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11:お茶会はサクサク
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伯爵家で主催されるお茶会の当日。
出かける準備もせずに、わたしはお茶会に持っていくつもりで焼いたクッキーをせっせと包んでいた。我が家の料理長と一緒に作ったクッキーで、粗熱が取り終わった物を小分けして包んでいるのだ。
大半の行程が料理長なのできっと失敗は無いだろう。
「お嬢様、そろそろ準備をしないと間に合いません!」
アデリナに叱られて、やっと身嗜みを整え始める。
「今日はどうしましょうか?」
きっと来るのは十代前半の令嬢だろう。
ならば、「少し明るめの色で、でも楚々として落ち着きがあるようにお願いね」
色だけは明るく、でも年相応の落ち着きを。
「髪はどうしましょう」
「そうね、今日は暑そうだから上げておいてくれればいいわ」
わたしの髪は縦にクリンとした癖があり、焼きごてを当ててもすぐに戻ってしまう。しかしそれらの部分を一纏めに後ろでくくると、セットをしなくともまるで葡萄の房のように綺麗に纏ってくれるのだ。
わたしは焼いたクッキーを手に馬車に乗り、伯爵家へ向かった。
玄関で執事に挨拶をすると、参加者は全員来ておりわたしが最後だと言われる。
そう言うことかと理解すれば、被害妄想からだろうか、心なしか執事の態度も棘々しい気がしてくるから不思議だ。
執事に案内され連れて来られたのは、庭に建てられた東屋だった。
開いている席は一つ、確かに本日の参加者はわたし以外は全員居るようだ。開いた席は主催者のブリギッテの正面の席、そんな露骨なやり方を見て逆に失笑を誘う。
テーブルに座る参加している令嬢を見れば、予想通り、皆が十代前半のようだ。さらにテーブルに置かれた紅茶のカップを見、そのお茶の進み具合からして既に一時間ほど経過しているだろうか? と、予想した。
招待して頂いたお礼の挨拶をし、さらにわたしは「遅れてしまったかしら?」と、ワザとらしく謝罪をする。
すると、
「いいえ、遅れていませんわ。皆様、偶然予定が開いたそうでちょっと早く来たみたい」
ブリギッテは伯爵令嬢で、わたしは継承不能とは言えど公爵家だ。遅刻する時間をワザと知らせるような嫌がらせは出来ない。
だからこそ皆が勝手に集まったと言う体裁なのだろう。
ブリギッテから席を勧められて座ると、すぐに参加している令嬢たちの紹介が行われた。主催者が伯爵家なのだから、紹介されるのは子爵男爵らの令嬢が多かった。
挨拶を終えた後、わたしは屋敷で焼いてきたクッキーを出した。
「わたしが先ほど焼きましたの、よろしければ皆さんで召し上がってくださいな」
そう言ってもすぐに手が伸びることはない。この子達の今日の立場を考えれば勝手な行動は出来ないだろうしね。
だから、
「ブリギッテ様、お口に合うか分かりませんがどうぞ」
主犯を攻めるべきだ。
今日の目的はたぶん、まず遅れてきた体裁を見せつけて動揺させる、そして会話では露骨に年齢差を前面に押し出して疎外感を与えると共に、お前はおばさんよと烙印を押す事だろう。
あら、想像していたら少しイラっと来たわ……
しかしこの計画には穴がある。
そもそもわたしは公爵令嬢だ。
二十三歳だろうが未婚なのだから誰がなんと言おうとまだ令嬢よ!?
じゃなくて。
主催者とは言え伯爵令嬢が、例えお飾り爵位とは言え公爵令嬢の言葉を無視できるほど、貴族の世界は甘くない。
だからこの名指しは流石に拒否できない。
彼女は本当にしぶしぶ手を出して、クッキーを頬張った。
これは子供好きする甘めのシロップをふんだんに使った、家の料理長お手製のサクサククッキーだ。
子供の頃はとても大好きで良く作って貰っていた。
ちなみに今では、横に来るのが怖くて、わたしには怖くて食べられないクッキーでもある。
それが美味しくないわけはない!
型抜きしたのはわたしだから、形は多少アレだったとしても味は保証する。
だからこそ、彼女の口からポロっと「美味しい」と言葉が漏れても仕方がないのだ。
それを聞いて満足したわたしは、
「このクッキーをどうしても食べて頂きたくて準備してましたの。それで少し遅れてしまったみたいで、申し訳ないですわ。
さあ、皆さんも食べてみてくださいね」
この時点で勝敗は決した。
令嬢とは言えども女の子だ、甘いものには勝てまいよ。
わたしは横に直結する恐ろしいクッキーを口一杯に頬張る、ちびっ子令嬢たちを見ていた。
クッキーの味を知っているだけに、無邪気に食べる姿を見て羨ましくないわけはないが、今は自分が張った防衛策が上手く働いたことの方が大事だ。
防御が終われば攻撃へ。
やられっ放しはわたしの性分ではない!
わたしはもし良かったらと、横に直結するクッキーのレシピをそっと差し出した。
それを嬉々として受け取るブリギッテ。
次回会うのが楽しみだわ、ふふふ。
出かける準備もせずに、わたしはお茶会に持っていくつもりで焼いたクッキーをせっせと包んでいた。我が家の料理長と一緒に作ったクッキーで、粗熱が取り終わった物を小分けして包んでいるのだ。
大半の行程が料理長なのできっと失敗は無いだろう。
「お嬢様、そろそろ準備をしないと間に合いません!」
アデリナに叱られて、やっと身嗜みを整え始める。
「今日はどうしましょうか?」
きっと来るのは十代前半の令嬢だろう。
ならば、「少し明るめの色で、でも楚々として落ち着きがあるようにお願いね」
色だけは明るく、でも年相応の落ち着きを。
「髪はどうしましょう」
「そうね、今日は暑そうだから上げておいてくれればいいわ」
わたしの髪は縦にクリンとした癖があり、焼きごてを当ててもすぐに戻ってしまう。しかしそれらの部分を一纏めに後ろでくくると、セットをしなくともまるで葡萄の房のように綺麗に纏ってくれるのだ。
わたしは焼いたクッキーを手に馬車に乗り、伯爵家へ向かった。
玄関で執事に挨拶をすると、参加者は全員来ておりわたしが最後だと言われる。
そう言うことかと理解すれば、被害妄想からだろうか、心なしか執事の態度も棘々しい気がしてくるから不思議だ。
執事に案内され連れて来られたのは、庭に建てられた東屋だった。
開いている席は一つ、確かに本日の参加者はわたし以外は全員居るようだ。開いた席は主催者のブリギッテの正面の席、そんな露骨なやり方を見て逆に失笑を誘う。
テーブルに座る参加している令嬢を見れば、予想通り、皆が十代前半のようだ。さらにテーブルに置かれた紅茶のカップを見、そのお茶の進み具合からして既に一時間ほど経過しているだろうか? と、予想した。
招待して頂いたお礼の挨拶をし、さらにわたしは「遅れてしまったかしら?」と、ワザとらしく謝罪をする。
すると、
「いいえ、遅れていませんわ。皆様、偶然予定が開いたそうでちょっと早く来たみたい」
ブリギッテは伯爵令嬢で、わたしは継承不能とは言えど公爵家だ。遅刻する時間をワザと知らせるような嫌がらせは出来ない。
だからこそ皆が勝手に集まったと言う体裁なのだろう。
ブリギッテから席を勧められて座ると、すぐに参加している令嬢たちの紹介が行われた。主催者が伯爵家なのだから、紹介されるのは子爵男爵らの令嬢が多かった。
挨拶を終えた後、わたしは屋敷で焼いてきたクッキーを出した。
「わたしが先ほど焼きましたの、よろしければ皆さんで召し上がってくださいな」
そう言ってもすぐに手が伸びることはない。この子達の今日の立場を考えれば勝手な行動は出来ないだろうしね。
だから、
「ブリギッテ様、お口に合うか分かりませんがどうぞ」
主犯を攻めるべきだ。
今日の目的はたぶん、まず遅れてきた体裁を見せつけて動揺させる、そして会話では露骨に年齢差を前面に押し出して疎外感を与えると共に、お前はおばさんよと烙印を押す事だろう。
あら、想像していたら少しイラっと来たわ……
しかしこの計画には穴がある。
そもそもわたしは公爵令嬢だ。
二十三歳だろうが未婚なのだから誰がなんと言おうとまだ令嬢よ!?
じゃなくて。
主催者とは言え伯爵令嬢が、例えお飾り爵位とは言え公爵令嬢の言葉を無視できるほど、貴族の世界は甘くない。
だからこの名指しは流石に拒否できない。
彼女は本当にしぶしぶ手を出して、クッキーを頬張った。
これは子供好きする甘めのシロップをふんだんに使った、家の料理長お手製のサクサククッキーだ。
子供の頃はとても大好きで良く作って貰っていた。
ちなみに今では、横に来るのが怖くて、わたしには怖くて食べられないクッキーでもある。
それが美味しくないわけはない!
型抜きしたのはわたしだから、形は多少アレだったとしても味は保証する。
だからこそ、彼女の口からポロっと「美味しい」と言葉が漏れても仕方がないのだ。
それを聞いて満足したわたしは、
「このクッキーをどうしても食べて頂きたくて準備してましたの。それで少し遅れてしまったみたいで、申し訳ないですわ。
さあ、皆さんも食べてみてくださいね」
この時点で勝敗は決した。
令嬢とは言えども女の子だ、甘いものには勝てまいよ。
わたしは横に直結する恐ろしいクッキーを口一杯に頬張る、ちびっ子令嬢たちを見ていた。
クッキーの味を知っているだけに、無邪気に食べる姿を見て羨ましくないわけはないが、今は自分が張った防衛策が上手く働いたことの方が大事だ。
防御が終われば攻撃へ。
やられっ放しはわたしの性分ではない!
わたしはもし良かったらと、横に直結するクッキーのレシピをそっと差し出した。
それを嬉々として受け取るブリギッテ。
次回会うのが楽しみだわ、ふふふ。
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