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40:ダークなエルフさん

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 酔っ払いのごとく樹を枕にしているダークエルフさん。
 近づいて声を掛けるが反応は無し。やはり意識を失っているようだ。
 こんな場所でよく無事だったなとは思うが、ダークエルフさんを護る様に淡く光る薄い膜がその答え。
 推測するに魔物から身を護る結界のような、……魔道具?
 魔法ではない。魔法には制御が必要で、術者が意識を失ってなお残る魔法なんてない。唯一術者がこの人以外という可能性が残るが、わたしの感知魔法やセリィの索敵能力に何の反応もないので、状況により否定が濃厚だ。

 結界も気になるが、それよりも……
 なんで和服なん?
 細部まで一緒というほどの知識は無いが、時代劇から出てきた武士にしか見えない。ただしダークエルフで、暫定女性。


「まだ呼吸がございますの。もしや行き倒れでしょうか?」
「いやいや見てよ。この子エルフだよ。エルフが森で迷うわけないじゃん」
 たとえここが自然ダンジョンの中だろうが、森の中でエルフは迷わない。どう見ても眠ってるんじゃなく、衰弱して気を失っているし、和服着てて怪しいんだけど、迷わないったら迷わないよ!


「ご主人、何事にも例外はあります。中には方向音痴のエルフも居るんじゃないですかねー」
「やめて夢が壊れるようなこと言わないで!」
 もう和服で半分夢破れてっけどさぁ。
 いいか、エルフってのはな、華奢だけど優雅で、森の番人や守護者って種族なんだよ。間違ってもこんなところで行き倒れたりしないんだよ!


「兎に角。放っておくとこのまま野たれ死にそうですし、とりあえず助けます。事情はその後に聞くってことで良いですね」
 人命救助最優先、もちろん異論はない。

 魔物含めわたしたちの接近を阻んでいた結界は、ほいやとわたしが消し去った。改めてセリィが近づき、ダークなエルフさんを樹から剥がして仰向けに、そこで性別判明、どうやら彼女だったようだ。
 彼女の頬はこけ、唇は乾燥しひび割れてと見た目の衰弱が激しい。だがそんな状態にも拘らず綺麗なのはさすがエルフというべきだろうか。

 仰向けに支えて確信。
 反りのある黒い鞘はきっと刀で、やっぱこれ武士だ。
 おいエルフよ、弓と矢はどうした? なんで袴と刀やねん?


 セリィは疲労回復薬スタミナポーションを取り出して意識のないエルフの口に入れた。
 飲む意思が無ければ危険なのでもちろん少しだけ。
 最初の一口を嚥下したのを確認し、セリィが再び瓶を傾けるとダークなエルフさんがパチリと目を開いた。次の瞬間、よほど乾いていたのだろう、瓶を奪い一気飲み。
 もちろんむせた。
 げっほごっほと優雅さの欠片もない音が、あーあーわたしには聞こえないぞっと。

 疲労回復薬を飲んで少し顔色が良くなったようだが、今度は唇のひび割れが気になりだし小ポーションを提供した。
 学習したのか嚥下はゆっくり、しかし口は一度も瓶から外さず一気に飲み干した。

 彼女がそれを飲んでいる間に火を熾して湯を沸かす。
 水と割ったさ湯は彼女用に。二本目のポーションも一息に飲み干したってのに、さ湯も同じく一気ですよ。
 どんなけ乾いてんの、この子。


 多少は落ち着いたのだろうか、アメジストを思わせる紫の瞳は、最初こそうつろだったが、今ははっきりとした意思の光をみせている。
 何がって、ちょっと早いけど食事の準備中でしてね、彼女の目はフリーズドライを戻したスープのカップに釘付けなんですよ。

 あんたの分もあるから、ちょっと落ち着こう。な?

 人数分フリーズドライのスープと白パンを準備した。再び一気しそうな彼女のスープだけは水を足して少し温めにしておく。
 さあどうぞと渡すやいなや、誰も盗ったりしないのに、慌ててむさぼりだすダークエルフっ子。

 もはや予定調和なのか、案の定「うぐっ」と短い唸り声を漏らし、顔を赤く染めながらどんどんと心臓の上あたりを叩き始めた。
 やわらかい白パンだしスープもあるしと、パンをそのまま渡したのは失敗だった。喉を詰まらせて苦しそう。
 このまま放っておくと青色に変わるのだが、近くに座っていたマーシャが自分の分のスープを手渡し救助。
 そして一気飲み、そして「ギャア」と悲鳴が上がった。
 だって彼女に渡したスープ以外、熱々でしたもん。
 優雅さの欠片も無いエルフ。そろそろわたしも現実を見るべきだろうか?


「この度は危ういところを助けていただき、誠にありがとう存じます」
 真正面に刀を横置き。
 地べたに正座からの流れるような土下座を見せてくれた和装エルフさん。
 流れるような動作はある意味、優雅ではあったけれども、土下座の文化がこっちにもあったことに気を取られて言葉が上手く頭に入ってこない。

「私はセリィ。そしてこちらは私のご主人のリュー様です」
「あややっ重ね重ねご無礼を! 私めはトウカと申します。不肖の身でございますが、この恩義には必ず報います」
 ……時代劇かな?
 ファンタジー要素満点のダークエルフっ娘が、武士道っぽい仕草や口調で話すことにわたしの心が全力で拒否している感じがするわー

「わたくしはリュー先生の一番弟子・・・・のマーシャですわ。
 ところでトウカさん、どのような事情でああなったのか聞いてもよろしいですか?」
 おおっとマーシャが威嚇しているのか?
 厳密に言えば一番弟子じゃないんだけど、今世では最初にして唯一の弟子だ。あえて指摘はすまい。

「実は恥ずかしながら道に迷いまして、手持ちの食料が尽き、水も尽き、いよいよ動く力もなくなり残っていた符で身を護りつつあのような無様を晒しておりました」

「それは大変でしたわね。
 でもトウカさんは見たところエルフのようですが、森の迷うのですの?」
「確かに私めはエルフでございます。しかし私めはみやこ育ち、どうにも森には疎いのでございます」

「くふふっご主人、聞きましたかにゃー・・・
 道に迷ったそうですよー」
 セリィが煽ってくるがダメだ。武士道とエルフがどうしても線で繋がらないわ。

「あー憂さ晴らしに敵でも出ないかなー」
「むむっ敵でござるか!?」
 刀を手に勢いよく立ち上がったトウカは、貧血を起こして膝立ちに。
 半身を刀に預けて「無念……」じゃねーよ!?
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