5 / 28
05:暇を持て余す
しおりを挟む
結婚式から激動の一ヶ月が終わった。
誘われるまま、夜は週に二~三のペースで夜会に参加。昼も同じく、週に二~三のペースでお茶会に行った。
昼の後の夜なんて日もあって、そりゃあ疲れるわ~と納得することも。
しかしこれは公私の公、つまり公爵家の妻としてのいわばお仕事だから、その分はきっちりお給金に反映されて返ってくるので、悪い気分ではなかった。
さて忙しかったこの一ヶ月、問題の愛人はと言うと。
ルーカスが週の半分近く、わたしと夜を過ごしていたことが気に入らないらしく、大変ご立腹だそうだ。
ちなみにこの情報は、唯一二人で取ると決めた土曜日の晩餐の席で聞いた。
愛人持ちの男と食事を共にするなど真っ平御免だけど、まったく会わないと節々で話の齟齬が生まれるからと、情報交換の意味合いで設けたのだ。
その大切な第一回目。
ルーカスは半泣きで、愛人激怒を報告して来て、『しばらくパスさせてくれないか?』と嘆願して来た。
生活を始めて早々の泣き言に本気で隠すつもりがあるのかと憤り、気が付いたら食前酒の入っていたグラスを横に振っていた。
パシャっという涼やかな音が聞こえて、我に返り、状況から先ほど取った自分の行動を知った。
「す、すまん……」
これほどわたしが怒ると思っていなかったのか、ルーカスはおろおろと目を泳がせて謝罪を口にした。
一瞬でカッとなったが、もうとっくに覚めている。
そして冷静になって考えてみれば、最近は夜会で嫌と言うほど顔を合わせているのだから、土曜日にわざわざ無駄な時間を浪費して、こんな男と一緒に食事をする必要が無いことに気付いた。
少しやり過ぎたけど、まっ謝罪は要らないわよね。
わたしはなるべく恩着せがましく聞こえるように意識して、
「いいわ。今ので許してあげる、今月は好きになさい」と言ってやった。
「ありがとうエーデラ!」
するとルーカスは感動したのか、涙目でお礼を返してきた。
ねえ……、食前酒を浴びせられてお礼を言う男って、なんなの?
さてすっかり落ち着いた二ヶ月目。
本当に結婚していたのならば、もう少し違った感想もあっただろうが、これは偽装結婚だから、わたしにとっては住む場所が変わっただけで特に思うことは何もなかった。
いや違う、すっかり暇を持て余していた。
まず実際がどうかは置いていて、わたしは新婚と言うことになっている。
最初の一ヶ月は、友達がやってきてお祝いを言ってくれた。だがそれが終わったいまは、『新婚だから邪魔しちゃ悪いわよね~』と言う風潮に変わって、皆が遠慮して訪ねてこなくなった。
じゃあこちらからと誘ったのだが答えは同じ。
あのグレーテルでさえ、『しばらくは止めておくわ』と言って断って来たのだ。
一人でお茶を飲み、本を読んだ。
それでも暇なので、刺繍をして時間を潰してみた。妻から~と言える品がある方が良かろうと、気を利かせて刺繍のハンカチなどをルーカスに贈った。
すると、
「言い訳の品としてとても有難いが、あんまり貰うとマルグリットの機嫌が悪くなるから……」
とか言って断って来た。
どうやら他の貴族に聞かれたときに見せられる、ほんの二~三枚で良かったらしい。
なんだそれは! 暇に任せてかなり作ってしまったというのに!!
まあいいや、お父様に送りつけておいて、後でお小遣いを強請ろう。
二ヶ月目、最初の土曜日。晩餐の席にルーカスがやって来た。
愛人のご機嫌取りで先月は無かったのでこれが二度目だ。
「ねえ屋敷で今度お茶会を開きたいのだけどいいかしら?」
「うーん。先月、金を使い過ぎたからな。しばらく控えめに頼みたい」
「ふぅん。
わたしとっても暇なんだけど?」
「そう言われてもなぁ……
じゃあ買い物はどうだい? ここに商人を呼ぼう」
何とも景気の良い台詞だが、結婚前の取り決めによれば、自分の物は自分で買うことになっているから決して『俺が払うから好きなだけ買えよ』と言う意味じゃない。
「見せる相手もいないのに何を買うのよ」
「確かにそうか……
ああそうだ、エーデラが好んで読んでいる物語が演劇になったんだが、観に行ってみたらどうだろう?」
「劇場にわたし一人で行けと?」
貴族の女性がエスコートなしの一人ってのがまずありえないのだが、それに加えて貴族が演劇に行くと言えば、ホール上に造られたボックス席を丸ごと借りる。
ボックス席とは小さな部屋の事だから、そこで一人で観るとか痛過ぎでしょ。
「うっ……、友達を誘うとか……?」
「皆には『新婚でしょ、旦那を誘いなさいよ』って言われて断られたわ」
「……」
ついに無言になった。
「役に立たない男ね」
そう言うと不満げにこちらを睨みつけて来たので睨み返してやった。睨みあう事も無く視線はすぐに反れて行った。
ハァ……。
役立たずの上に情けない男ね。
先ほどは、ああ言ってみたが、演劇に行くのは悪くない案に思えた。問題は一緒に行く相手だが、旦那は偽物で、女友達には新婚を理由に断られた。
お父様を誘うと旦那を誘えと言われるに決まっているから除外するとして、残すは、妹に甘いお兄様か、義弟のハロルドのどちらかだ。
お兄様はどれだけ忙しくともわたしの我が儘を聞いてくれる。だけど本気で忙しくても付き合ってくれるから、後々しわ寄せがお父様に行く可能性があるのよね。
そこでポロっとこの話が漏れたら最悪だわ。
となると……、誘うべきなのはハロルドかしら?
わたしは先触れを出してからヴェーデナー公爵家に向かった。玄関先でお飾りの挨拶をすると応接室に通される。
まずやってきたのはお義父様とお義母様のお二人。
「よく来たねエーデラ」
「お久しぶりですわ。お義父様、お義母様」
「それであいつはどうだね?」
「とてもよい旦那様ですわ」
これっぽっちも思っていなくても、さらりと嘘が言えるのが女の特徴よね。褒めすぎないように注意しながら、それなりに持ち上げていると、ハロルドがやって来た。
「お久しぶりです義姉上」
「久しぶりねハロルド。
でもそれじゃ駄目。正しい挨拶は『エーデラ姉さん、今日は一段と綺麗ですね』よ。さあほら言ってみて」
からかうようにそう言うとハロルドは顔を真っ赤にして困り顔を見せた。
「ふふふっエーデラちゃん、あんまりハロルドをからかわないで上げてね」
お義父様とお義母様はそう言いながら笑顔で退室していったのだが……
無理でしょ?
こんな露骨に顔に出してくれるんだもん、普通からかうわよね。
「えっと今日は僕に何の用ですか?」
「お姉さんとデートしましょう」
「ええっ!?」
それを聞いたハロルドは目を見開き、耳まで真っ赤に染めた。
「デートよ。今度の日曜日でどうかしら」
わたしは演劇の席を取るから一緒に行きましょうと誘った。
さらに顔を真っ赤に染めたところを見るに、ハロルドはボックス席の意味を知っているのだろう。
階上に設置された小さな部屋。
こんな外から隔離された部屋に、男女で入るということはつまり親密な間柄と言う意味が付いてくる。
しかしハロルドは幼馴染で、おまけに義弟だから何の問題も無しよね。
「え、えっと。あ、兄上は?」
「生憎その日はお友達と予定があるそうよ」
嘘は言っていない。
わたしと話をする土曜日の晩餐以外、お友達との予定がびっしりだもん。
「本当に僕なんかで良いんですか?」
「もちろん。ちゃんとエスコートして頂戴ね」
「は、はい! 頑張ります!」
とても元気の良い返事が返ってきたわ。
誘われるまま、夜は週に二~三のペースで夜会に参加。昼も同じく、週に二~三のペースでお茶会に行った。
昼の後の夜なんて日もあって、そりゃあ疲れるわ~と納得することも。
しかしこれは公私の公、つまり公爵家の妻としてのいわばお仕事だから、その分はきっちりお給金に反映されて返ってくるので、悪い気分ではなかった。
さて忙しかったこの一ヶ月、問題の愛人はと言うと。
ルーカスが週の半分近く、わたしと夜を過ごしていたことが気に入らないらしく、大変ご立腹だそうだ。
ちなみにこの情報は、唯一二人で取ると決めた土曜日の晩餐の席で聞いた。
愛人持ちの男と食事を共にするなど真っ平御免だけど、まったく会わないと節々で話の齟齬が生まれるからと、情報交換の意味合いで設けたのだ。
その大切な第一回目。
ルーカスは半泣きで、愛人激怒を報告して来て、『しばらくパスさせてくれないか?』と嘆願して来た。
生活を始めて早々の泣き言に本気で隠すつもりがあるのかと憤り、気が付いたら食前酒の入っていたグラスを横に振っていた。
パシャっという涼やかな音が聞こえて、我に返り、状況から先ほど取った自分の行動を知った。
「す、すまん……」
これほどわたしが怒ると思っていなかったのか、ルーカスはおろおろと目を泳がせて謝罪を口にした。
一瞬でカッとなったが、もうとっくに覚めている。
そして冷静になって考えてみれば、最近は夜会で嫌と言うほど顔を合わせているのだから、土曜日にわざわざ無駄な時間を浪費して、こんな男と一緒に食事をする必要が無いことに気付いた。
少しやり過ぎたけど、まっ謝罪は要らないわよね。
わたしはなるべく恩着せがましく聞こえるように意識して、
「いいわ。今ので許してあげる、今月は好きになさい」と言ってやった。
「ありがとうエーデラ!」
するとルーカスは感動したのか、涙目でお礼を返してきた。
ねえ……、食前酒を浴びせられてお礼を言う男って、なんなの?
さてすっかり落ち着いた二ヶ月目。
本当に結婚していたのならば、もう少し違った感想もあっただろうが、これは偽装結婚だから、わたしにとっては住む場所が変わっただけで特に思うことは何もなかった。
いや違う、すっかり暇を持て余していた。
まず実際がどうかは置いていて、わたしは新婚と言うことになっている。
最初の一ヶ月は、友達がやってきてお祝いを言ってくれた。だがそれが終わったいまは、『新婚だから邪魔しちゃ悪いわよね~』と言う風潮に変わって、皆が遠慮して訪ねてこなくなった。
じゃあこちらからと誘ったのだが答えは同じ。
あのグレーテルでさえ、『しばらくは止めておくわ』と言って断って来たのだ。
一人でお茶を飲み、本を読んだ。
それでも暇なので、刺繍をして時間を潰してみた。妻から~と言える品がある方が良かろうと、気を利かせて刺繍のハンカチなどをルーカスに贈った。
すると、
「言い訳の品としてとても有難いが、あんまり貰うとマルグリットの機嫌が悪くなるから……」
とか言って断って来た。
どうやら他の貴族に聞かれたときに見せられる、ほんの二~三枚で良かったらしい。
なんだそれは! 暇に任せてかなり作ってしまったというのに!!
まあいいや、お父様に送りつけておいて、後でお小遣いを強請ろう。
二ヶ月目、最初の土曜日。晩餐の席にルーカスがやって来た。
愛人のご機嫌取りで先月は無かったのでこれが二度目だ。
「ねえ屋敷で今度お茶会を開きたいのだけどいいかしら?」
「うーん。先月、金を使い過ぎたからな。しばらく控えめに頼みたい」
「ふぅん。
わたしとっても暇なんだけど?」
「そう言われてもなぁ……
じゃあ買い物はどうだい? ここに商人を呼ぼう」
何とも景気の良い台詞だが、結婚前の取り決めによれば、自分の物は自分で買うことになっているから決して『俺が払うから好きなだけ買えよ』と言う意味じゃない。
「見せる相手もいないのに何を買うのよ」
「確かにそうか……
ああそうだ、エーデラが好んで読んでいる物語が演劇になったんだが、観に行ってみたらどうだろう?」
「劇場にわたし一人で行けと?」
貴族の女性がエスコートなしの一人ってのがまずありえないのだが、それに加えて貴族が演劇に行くと言えば、ホール上に造られたボックス席を丸ごと借りる。
ボックス席とは小さな部屋の事だから、そこで一人で観るとか痛過ぎでしょ。
「うっ……、友達を誘うとか……?」
「皆には『新婚でしょ、旦那を誘いなさいよ』って言われて断られたわ」
「……」
ついに無言になった。
「役に立たない男ね」
そう言うと不満げにこちらを睨みつけて来たので睨み返してやった。睨みあう事も無く視線はすぐに反れて行った。
ハァ……。
役立たずの上に情けない男ね。
先ほどは、ああ言ってみたが、演劇に行くのは悪くない案に思えた。問題は一緒に行く相手だが、旦那は偽物で、女友達には新婚を理由に断られた。
お父様を誘うと旦那を誘えと言われるに決まっているから除外するとして、残すは、妹に甘いお兄様か、義弟のハロルドのどちらかだ。
お兄様はどれだけ忙しくともわたしの我が儘を聞いてくれる。だけど本気で忙しくても付き合ってくれるから、後々しわ寄せがお父様に行く可能性があるのよね。
そこでポロっとこの話が漏れたら最悪だわ。
となると……、誘うべきなのはハロルドかしら?
わたしは先触れを出してからヴェーデナー公爵家に向かった。玄関先でお飾りの挨拶をすると応接室に通される。
まずやってきたのはお義父様とお義母様のお二人。
「よく来たねエーデラ」
「お久しぶりですわ。お義父様、お義母様」
「それであいつはどうだね?」
「とてもよい旦那様ですわ」
これっぽっちも思っていなくても、さらりと嘘が言えるのが女の特徴よね。褒めすぎないように注意しながら、それなりに持ち上げていると、ハロルドがやって来た。
「お久しぶりです義姉上」
「久しぶりねハロルド。
でもそれじゃ駄目。正しい挨拶は『エーデラ姉さん、今日は一段と綺麗ですね』よ。さあほら言ってみて」
からかうようにそう言うとハロルドは顔を真っ赤にして困り顔を見せた。
「ふふふっエーデラちゃん、あんまりハロルドをからかわないで上げてね」
お義父様とお義母様はそう言いながら笑顔で退室していったのだが……
無理でしょ?
こんな露骨に顔に出してくれるんだもん、普通からかうわよね。
「えっと今日は僕に何の用ですか?」
「お姉さんとデートしましょう」
「ええっ!?」
それを聞いたハロルドは目を見開き、耳まで真っ赤に染めた。
「デートよ。今度の日曜日でどうかしら」
わたしは演劇の席を取るから一緒に行きましょうと誘った。
さらに顔を真っ赤に染めたところを見るに、ハロルドはボックス席の意味を知っているのだろう。
階上に設置された小さな部屋。
こんな外から隔離された部屋に、男女で入るということはつまり親密な間柄と言う意味が付いてくる。
しかしハロルドは幼馴染で、おまけに義弟だから何の問題も無しよね。
「え、えっと。あ、兄上は?」
「生憎その日はお友達と予定があるそうよ」
嘘は言っていない。
わたしと話をする土曜日の晩餐以外、お友達との予定がびっしりだもん。
「本当に僕なんかで良いんですか?」
「もちろん。ちゃんとエスコートして頂戴ね」
「は、はい! 頑張ります!」
とても元気の良い返事が返ってきたわ。
3
お気に入りに追加
251
あなたにおすすめの小説
【完】ええ!?わたし当て馬じゃ無いんですか!?
112
恋愛
ショーデ侯爵家の令嬢ルイーズは、王太子殿下の婚約者候補として、王宮に上がった。
目的は王太子の婚約者となること──でなく、父からの命で、リンドゲール侯爵家のシャルロット嬢を婚約者となるように手助けする。
助けが功を奏してか、最終候補にシャルロットが選ばれるが、特に何もしていないルイーズも何故か選ばれる。
【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。
112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。
エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。
庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──
【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。
112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。
ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。
ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。
※完結しました。ありがとうございました。
【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。
112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。
愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。
実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。
アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。
「私に娼館を紹介してください」
娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~
瀬里
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)
ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。
3歳年下のティーノ様だ。
本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。
行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。
なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。
もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。
そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。
全7話の短編です 完結確約です。
妻は従業員に含みません
夏菜しの
恋愛
フリードリヒは貿易から金貸しまで様々な商売を手掛ける名うての商人だ。
ある時、彼はザカリアス子爵に金を貸した。
彼の見込みでは無事に借金を回収するはずだったが、子爵が病に倒れて帰らぬ人となりその目論見は見事に外れた。
だが返せる額を厳しく見極めたため、貸付金の被害は軽微。
取りっぱぐれは気に入らないが、こんなことに気を取られているよりは、他の商売に精を出して負債を補う方が建設的だと、フリードリヒは子爵の資産分配にも行かなかった。
しばらくして彼の元に届いたのは、ほんの少しの財と元子爵令嬢。
鮮やかな緑の瞳以外、まるで凡庸な元令嬢のリューディア。彼女は使用人でも従業員でも何でもするから、ここに置いて欲しいと懇願してきた。
置いているだけでも金を喰うからと一度は突っぱねたフリードリヒだが、昨今流行の厄介な風習を思い出して、彼女に一つの提案をした。
「俺の妻にならないか」
「は?」
金を貸した商人と、借金の形に身を売った元令嬢のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる