43 / 53
43:入国審査
しおりを挟む
マーシャと護衛パーティが乗る馬車を見送った。
よい手紙の文面が思いつかず、苦肉の策として『人命救助のため』と枕詞をつけておいた。薬学ギルドだもの、その枕詞に効果があると信じたい。
さあこちらも移動開始だ。
馬車に乗る。
進めるだけ進む。
宿を取って寝る。
国の大きさによっては、『国境を越える』が入るけれど、乗って降りて寝るという面白味の欠片もないルーティーンが延々と続く。
これが一ヵ月だと?
地獄はここだったか……
なにか楽しみを、いや贅沢は言うまい。
変化だ、なにか変化をくれ!
街に入ったところで露店をめぐ……
朝早い馬車に乗り、最大限距離を稼ぐと夜遅くに街に着くのは必然。
露店はもうやっていない。
じゃあ建物を構えた店なら時間は関係ないじゃん~なんて誰が言った。夜やってんのは酒場ばっかだよ。
酒場は陽キャのテリトリー。地味なインドア派は騒がしい店は嫌いなのです。
宿を取り、そこの食堂で晩御飯を頂いたら明日に備えて眠る。
あああああああ! なんも変わってねぇ! 破壊困難なルーティーン作ってんじゃねえ!
「トウカさん、故郷が心配なのはお察ししますが、ご主人が限界です。
明日一日だけでも移動をやめて休みませんか?」
「ややこれは申し訳ございません。どうにも気が急いておりまして……
セリィ殿の仰る通り、我らが倒れては元も子もない。明日は移動をやめて心と体を休めると致しましょう」
こんなあっさり休日になるなんて思ってなかったよ、ガクッ。
その後は週に一度休みを挟みつつ、一ヵ月と少し掛かって、倭国へ向かう船のある街にたどり着いた。
倭国行きの船便は数が少なく、その時刻もトウカが把握済みだったので本日の便はもはや無い。しかし翌日の便に乗る手続きのため、港に行く必要があるそうで宿よりも先に港にやってきた。
「手続きって簡単ー?」
「いえ普通ですと簡単では御座いません。ですが今回は全く問題ありません。大船に乗ったおつもりでいらしてください」
詳しく聞くと、どうも倭国行きの船は誰もが乗れるわけではないらしい。
まず最初に必要なのは、身元の保証人。保証人になれるのは倭国出身者のみで、おまけに出身者自身の社会的な地位も問われるというから間口は狭い。
事件や事故が起きた場合は保証人にも責任が及ぶそうで……
ふむふむ連帯保証人かしら。
続いて預り金。こちらは結構な額を支払う必要がある。ただし何事もなく出国すれば返ってくるそうだが、慣例によるとお布施やら寄付という名目で半分くらい徴収されるとか。
新手の詐欺かな?
ほかにも細々とした決まりや面倒な仕来たり何かがあるそうだが、今回の件は妃巫女直々の命なので問題ないようだ。
話しているうちにいよいよ海が近づいてきた。テンションが上がり、海の先を見る。
「ねねトウカ、倭国ってどっち?」
「こちらの方角です」という案内に従って港から海の方を見る。
うん、なんも見えねえ。
「天気と海の機嫌が良ければここから薄っすらと倭国の島が見えるのですが、どうやら今日は機嫌が悪いようです」
機嫌て。
見えるのに見えないのはなんだか悔しい。わたしは瞳に宿る魔法を発動して視線を空へ飛ばした。トリガーが違うだけ、いつもお馴染み『保持』だ。マーシャに教えている最中、目に関する系統魔法を指で発動ってなんだかなーと思って改良した。
ふふんっわたしだって進化してんだよ!
さて魔法の目を言われた方向に進めていくと薄っすらと黒影が見えてきた。
おーあれかぁ。見えるなんて言うからか、思ったよりも遠かったわ。
「セリィ殿、リュー殿の目が怪しい光を放っておりますが、あれは一体……?」
「大丈夫、なんの問題ありません」
「そ、そうですか、なんと面妖な……」
「あのくらいで驚いていてはご主人の相手は務まりません」
後ろの二人、聞こえてるから。
あとそれめっちゃ失礼だからね!
洋風な港の一角にある違和感バリバリな和風な建物があった。
言われるまでもなくアレだと悟る。案の定正解で、トウカが先頭になり暖簾をよけて引き戸を開けて中に入る。
建物、そして入口も和風なら中も和風。
入ってすぐに番台があり、和服っぽい服を着た男性が座っていた。
セリィの口から「地べた?」と漏れてきたが、地べたじゃなくて、あれは畳みです。
「いらっしゃい」
「入国の審査を頼む。後ろの二人は連れだ」
「畏まりました。こちらの書類に記入を、記入が終わりましたら貴女さまの身分証と共にこちらにお出しください」
和紙っぽい紙に墨と筆。
習字は小学生ぶりなので早々に諦め、外国人用に備え付けられたペンで名前やらを書いていく。書いた内容は市役所の書類と変わらないレベルで、異世界にしてはしっかりしてんだなーという印象だ。
なお書類には所持していればギルド証も出すようにと書いてあったので、わたしとセリィの分を書類につけて渡した。
それらを受け取ったトウカは書類らに懐から木の板を付けて男に。そして男は「確認します。しばらくお待ちください」と言って奥に引っ込んだ。
五分ほど後、丁稚の男ではなくちょっと身分の高そうな男がやってきた。
「確認いたしました。まずは結果をお伝えいたします。
申し訳ございませんが、お連れ様の乗船は認められません」
おい、大船はどこに行った?
よい手紙の文面が思いつかず、苦肉の策として『人命救助のため』と枕詞をつけておいた。薬学ギルドだもの、その枕詞に効果があると信じたい。
さあこちらも移動開始だ。
馬車に乗る。
進めるだけ進む。
宿を取って寝る。
国の大きさによっては、『国境を越える』が入るけれど、乗って降りて寝るという面白味の欠片もないルーティーンが延々と続く。
これが一ヵ月だと?
地獄はここだったか……
なにか楽しみを、いや贅沢は言うまい。
変化だ、なにか変化をくれ!
街に入ったところで露店をめぐ……
朝早い馬車に乗り、最大限距離を稼ぐと夜遅くに街に着くのは必然。
露店はもうやっていない。
じゃあ建物を構えた店なら時間は関係ないじゃん~なんて誰が言った。夜やってんのは酒場ばっかだよ。
酒場は陽キャのテリトリー。地味なインドア派は騒がしい店は嫌いなのです。
宿を取り、そこの食堂で晩御飯を頂いたら明日に備えて眠る。
あああああああ! なんも変わってねぇ! 破壊困難なルーティーン作ってんじゃねえ!
「トウカさん、故郷が心配なのはお察ししますが、ご主人が限界です。
明日一日だけでも移動をやめて休みませんか?」
「ややこれは申し訳ございません。どうにも気が急いておりまして……
セリィ殿の仰る通り、我らが倒れては元も子もない。明日は移動をやめて心と体を休めると致しましょう」
こんなあっさり休日になるなんて思ってなかったよ、ガクッ。
その後は週に一度休みを挟みつつ、一ヵ月と少し掛かって、倭国へ向かう船のある街にたどり着いた。
倭国行きの船便は数が少なく、その時刻もトウカが把握済みだったので本日の便はもはや無い。しかし翌日の便に乗る手続きのため、港に行く必要があるそうで宿よりも先に港にやってきた。
「手続きって簡単ー?」
「いえ普通ですと簡単では御座いません。ですが今回は全く問題ありません。大船に乗ったおつもりでいらしてください」
詳しく聞くと、どうも倭国行きの船は誰もが乗れるわけではないらしい。
まず最初に必要なのは、身元の保証人。保証人になれるのは倭国出身者のみで、おまけに出身者自身の社会的な地位も問われるというから間口は狭い。
事件や事故が起きた場合は保証人にも責任が及ぶそうで……
ふむふむ連帯保証人かしら。
続いて預り金。こちらは結構な額を支払う必要がある。ただし何事もなく出国すれば返ってくるそうだが、慣例によるとお布施やら寄付という名目で半分くらい徴収されるとか。
新手の詐欺かな?
ほかにも細々とした決まりや面倒な仕来たり何かがあるそうだが、今回の件は妃巫女直々の命なので問題ないようだ。
話しているうちにいよいよ海が近づいてきた。テンションが上がり、海の先を見る。
「ねねトウカ、倭国ってどっち?」
「こちらの方角です」という案内に従って港から海の方を見る。
うん、なんも見えねえ。
「天気と海の機嫌が良ければここから薄っすらと倭国の島が見えるのですが、どうやら今日は機嫌が悪いようです」
機嫌て。
見えるのに見えないのはなんだか悔しい。わたしは瞳に宿る魔法を発動して視線を空へ飛ばした。トリガーが違うだけ、いつもお馴染み『保持』だ。マーシャに教えている最中、目に関する系統魔法を指で発動ってなんだかなーと思って改良した。
ふふんっわたしだって進化してんだよ!
さて魔法の目を言われた方向に進めていくと薄っすらと黒影が見えてきた。
おーあれかぁ。見えるなんて言うからか、思ったよりも遠かったわ。
「セリィ殿、リュー殿の目が怪しい光を放っておりますが、あれは一体……?」
「大丈夫、なんの問題ありません」
「そ、そうですか、なんと面妖な……」
「あのくらいで驚いていてはご主人の相手は務まりません」
後ろの二人、聞こえてるから。
あとそれめっちゃ失礼だからね!
洋風な港の一角にある違和感バリバリな和風な建物があった。
言われるまでもなくアレだと悟る。案の定正解で、トウカが先頭になり暖簾をよけて引き戸を開けて中に入る。
建物、そして入口も和風なら中も和風。
入ってすぐに番台があり、和服っぽい服を着た男性が座っていた。
セリィの口から「地べた?」と漏れてきたが、地べたじゃなくて、あれは畳みです。
「いらっしゃい」
「入国の審査を頼む。後ろの二人は連れだ」
「畏まりました。こちらの書類に記入を、記入が終わりましたら貴女さまの身分証と共にこちらにお出しください」
和紙っぽい紙に墨と筆。
習字は小学生ぶりなので早々に諦め、外国人用に備え付けられたペンで名前やらを書いていく。書いた内容は市役所の書類と変わらないレベルで、異世界にしてはしっかりしてんだなーという印象だ。
なお書類には所持していればギルド証も出すようにと書いてあったので、わたしとセリィの分を書類につけて渡した。
それらを受け取ったトウカは書類らに懐から木の板を付けて男に。そして男は「確認します。しばらくお待ちください」と言って奥に引っ込んだ。
五分ほど後、丁稚の男ではなくちょっと身分の高そうな男がやってきた。
「確認いたしました。まずは結果をお伝えいたします。
申し訳ございませんが、お連れ様の乗船は認められません」
おい、大船はどこに行った?
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉
Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」
華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。
彼女の名はサブリーナ。
エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。
そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。
然もである。
公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。
一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。
趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。
そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。
「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。
ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。
拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。
~前世の知識を持つ少女、サーラの料理譚~
あおいろ
ファンタジー
その少女の名前はサーラ。前世の記憶を持っている。
今から百年近くも昔の事だ。家族の様に親しい使用人達や子供達との、楽しい日々と美味しい料理の思い出だった。
月日は遥か遠く流れて過ぎさり、ー
現代も果てない困難が待ち受けるものの、ー
彼らの思い出の続きは、人知れずに紡がれていく。
死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~
未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。
待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。
シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。
アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。
死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
秘密の聖女(?)異世界でパティスリーを始めます!
中野莉央
ファンタジー
将来の夢はケーキ屋さん。そんな、どこにでもいるような学生は交通事故で死んだ後、異世界の子爵令嬢セリナとして生まれ変わっていた。学園卒業時に婚約者だった侯爵家の子息から婚約破棄を言い渡され、伯爵令嬢フローラに婚約者を奪われる形となったセリナはその後、諸事情で双子の猫耳メイドとパティスリー経営をはじめる事になり、不動産屋、魔道具屋、熊獣人、銀狼獣人の冒険者などと関わっていく。
※パティスリーの開店準備が始まるのが71話から。パティスリー開店が122話からになります。また、後宮、寵姫、国王などの要素も出てきます。(以前、書いた『婚約破棄された悪役令嬢は決意する「そうだ、パティシエになろう……!」』というチート系短編小説がきっかけで書きはじめた小説なので若干、かぶってる部分もありますが基本的に設定や展開は違う物になっています)※「小説家になろう」でも投稿しています。
奥様は聖女♡
メカ喜楽直人
ファンタジー
聖女を裏切った国は崩壊した。そうして国は魔獣が跋扈する魔境と化したのだ。
ある地方都市を襲ったスタンピードから人々を救ったのは一人の冒険者だった。彼女は夫婦者の冒険者であるが、戦うのはいつも彼女だけ。周囲は揶揄い夫を嘲るが、それを追い払うのは妻の役目だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる