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第一部―カナリアイエローの下剋上―

ep.18 人魚の正体は、母神様でした。※

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※残酷な表現が含まれます。ご注意ください。



 「アゲハ! セリナ! こっちへ来てください。大変な事が…」


 僕とアゲハが陸に戻り、ビーチを後にしようとしたその時だ。
 海岸沿いにいるリリーが、慌てた表情でそう声をかけた。

 そういえば、ここビーチにはルカとリリーを連れてきているが、確かアゲハが元気づける為に誘ったんだっけ。
 その2人が、僕たちが宝探しをしている間に何かあったようで。
 僕たちは急いでその現場へと向かった。



 バチバチ、ビリリッ、ピピーッ。プツン。

 「イ… イ、エ…」


 僕は目を疑った。



 砂浜の上には、小学校低学年くらいの大きさの、女児の姿をした機械人形。

 その子は俯けで、無残にも下半身をバラバラに砕かれ、電流をほど走らせながらカクカクとうめいていた。
 こんな異世界に、それも中世の西洋と東洋がごっちゃになったような場所に、近未来的なメカが存在するなんて、意外だった。

 でも、こうしてここに機械人形が?

 「なにがあったのですか? 誰が、なぜ、こんな事を…?」

 ルカが膝をつき、その機械人形に話しかける。
 不意に攻撃されたらどうするんだという心配はあったが、女の子にそこまでの力は残っていないのだろう。瞳のハイライトが、徐々に失われているからだ。

 「イエ… ロ… キ、ケン… コロ、セ… メイジ… デキ、ナ、カ… タ」


 瀕死状態だから、言葉はたどたどしいけど、なんとなく言っている事は分かる。
 恐らく拒否したくなるような、何か理不尽な任務を任されたのだろう。
 その… 「危険」な、「イエロー」に関係する“何か”に。


 すると、その言葉をきいたアゲハの視線が、途端に鋭くなった。

 「富沢伊右衛郎いえろうか。そいつに“捨て駒”にされたんだな?」

 富沢―― この前も耳にした名前だ。
 すると、彼女は続けて女の子の元へ歩み寄った。
 ルカ同様、膝をつき、女の子の左上腕に刻まれている英数字の印をみて、こう呟く。

 「『N3』… あの時・・・は『N2』… という事は、また何処かへの襲撃を終えた後か」

 リリーとルカが、同時に怪訝な表情でアゲハへと振り向いた。
 それもそうだろう。僕でさえ、その「襲撃」やら「N2」やら、一体何の事かサッパリだ。

 「イエ… ロ… イケ、バ… タイ、カイニ… ウ、ショ、ウ… アッテ… タオ、シ…」



 プシュー…



 最期の力を、振り絞ったのだろう。
 機械人形の女の子は、そのまま回線が焼き切れを起こし、動かなくなった――。


 「アゲハさん。この機械の出所について何かご存じのようですが、一体?」

 事が終わり、ルカが立ち上がる序でにアゲハに訊いた。


 アゲハは思いつめるように俯く。しばらくして、遂にその問いに答えた。

 「『フェデュート』――。この女の子は、その傘下の『富沢商会』が保有している機械だ。
 フェデュートはこの海の向こうで浮遊し続ける空中都市、フェブシティの特殊部隊だよ。
 ここアガーレール王国は一度、奴らからの襲撃被害に遭っている。

 …かろうじて全滅は免れたけど、それでも大量の銃やミサイルなど、近代文明が進んだ敵国相手に、私と国民の数だけでは到底太刀打ちはできなかった――」



 やはりそうだったのか…!
 今までのアゲハの建国裏話と、国民の反応からして、何となくそんな予感はしていた。

 今でさえ、アガーレール王国は大自然に囲まれた美しい景観の国だけど、きっとそれはそれだけ「手づかずのまま」だからではなく、「一度文明を破壊された」からなのだろう。
 通りで、あのサリイシュの一軒家以外にこれといった立派な民家は見当たらず、王宮に至ってはインターホンやガラケーといった現代要素が、そこにしか存在しない・・・・・・・・・・わけだ。

 リリーもルカも、今の話をきいて口を閉ざした。アゲハはこう続けた。

 「この残骸は、私が研究材料として預かる。アキラはサリバとイシュタに会って、そのチャームに眠っている仲間の解放を!」
 「わかった」

 機械人形の死に際に、全て持っていかれていた。
 そうだ、今の僕がするべきは、クリスタルチャームの魂の解放である。僕は我に返り、アゲハの指示通りこの場を後にしたのであった。



 ――――――――――



 「わぁ! ちょうど海を見に行こうと思っていた所なのー♪ 奇遇ね」
 「とはいっても、ただ両親の事を思い出して、神様にお祈りをしにいくだけだけど」



 まさかの合流だった。
 ちょうど僕がビーチを後にし、平地に上ろうとした所でサリイシュと出会ったのだ。

 ちなみに今、ビーチではちょうどアゲハ達による機械回収が行われている。

 「え? またチャームを見つけたの!?」
 サリバのその驚き顔の通り、僕は海で拾い上げたチャームを提示した。
 序でに、一応確認のために訊いておこうか。

 「あぁ。ところで、さっきイシュタがいった『神様』というのは?」
 「あぁ、母神様のこと。この土地では、昔から海を『はじまりの母』と拝めているんだ。
 確か、両親が言っていたのは… 僕たち生き物はみな、最初は海からはじまっているのだから、その海の存在に感謝し、神様を怒らせるような事はしちゃいけないよって」

 なるほどね。いわゆるガイア的なやつ? よく分からないけど。
 でもその教えはかなり的を射ているなぁ、と僕は思った。2人はチャームに手をかざした。

 「せっかくだし、解放してからお祈りにいく?」
 サリバに訊かれ、イシュタは頷いた。
 驚くほど空気が読める子たちだ。僕はチャームを両手の平に乗せて身構えた。

 お馴染みの、白く発光するシーンから始まって、次に虹色に分離してからの――。



 ドーン!!



 チャームから発射された光は孤を描き、海の浅瀬へと落下した。
 それはまるで計算されているかの様に、そっちで光が泳ぎ、どんどん形作られていく。

 光は、やがて1尾の人魚ののち、美しい女性の姿となって実体化した。


 「ぷはぁ…!」

 海面へ浮上するように実体化したのは、透き通るような白い肌に、金髪碧目の高身長美女。
 メンダコもとい、海の生物をかたどったロゴが印象的なチャームの持ち主―― ヒナであった。



 「セリナくん… 久しぶりだね。さっきは、海で私を拾ってくれてありがとう」


 海面のしぶきと太陽の光によって、キラキラと輝くそんな場所から、ヒナは微笑む。

 僕はその姿に安堵した。
 そうだ。クリスタルチャームに封印されても、意識はずっと残ったままなんだよ。みんな。


 「ずっと海水に浸ったままだと人魚に変身しちゃうから、先に出ちゃうね」


 そういって、ヒナはビーチへと歩いてきた。
 どうやら、彼女がその浅瀬へとスポーンしたのは「無意識」だったようだ。

 僕はサリイシュへと目を向けた。
 これで解放4人目だからね。ホント、魂の息吹を司る2人には感謝してもしきれな…



 「あわわ…! あわわわわ…!!」


 ん?
 なんだ? サリバのあの冷や汗気味な表情は。
 イシュタまで、今にも狼狽ろうばいを起こしそうだし… デジャブ?


 「い、いま『人魚に変身する』っていった…!」
 「し、しかも金髪で碧目…! ぶ、文献に載っているのと、い、一致している…!」

 と、二人は慌てふためいている。そして、



 「「は、母神様!?」」


 と、揃って耳を疑う発言をしたのだ。

 僕は一瞬、思考が停止した。
 キョトンとなっているヒナと、サリイシュ。双方を何度も見た。



 「えぇぇぇぇー!!?」

 僕も、これがどういう状況なのか、何となく察してしまった。

 まさかの、ヒナがこの世界の「母神様」!?
 いや、そんなバカな!!?



 【クリスタルの魂を全解放まで、残り 21 個】



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