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67欲しいのは

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「だ、第一王子殿下?」

ベルナンディウス王子が、気怠げに佇まれ片手で肩まで切り揃えられた長めの髪を掻き上げ此方を睥睨した眼で見詰めた

背筋に冷や汗が止まらず、逆に涙は止まった。別の意味では泣きそうだ

「大変申し訳御座いません。殿下の部屋と知らず足を踏み入れてしまった事、お詫び申し上げます」

メイドは何時の間にか繋いでいた手を離し後ろに下がって行っていた。

そんな事より私は如何に、この場を切り抜けられるかだけを考えていた。

場合に寄っては不敬罪でお祖父様や伯父様、義兄様にも長年兄妹とした責任が持たされるだろう

丁寧にカーテシーをし、頭を下げて言葉を待つ。 

「レンファ、顔をあげて?」

衣擦れの音が目の前に鳴り、顔を上げれば直ぐ側に王子が立っていた。
久しぶりにお会いする王子はやはりお祖父様に当たるルファ様が亡くなってお辛いのかかなり、顔色悪く悲しげに微笑まれる。

1人悲しみを堪えていらっしゃる時に呼ばぬ来訪者で邪魔をしてしまい申し訳無く、もう1度頭を下げた

「偉大なる前国王陛下崩御、お悔やみ申し上げます。また一貴族に関わらず直接ご挨拶させて頂きました事、過分のご配慮に御礼申し上げま、」

其処までで声を出せなくなった
殿下が私の頭を両手で掴み、顔を上げさせたからだ

びっくりして顔をまじまじ眺めてしまった

「良いのだよ、あのアンバードが居たのだから挨拶は当然だろう?お祖父様も充分、国の為に尽くし満足されたからね、安心して旅立たれた事だろう」

「は、はい…」

それしか言えなかった。優しげな言葉や顔立ちは一見、第二王子よりも強いのに歳が上だからか昔から稀に挨拶するだけの第一王子が怖くて。
乾く喉を生唾を飲み込んで抑えた

「それにレンファには私の側妃もしくは愛人になって貰うから、丁度良かった」

!!?

何を言われて居るのか一瞬、理解出来なかった。縫われた様に動かない私を引摺り、部屋のソファーへ座らせる

愛人に、する?

前なら聞いても単に義弟の後始末を兄として責任をお取りになるつもりかぐらいだったが、義兄が即座に断った筈だ。

今はお祖父様から話を聞いて、私の身を保護して下さる為にかも知れないと思いたいが、何かが可笑しいと頭に警報が鳴る

確かに王子が国王になるか、立太子の内示を受けたかすら、義兄や伯父様が動か無い所を見るとまだのようだ、としか察し出来ない
ならば愛人になるのか?
なるしかないのだろうか?王族の身なら家臣と違って愛人と子を持っても表面上ではトラブルにならない。私生児の王族が出来るだけだ

「余り深く考えなくて良いよ。愛人なら気楽に商売を好きなだけして良いし。レンファは昔から物を作るのが好き、なんだよね?」

小さい頃から幾つか開発したのは幾ら義父の名を借りて行ったとしても王族は勿論、把握済みで。

…作るの大好きだと思われた?

「殿下、身に余るお申し出、有難き幸せですが私の一存では決められませんわ。今はルアージュの身、後見人の祖父か義父様が決めた先に私の未来が有るのです」

前に義兄が既に決めたと言っていたが今、私の身をどうするか決める権利が有るのは伯爵家だ。
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