ぐるりぐるりと

安田 景壹

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第一章

カンナギ・ガンスリンガー 6

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 宮瑠璃市立宮瑠璃ひがし高校は、小高い丘の上にある。そこの2‐C教室が、煌津のクラスだ。建物は古く、九十年代の半ばに建てられたのだという。教科書やノートや提出物でさえも、タブレット一つで済むご時世だが、以前からこの学校にいる先生の中には、未だに黒板を利用する人もいる。

    相遇因縁得立身
    花開不競百花春
    薔薇汝是應妖鬼
    適有看來惱殺人

 古典の教科書に表示された、一見物騒な字面の漢詩を眺める。『菅家文草かんけぶんそう』という本に収められている『殿前の薔薇をむ、一絶』という漢詩だった。

「殺人だって」
「怖ぁっ」

 隣の席でひそひそと話す声が聞こえる。転校して一週間が経過しているが、煌津は特定の誰かと話してはいなかった。休み時間は教室にはあまりいないようにしていたし、帰りはいつも早い。人と話すより勉強に集中しているほうが楽だ。こうして人を遠ざける雰囲気を作っていたおかげで、煌津に進んで話しかけて来るクラスメイトは一人もいない。

「えー、菅家文草という名前から想像がつくかもしれませんが、作者は菅原道真です。皆さんご存知の通り、宮瑠璃という名前の名付け親と言われており、天神様、有名な学問の神様であり、怨霊としても知られていますね」

「やっぱ怖いじゃん」

 クラスのうちの何人かが笑う。古典の先生は気にも留めていない。まるで書き慣れているかのように、黒板にスラスラと漢詩を書いていく。

「えー、因縁に相遭いて、身を立つること得たり。花くも、百花の春に競はず……」

「先生、タブレットに書いて送ってよ。黒板じゃ画面に残らないじゃん」

「授業の録画を見てください。これは残しておきますから、あとで、カメラで撮ってもいいですよ」

 あくまでもペースを崩さずに、先生は授業を続けていく。煌津はタブレットの画面に黒板の文字を機械的に写した。あまり集中出来ていない。頭の中は、学校に来る途中からずっと、別の事を考えている。

 チャイムが鳴る。先生がチョークを置いた。あっ、と声にならない声で呟く。最後のほう、解説を全然聞いていなかった。

「えー、次回は小テストを行いますので、これまでの授業の復習をしておいてください。それでは日直の人」

「はい。起立」

 煌津は慌てて号令する。礼。ありがとうございました。

 転校もそこそこに、もう日直だ。画面を上書き保存して、タブレットにペンタブを戻す。

「穂結君、理科準備室の場所わかった?」

 隣の男子生徒が声をかけてきた。彼はもう一人の日直だった。

「あぁ、大丈夫だったよ。鍵は開けて先生に返しておいたから」

「オッケー、ありがとう~」

 次の授業は化学だ。準備をしないといけないが、気になる事が頭を離れない。

 ――今朝の女子生徒。
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