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52:トウカを貰ったという話

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 深々と頭を下げて、
「末長くよろしくお願いします」
 という挨拶。
 神託が下ったのかは知らんけど、妃巫女との取引によりトウカがマジでやってきた。
 表向きの役割としては、異国人わたしたちと現住人との軋轢を避ける役で、裏向きはわたしをおさとする主従関係。

 ちなみに妃巫女が役所を通じて公表したので、異国人わたしが病を治したことはほとんどの人が知っている。
 そのため物を買えばサービスしてくれるし、道に迷っていると教えてくれる。
 顔も知らないのにだって?

 倭国は閉鎖している国であり、そもそも異国人が珍しい。さらに言うならエルフの中に人が混じってんだもん、判らないでか。
 というわけでトウカの表向きのお仕事は絶賛休業中。

「実はもうトウカはいらないのでは?」
「それを本人の聞こえる場所で言っちゃうのが、ご主人がご主人たるとこですにゃー」
「妃巫女様より直々に命です、我が命ある限り誠心誠意お仕えいたします」
「無理しなくていいって言ってんの」
「私めは跡目を継ぐ必要も御座いませんし、無理など何も御座いません」
「固い」
「固いですね」

「もっと普通にしゃべってよ」
「えっ? 普通と言われましても立場が……」
「友達と接するように砕けた感じでいこう、さんハイ」
「ええっそんなご無体な。
 えっと、あの、今後ともよろしくお願いします」
「固い」
「固いですね」
 トウカは口をパクパクさせながら顔を引き攣らせた。



 広い庭先でセリィとトウカが武器を構えて向き合っている。
 セリィはいつも通り両手に短剣を逆手に持ち、猫のように低く構えいつでも飛び掛かれる姿勢を、対するトウカは刀一本を正眼に構えている。風に揺れるポニーテールが剣道少女を思わせ大変凛々しく見えるのだけど、彼女の周りに浮いている苦無クナイはいったいなんだろう。
 ファンネルかな?

 あっ苦無ファンネルが飛んでった。動きが早すぎて正確な本数は判んないんだけど、三本~四本ってところかな?
 言ってる間に苦無がセリィに接近。セリィが軽やかに避ける。しかし避けたはず苦無は後ろで旋回、再びセリィを襲う。
 それならばと今度は苦無を弾いた。しかし苦無はそれでも軌道を修正し再び襲い掛かってくる。避け、弾くセリィも芸が細かい。弾いた苦無を別の苦無にぶつけるなんて芸当まで見せてくる。
 おおっ凄いぞセリィ!
 同時に三本弾いたのに合わせて、今度はセリィがトウカに向かって飛び込んだ。
 速い!
 間合いは一気に接近戦へ。セリィは短剣二刀流、対するトウカの武器は刀だ。そして刀は基本両手持ち。接近すれば二刀流のセリィが有利だろう。
 しかし予想に反して金属が打ち合う甲高い音が何度も鳴り、どうやらトウカが上手く捌いているらしい。
 見えんけど。
 刀一本で二本を捌くとか、どういう動きしてんだろう?

 苦無が戻ってきて二人の間に割って入る、同時にセリィが後ろに飛び退いた。

「まだ余裕がありそうですね」
「セリィ殿もそうでしょう?」
 そして二人がシニカルに嗤い合う。
 バトル漫画かよ!?

「はい二人ともストップ」

 二人が武器を収めたのを確認して近づいた。


「トウカの実力はどうだった」
「見た通り強いです。金ランクは軽く超えますね」
 ここで『セリィよりも強い?』なーんて、空気が読めない質問は絶対に口にしない。
 金ランクを超える実力、大いに結構。今後はわたしとマーシャが別行動をしても、大丈夫ってわかれば十分さ。

「セリィ殿はお強いですね。本気を出されたら私めではとても敵いません」
「謙遜しなくていいよー」
 どっちの攻撃もわたしには見えないもん、どっちも凄いでいいじゃないか。

「先ほど苦無の操作に刀を使っていましたね。あれではどこを狙っているのかバレバレです。早急に改善した方が良いでしょう」
「うぐっやはり見抜かれておりましたか……」
「どういうこと?」
「ご主人にもわかる様に言うと、トウカさんは刀を指揮棒のように振って苦無を操っていたんです」
「刀、揺れてた?」
「微弱ですが揺れてましたよ」
 そんなところに注視していなかったから覚えていない。

「トウカ、ちょっとやって貰っていい?」
「御意」
「固いって、もっと普通に話して」
「はぁしかし……」
「言いたくないけど。これ命令だからー」
 もちろん棒読みである。
「判りました、しかしすぐにはやはり慣れません。おいおいということで一つご容赦ください。
 えっと。それでは実演いたします」
 あんまり変わっていない口調のまま、トウカは懐から苦無を出して中空に浮かせた。
 近いので今度は大丈夫。
 しっかり数えて苦無の数は四本。

 トウカが刀を構えると、フィイ~フィイ~と苦無が上下左右に動き始めた。
 動き始めたところでトウカの持つ刀に注目。言われたから気づくが確かに刀が揺れている。しかし揺れ幅は先端でも一センチも無いほんの微弱。
「セリィはこれをあの距離で苦無の動きと結びつけたの?」
「はい」
 造作もないとばかりの軽い返事。
 これ。トウカの未熟を責めるんじゃなく、見破ったセリィを褒めるべきじゃあないかな?

「一度に出せる苦無の数は四本? あと苦無見せて貰っていいかなー」
 操作を止めた苦無は彼女の手元に戻り、それを「どうぞ」と差し出してきた。
「最大で六本まで使えますが、そこまで使うと操作に意識がとられ刀が疎かになります。刀を振りつつ無理なく使えるのは四本のつもりでしたが、セリィ殿にはすっかり見抜かれていたようで……
 自分の未熟を痛感しております」
 目に見えて項垂れるトウカ。
 どうやらセリィの所為で自信を喪失させてしまったらしい。だがさっきの戦いも見えていないもっと未熟なわたしがフォローできることはない。
 アドバイスはセリィに任せ、わたしは彼女から受け取った苦無に注目した。
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