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28:エピローグ
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わたしとハロルドは街の大通りの一角にある、あの老舗の小洒落たレストランにきていた。ただし本日はケーキの試食ではなくて、本来のヒソヒソ話をする目的でここを利用している。
と言うのも。
あれから数日後、ルーカスたちは屋敷から姿を消してた。
屋敷には遠く及ばないけれど、ハロルドがある程度の金や宝石を工面して渡したと言うし、ルーカスもそれなりの財産を持っていたはずなので路頭に迷う事はないだろう。
「あの屋敷はどうするの?」
「兄さんが残した手紙によると受け取りを放棄したという扱いでいいそうだよ」
「そう……」
「ねぇエーデラはあそこに住みたい?」
「いいえ。わたしはあなたと歩むと決めたんだもの。あの場所に未練なんてないわ」
「そっか。じゃあ売って新居の足しにするかな~」
「あの、前から言おうと思っていたんだけど、わたしは同居でも構わないわよ?」
わたしとルーカスが新居にこだわったのは愛人を密かに囲ったからで、その必要が無いのならば、おじ様もおば様も昔から付き合いのあるお二人だから別に同居で問題ない。
いや、まぁいまはちょっとアレだけど……
でもいつまでも逃げていても改善しないから、ここはさっさと腹を括るべきよね。
「いやぁそれは僕が嫌だなぁ」
「あらどうして」
「だって同居するとこうしてエーデラに触れる機会が減るじゃないか」
そう言うとハロルドは手を下ろしてわたしの太ももに触れた。テーブルの下のことなので、イルマには見えていないが、まあ前後の会話の流れとハロルドの手がテーブルの上から消えた事から、きっと事情は知れているだろう。
えーと、〝陛下の仕事を無駄にしない〟と言う取り決めだから、わたしたちは婚約じゃなくて婚姻済みでいいんだっけと頭を悩ませた。
つまりこの手を叩くか、それとも許すかの話だ。
わたしはあれきりシュナレンベルガー公爵家暮らしだし、結婚式をやるかやらないかの話も同じで、どれもこれも今の状況は宙ぶらりん過ぎる。
「わたしとあなたはいまどういう関係なのかしらね?」
「形式上は婚姻を結んだ夫婦だけど……
そう言うことが聞きたいわけじゃないよね。
そうだなぁ兄さんの事がやっと片付いたし、帰ったら父上とちゃんと話してみるよ。もちろん新居のこともね」
「新居はどっちでもいいわ」
「そんなぁ」
「だって触れ合うのに場所なんて関係ないでしょう」
その証拠とばかりに足に乗せられた彼の手を引いて、強引に体を傾けさせると、その頬にそっと唇を触れさせた。
ハロルドは目を見開いて驚き、そしてすぐにわたしを抱きしめてきた。
年上だからと余裕ぶって見せてみたが実は内心一杯一杯、思わぬ不意打ちに口から「ヒャッ」とみっともない悲鳴が漏れてカァと顔が赤くなる。
ハロルドはくつくつと笑いながら「無理をしなくていいよ」と耳元で囁いた。
※
それからの事は大抵ハロルドの希望通りに決まった。
例えば新居。
場所こそ今のヴェーデナー公爵家の敷地内だが、わたしたち二人が暮らすには十分なほどの小さな屋敷が建てられた。
ただし応接室や執務室は本邸だけだし、食事も晩餐は本邸で共に食べる約束になっている。
遠すぎず、かと言って決して近くはない距離。
一緒に暮らしても良いとは言ってみたが、いまはまだこのくらいの距離感があるのが有難くて、これを提案してくれたハロルドにはとても感謝している。
例えば結婚式。
本音を言えばやりたくなかった結婚式。
だってねぇ。
誰も口に出しては言わないけれど、参列した貴族らは白け顔。しかし公爵家同士の結婚だからと再びお祝いを言うためにしぶしぶ来たって感じだもの。
おまけに『どの面下げて弟と~』と言う侮蔑と好奇が入り混じった視線が向けられていてツラい。
そんな中、やって来たのはグレーテル。その隣に旦那のブレージを連れていた。
「こんばんはエーデラ。仕方がないから来て上げたわよ」
「ごめんねグレーテル」
「謝罪は結構よ。その代わりここで誓いなさい。
今度こそちゃんとするってね!」
グレーテルはことさら大きな声でそう言ったものだから、周りの貴族はギョッと目を見開いて驚いていた。
「もちろんよ。今度は間違わないわ」
「ハロルド君、ルーカスの件は残念だったが、君は間違ったりしないだろうね」
「ええもちろん。なんせ僕は昔からエーデラ一筋、彼女以外に目を向けるなんてありえませんよ」
「それを聞けて良かった」
ブレージとグレーテルはそれを聞いて互いに頷き合うと、わたしたちに背を向けて声を張り上げた。。
どうだ皆? いま聞いた通りだ。そろそろその辛気臭い顔は仕舞って、素直な気持ちでお祝いを言ってはどうだろう」
ソルヴェーグ侯爵家の若夫婦がそうとりなしてくれたお陰で、近くから少しずつ賛同する拍手が広がって行く。
ついに大きな拍手が聞こえてきてわたしは胸が一杯になった。
突然ハロルドの手がわたしの頬に触れた。
「な、なによ?」
驚いて出した声はすっかり涙声。いつの間にかわたしはポロポロと涙を流していたようだ。
ハロルドからハンカチを借りて目頭を押さえていると、
「エーデラは良い友達を持ってて羨ましいよ」
「そうね。一番の親友かも」
「僕らも彼らに負けないくらいの夫婦になりたいなぁ」
「あらここは〝なりたい〟じゃなくて〝なろう〟って言うところだと思うわよ」
「それもそうだね。
一緒になってくれる?」
「はい、あなた」
─ 完 ─
と言うのも。
あれから数日後、ルーカスたちは屋敷から姿を消してた。
屋敷には遠く及ばないけれど、ハロルドがある程度の金や宝石を工面して渡したと言うし、ルーカスもそれなりの財産を持っていたはずなので路頭に迷う事はないだろう。
「あの屋敷はどうするの?」
「兄さんが残した手紙によると受け取りを放棄したという扱いでいいそうだよ」
「そう……」
「ねぇエーデラはあそこに住みたい?」
「いいえ。わたしはあなたと歩むと決めたんだもの。あの場所に未練なんてないわ」
「そっか。じゃあ売って新居の足しにするかな~」
「あの、前から言おうと思っていたんだけど、わたしは同居でも構わないわよ?」
わたしとルーカスが新居にこだわったのは愛人を密かに囲ったからで、その必要が無いのならば、おじ様もおば様も昔から付き合いのあるお二人だから別に同居で問題ない。
いや、まぁいまはちょっとアレだけど……
でもいつまでも逃げていても改善しないから、ここはさっさと腹を括るべきよね。
「いやぁそれは僕が嫌だなぁ」
「あらどうして」
「だって同居するとこうしてエーデラに触れる機会が減るじゃないか」
そう言うとハロルドは手を下ろしてわたしの太ももに触れた。テーブルの下のことなので、イルマには見えていないが、まあ前後の会話の流れとハロルドの手がテーブルの上から消えた事から、きっと事情は知れているだろう。
えーと、〝陛下の仕事を無駄にしない〟と言う取り決めだから、わたしたちは婚約じゃなくて婚姻済みでいいんだっけと頭を悩ませた。
つまりこの手を叩くか、それとも許すかの話だ。
わたしはあれきりシュナレンベルガー公爵家暮らしだし、結婚式をやるかやらないかの話も同じで、どれもこれも今の状況は宙ぶらりん過ぎる。
「わたしとあなたはいまどういう関係なのかしらね?」
「形式上は婚姻を結んだ夫婦だけど……
そう言うことが聞きたいわけじゃないよね。
そうだなぁ兄さんの事がやっと片付いたし、帰ったら父上とちゃんと話してみるよ。もちろん新居のこともね」
「新居はどっちでもいいわ」
「そんなぁ」
「だって触れ合うのに場所なんて関係ないでしょう」
その証拠とばかりに足に乗せられた彼の手を引いて、強引に体を傾けさせると、その頬にそっと唇を触れさせた。
ハロルドは目を見開いて驚き、そしてすぐにわたしを抱きしめてきた。
年上だからと余裕ぶって見せてみたが実は内心一杯一杯、思わぬ不意打ちに口から「ヒャッ」とみっともない悲鳴が漏れてカァと顔が赤くなる。
ハロルドはくつくつと笑いながら「無理をしなくていいよ」と耳元で囁いた。
※
それからの事は大抵ハロルドの希望通りに決まった。
例えば新居。
場所こそ今のヴェーデナー公爵家の敷地内だが、わたしたち二人が暮らすには十分なほどの小さな屋敷が建てられた。
ただし応接室や執務室は本邸だけだし、食事も晩餐は本邸で共に食べる約束になっている。
遠すぎず、かと言って決して近くはない距離。
一緒に暮らしても良いとは言ってみたが、いまはまだこのくらいの距離感があるのが有難くて、これを提案してくれたハロルドにはとても感謝している。
例えば結婚式。
本音を言えばやりたくなかった結婚式。
だってねぇ。
誰も口に出しては言わないけれど、参列した貴族らは白け顔。しかし公爵家同士の結婚だからと再びお祝いを言うためにしぶしぶ来たって感じだもの。
おまけに『どの面下げて弟と~』と言う侮蔑と好奇が入り混じった視線が向けられていてツラい。
そんな中、やって来たのはグレーテル。その隣に旦那のブレージを連れていた。
「こんばんはエーデラ。仕方がないから来て上げたわよ」
「ごめんねグレーテル」
「謝罪は結構よ。その代わりここで誓いなさい。
今度こそちゃんとするってね!」
グレーテルはことさら大きな声でそう言ったものだから、周りの貴族はギョッと目を見開いて驚いていた。
「もちろんよ。今度は間違わないわ」
「ハロルド君、ルーカスの件は残念だったが、君は間違ったりしないだろうね」
「ええもちろん。なんせ僕は昔からエーデラ一筋、彼女以外に目を向けるなんてありえませんよ」
「それを聞けて良かった」
ブレージとグレーテルはそれを聞いて互いに頷き合うと、わたしたちに背を向けて声を張り上げた。。
どうだ皆? いま聞いた通りだ。そろそろその辛気臭い顔は仕舞って、素直な気持ちでお祝いを言ってはどうだろう」
ソルヴェーグ侯爵家の若夫婦がそうとりなしてくれたお陰で、近くから少しずつ賛同する拍手が広がって行く。
ついに大きな拍手が聞こえてきてわたしは胸が一杯になった。
突然ハロルドの手がわたしの頬に触れた。
「な、なによ?」
驚いて出した声はすっかり涙声。いつの間にかわたしはポロポロと涙を流していたようだ。
ハロルドからハンカチを借りて目頭を押さえていると、
「エーデラは良い友達を持ってて羨ましいよ」
「そうね。一番の親友かも」
「僕らも彼らに負けないくらいの夫婦になりたいなぁ」
「あらここは〝なりたい〟じゃなくて〝なろう〟って言うところだと思うわよ」
「それもそうだね。
一緒になってくれる?」
「はい、あなた」
─ 完 ─
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最後まで読んで頂きましてありがとうございましたー
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読んで頂きありがとうございます。
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そのため作者的にはルーカスは書きやすくて好きでした(人間性が~とは言っていない)
はじめまして、面白くて一気に読んでしまいました。
独りよがりで勝手に暴露してしまうとは思っても見ませんでした...!
是非心優しいハロルドと結ばれて貰いたいものです...
これからも応援しております!
はい初めましてー。
読んで頂きありがとうございます。
この二人はアホの子たち(いい意味)なので! 斜め上を心掛けてます。