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第三部 ―ベルベット・スカーレット―

ep.36 自由と平和のために、僕は飛び立つ!(完)

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「ふむ… また、ここへ訪れる事になるとはね」

 マゼンタが、懐かしむように眺めた。

 眠っている間にいける「上界」。その一角にある地獄。
 原始地球がモチーフのここは、空が暗く、今日も遠くで多くの隕石が降っている。

「フン、神の大誤算ってやつだろ。まさか異世界に飛ばされるなんて誰が予想した?」

 と、シアン。さらに、

「せやな。セリナも災難やったのう。最初は殆どの力失ってもうて」

 と、カナルも同伴である。
 先代魔王3きょうだい「CMY」が、漸く集結したのだ。



「いくよ。歯ぁ食いしばりな」


 マゼンタが僕に向けて手を翳し、魔力を秘めた光の玉を作り出した。

 光は、どんどん僕へと近づく様に大きくなる。そして――

 ドーン!
「うっ…!」

 光が、僕へとぶつけられた。ちょっと痛い。
 僕は自身の胸元を押さえた。光はスーッと体内へ沁みていった。


「どう?」

 手を下ろしたマゼンタが、そう尋ねる。
 ほか2人も様子を見つめる中、僕はその胸の熱さが少しずつ、背中へと浸透している感覚を覚えたのだ。

「この感じ… 覚えてる… きっとそうだ、俺も、やっと…!」

 背中が、熱い。今にも爆発しそう。
 でも、この感覚は期待していいやつ!


 バーン!!

「「「!!」」」

 CMYは目を見開いた。
 僕はその“発現”によって、大きく胸を広げ、体が前へと押し出された。

 背中から、遂にでたんだ。
 アレクサンドラトリバネアゲハの―― 地水火風、全ての属性で形作られた「てんこ盛り」の翼が、羽化したのである!

「わぁ。ははっ」

 これは嬉しい力の奪還!
 その大きな翼を背に、僕は笑顔で飛行を行ったのであった。



「おー、遂に空を飛べるようになったか。相変わらずデカい翼だな」

 と、そこへイングリッドが顔を出してきた。
 いつの間にこの地獄へきたのだろう、僕はすぐに降り立つ。CMYも近くで見ている中、イングリッドからこう告げられた。

「ところで真面目な話になるが… 遂に、戦争が始まるんだってな」
「…うん」
「神の力を悪用する組織が相手だ、こちらとしても無視できない。あのイシュタという少年も覚醒し、CMYが揃った今、俺も後でそっちへスポーンするよ。

 その前に、お前に力を渡さないとな」


 そうだった。ミネルヴァの雨の力があるなら、太陽の力もあって然り。

 僕は翼をフェードアウトさせ、再び力を受け取る体勢に入った。
 イングリッドが手を翳し、ふわっとオレンジ色の明るい光を生み出す。

 その光は、僕の体を優しく包み込んでいった。


 ぽかぽかする。これが「晴れ男」のもつ力か。
 試しにこの世界の原始太陽へと手を伸ばし、活発にしてみようか… と思ったけど、流石にそれはココがただでは済まない事になりそうなのでやめておく。


「…あれ?」

 だが、僕は妙な違和感に気づいた。
 カナルが僕の姿を見て回る様に歩いているが、その度にオーラ的な“ナニカ”も、一緒に動いている様に感じるのである。


 まさか。


「カナル、ちょっとクリスタル貸して」
「は? なんでや」
「とにかく。すぐ返すから」

 僕はそうカナルにねだった。彼女は渋々とクリスタルチャームを手渡す。

 僕は緊張している。多分そう。
 クリスタルを持ち、片手で静かに念じてみた。すると怪訝そうに見つめるカナルが…

 しゅぽん♪
「「え!?」」

 なんと! 一瞬で全身が光のスライムとなり、そのままチャームに吸い込まれたのだ。
 僕も驚いた。けど、つまりそういう事だ! 僕は、次にカナルが吸われたそのチャームを空へ掲げ、心で念じた。
 するとクリスタルの発光が、強まっていき――


 ドーン!!


 光のスライムが、勢いよく発射されたのだ。
 それは弧を描きながら地上へ落ち、すぐに人の姿を形成したのであった。

 ストッ
「ひぃ。もう、なんやねん急に! い、今ウチ何が起こった?」


 と、カナルが恐ろしいものを味わった顔で動揺する。
 そう。僕はクリスタルに、持ち主を出し入れできる力まで手に入れたのだ!
 そうか。これがあの「魂の息吹」とかいう…


「お… おまじないまで使えるとか、流石に予想外だぞ。お前」
 と、イングリッドも怯えだす始末。渡したのが太陽神の力なのだから仕方ない。

 それでも、僕は嬉しかった。
 つまりこれからは、僕も空を飛びながら、おまじないで仲間を解放できるということ。

 お母さん、ぼく一気に覚醒したよ!
 そう叫びたくなるような、最高の瞬間であった。



 ―――――――――――



「…」

 ボスコ―花畑。その敷地内に、新たに建てられた慰霊碑。
 退院後、マリアとアニリンは静かに黙祷を捧げた。

 慰霊碑には多くの故人の名が刻まれており、その中には、ソルフェリーノ家とクライオ家の名前もある。

「…僕ね。もう、なんとなく気づいてたんだ」

 黙祷を終えたアニリンが目を開き、そう呟く。マリアははっとして見つめた。

「世界は、進んでいて、僕だけ時が止まってた――。だから両親も、当時のご近所さんも、もういない・・・・・んだって、ここへ戻った時に気づいたの」

「アニリン」

「でもね。僕、もう大丈夫だよ。お姉ちゃん達がいるから、寂しくない!」

 そういって、アニリンが明るい笑顔を見せた。
 長い苦痛を味わってきたとは思えないほど、キラキラしている。そして彼は歩いた。


「僕、これからお世話になるお家で、今度こそ幸せになるよ。

 じゃあねお姉ちゃん。そして、今日まで沢山ありがとう!」


 そういって、彼は花畑前で待ち合わせているオーク親子の元へと走っていった。
 そう、あのミハイル親子だ。この度、アニリンは新たな家族の一員として、彼らに迎え入れられたのである。
 マリアはその姿を、憂い笑顔で見送った。

 そこへ、ジョンがすれ違った。
 頭の怪我が治ったので、彼も漸く退院できた身である。

「お? 大きくなったなアイツ。ようマリア、今までご苦労さん」

「あ、ジョナサンこそお疲れ。あれ? アニリンそんな大きくなった?」

「あぁ。お前いつも一緒にいたから気づかなかったか? 最初の頃よりだいぶ背が伸びたぞ。顔つきも大人に近づいていってる。ピアスを抜いたからかもな」

「!!」

 マリアは息を呑んだ。言われてみれば、アニリンは最初の時より逞しくなったかも。

 その理由を思い出し、目頭が熱くなる。彼女は、自身の涙を拭いながら呟いた。


「そうか… アニリン、ずっと成長を止められていたものね。
 でももう、そのかせは外れた… グスッ。彼の、時間が、再び動き出したんだ… やっと、やっと…! うぅ」


 マリアの嬉し涙を受け止める様に、ジョンが彼女の肩に手を乗せ、共に遠景を眺める。

 長い時を経て、アニリンは、遂に本当の「自由」を手に入れたのであった。



 ――――――――――



 サリイシュが見た夢の内容とは、一体何なのか。
 それはまた後で聞いてみるとして。僕はあのあと自宅で、マリアから預けられた、あの雪原の地下で拾われた英字ブロックを手に取っていた。

 戦争が始まるまでに、少しでもこちらが有利になりそうな情報収集ができればと思っていたのだが…


「あれ?」


 僕は気が付いた。eとdのブロックを、隣同士くっつけてみる。

 ぴったりくっついた!
 そうか。これ、元々は1つの英単語つづりなのを割ってバラバラにしたんだな?
 そう思い、ここは直感的に並べ変えてみる。すると――



「…」


 パズルは、意外と簡単に揃えられた。
 だけど、その答えが、あまりにも衝撃的だった。


 ドラデム、じゃない。
 なぜ、あの人の名前が…



 僕が解いたその人名とは… 「edwardエドワ-ド arkusアルクス」。
 礼治のミドルネームだったのだ。



【クリスタルの魂を全解放まで、残り 5 個】



第三部 ―ベルベット・スカーレット― 完



※ここまでの道筋(~第三部 完結)


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