ぐるりぐるりと

安田 景壹

文字の大きさ
上 下
2 / 100
序章

九宇時那岐 2

しおりを挟む
 那岐と知り合ったのは中学二年生の頃だったが、出会った当初はここまで話してはくれなかった。今では一緒に遊びに行ったりする仲だ。今日は試験が終わったのでカラオケに行こうと思っているが、いつもなら駅までのバスに乗れるはずなのに、今日は待っていても来なかった。そんなわけで、駅までニ十分くらいかかる道を、こうしてだらだらと歩いている。前を歩く女の人も、きっとバスに乗り遅れたクチだろう。

「お経って、効くの? その、悪霊とかに」
「お坊さんが唱えたほうが効くのは間違いないね。修行しているから。でも、もし出くわしたら唱えないよりは唱えたほうがいいよ」
「いやだよ、悪霊に出くわすの」
「呪いのビデオよりは出くわす確率高いよ。魔除けの方法を知りたいかい? 他人に肩を払ってもらうとか、塩撒くだけでも効果はあるね」
「やめてくれよ……」
「ふふふ。まあ本人が好き好んで悪霊なっているってパターンだけじゃないからね。色々と巡り合わせでそうなるものだから……」

 そこまで言って、那岐はひと息つくと、急に前方をじっと見た。

「穂結さん、俺達どのくらい歩いていたっけ」

 那岐は流行りのテレビ番組の真似をして、煌津の事を『穂結さん』と、後ろのほうを跳ねあがらせて呼ぶ。それはともかく、煌津は腕時計を見た。

「えーと、あれ、三十分くらい経ってる?」
普通なら、もう駅に着いている頃だ。だが、煌津も那岐も、まだ通り道である住宅街の中にいる。
「うん?」
「穂結さん、そのまま――」

 那岐が何か言いかけていたが、聞き終わるよりも早く、それまで自分達が歩いて来た距離を確かめようと、煌津は足を止めて後ろを振り返っていた。

 道の向こうに赤い服を着た女の人の後ろ姿が見えた。腰まで届きそうな長い茶髪だが、少しボサボサしているようにも見える。だが、引っ掛かったのはそんな事じゃない。

「ううん?」

 煌津は、再び自分達の進行方向へと顔を向けた。
 前方に、赤い服を着た女の人の後ろ姿が見える。

「え、嘘。何で――」

 煌津は、もう一度後ろを見た。

「ぼぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 全身をのけ反らせ、目玉をひん剥いた逆さの顔が、目の前にあった。

「うわぁああっ!?」

 驚く間もなく、煌津は襟首を掴まれると、後方へと引っ張られる。

「ちょっと、ごめんよ」
「九宇時!?」

 逆さの顔をした女の髪は、生きているように蠢いていた。禍々しい気配を漂わせ、白目の広い目玉は怒っているのか驚いているのか、とにかくそんな感じだ。胸の奥がぎゅうっと掴まれているかのように、息をするのも苦しくなってくる。耳鳴り、いや重低音で耳の中を殴られているかのような低く鈍い人間の唸り声がそこかしこから聞こえる。全身が麻痺していく。骨や筋肉の動きを一切禁じられたかのような。動けない。逃げなければいけないのに、動けない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

処理中です...