてください。それでは日直の人」
「はい。起立」
煌津は慌てて号令する。礼。ありがとうございました。
転校もそこそこに、もう日直だ。画面を上書き保存して、タブレットにペンタブを戻す。
「穂結君、理科準備室の場所わかった?」
隣の男子生徒が声をかけてきた。彼はもう一人の日直だった。
「あぁ、大丈夫だったよ。鍵は開けて先生に返しておいたから」
「オッケー、ありがとう~」
次の授業は化学だ。準備をしないといけないが、気になる事が頭を離れない。
――今朝の女子生徒。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる