上 下
27 / 53

27:ダンジョンの生態

しおりを挟む
 薬の材料を仕入れ、ポーションを造るというのが、現在の薬学ギルトの現状。そして調薬に限定すれば錬金ギルドもきっと同じだろう。
 正直これではポーションの質が上がるわけがない。

 だってねぇ。
 その材料、本当に品質は確かなの? と声を大にして聞きたい。


 もちろんそれ専門の信頼できる相手がいるならば、それでいい。
 でもそういう相手がいないのならば、品質を上げるには、自らが採り、自らで加工したものを使うべきだ。


「はーい。じゃあ薬の材料を採取しにいきまーす」
「目的は理解しましたが、ここまでの準備が本当に必要なのですの?」

 下ろし立ての白を基調にしたピカピカの革鎧、同じく白系統の鞘に収まった新品のやや細身のショートソード、そして真新しい灰色の外套。
 マーシャのいで立ちは見習い狩猟者そのものだった。

 本当はわたしやセリィと同じく、鎧と外套はドラゴンの皮を、武器は人工オリハルコン製にしたかった。まあわたしのは人工じゃなくてマジモンの方だが……

 しかしあれから約三〇〇年。それらを加工できる技術を持つものは街にはおらず、最高品質の素材が死蔵と化した。
 しかし普段から『ご主人が常識がぶっ壊れてますからにゃー』というセリィが、『貰っても困るでしょうね』と言っていたので、死蔵になったのは逆に良かったのかも?

 まあそんな訳で別の素材でそれらを作成。
 鎧と外套には、ドラゴンもどきと名高い水棲の大蜥蜴を。水の耐性が高いのは当然、撥水性があるから雨にも強い!
 火? 耐火魔法の出番です。

 続いて武器。
 またもセリィから『聖銀ミスリルもダメですよ』と念を押され、じゃあ銀と鋼の合金『白鋼』はどうでしょうと伺いを立て、OK。

 そしてマーシャに得意もしくは使える武器を聞き、レイピアと回答を貰った。
 なんか貴族の嗜みとか言ってた。
 嗜み、まさにその通り。対人やら競技ならレイピアで何の問題もない。しかし狩猟でくそ硬ったい魔物相手に使うにはレイピアは脆すぎる。

 さてそう言っておきながらここからは鍛冶屋の仕事だ。『レイピアっぽい感じでよろ~』と伝えて丸投げ。
 そして完成したのがやや細身のショートソードだった。
 やや細身なのはよりレイピアに近づけるためだが、細くした分短くしたので強度に問題はなし。ついでに短いことで取り回し面が上がり、初心者でも安心。

 どうやら腕の良い鍛冶屋を引き当てたらしい。
 セリィの紹介だけど……

 希少素材の加工費は技術料が乗る分高かったが、命を預ける装備に妥協はなし。
 で、その値段を察したマーシャのセリフが、最初のアレ。
 わたしは「当然だよ」と真顔で返しておいた。



 さてマーシャには伝えていないが、今回の目的はモチのロン、サモレンファンガスだ。あれから三週間ほど経ち、ついにヤツが発見されたのだった。
 灯台下暗しとは言いたくないが、この街から馬で二日ほど行ったところにある洞窟型ダンジョンの中だ。
 なおそのダンジョンは、早速侯爵の私兵がやってきて封鎖したらしい。環境保全の依頼はしたが、まさかダンジョンを封鎖するとは、侯爵はちょっとアタオカだと思う。


 なぜその行動がアタオカなのかを理解して貰うために、少しダンジョンの話をしようと思う。まずこの世界のダンジョンは生きている。
 積極的に動き、獲物を狩るタイプではなくて、エサの興味を惹くモノを使って、獲物を誘いこみ殺すタイプで食虫植物にやや似ているだろうか?
 具体的に言うと、エサは人間、人間エサが興味を惹くモノは魔石だ。

 魔石は魔道具のエネルギーとして使われている。魔道具は人々の生活にすっかり入り込んでいて、いまや切っても切れない存在になっている。
 その魔石を魔石を創り出せるのはダンジョンだけで、他の方法は発見されていない。
 数多の錬金術師が一攫千金を目論んで、魔石を創り出す研究をしてきたが、わたしを含め、誰も成功したことはない。

 ダンジョンはまず体内に魔物を生み出す。
 ここで生まれた魔物が、魔石の保有者でもあり、人間エサを殺す殺人者キラーでもある。
 人間は魔石を得るためにダンジョンに入り、魔物を狩る。
 失敗すれば命を失い、ダンジョンのエサとなる。

 さきに述べた通り、ダンジョンは己が成長するために、常に人間エサを誘っている。しかしそれでも人間エサが来なければ、ダンジョンは枯れる寸前の植物のような状態をみせることが解っている。
 例えばまものが多くなるし、大きな実つよいまもの生るあらわれるのだ。
 封鎖したってことは、人が入っていかないということで、中にいる魔物はいまもどんどんと強化されていっている。
 だからアタオカ。


 そういう側面もあって、この旅は急ぐ必要があった。

 さてダンジョンまでは馬で二日だ。馬車だと二倍で四日。お値段は馬三頭よりも馬車一台の方が高く、こちらも二倍。
 普段なら遅くて高いってなんでや!? と叫ぶところだが、今回すべての支払いは侯爵持ちなので何の問題もない。

「ご主人ー、馬を借りてきましたよ」
「ねえ、なんで馬なん?」
「速いからですね」
「でもさー乗り心地は馬車の方がいいじゃん」
「なに言ってるんです。ダンジョンを封鎖しているんですよ。早くいかないと大変なことになるでしょう」

 そういう側面もあって……、急ぎの……
 くそう、馬車の中で踏ん反り返って寝たかったなー


 なぜここまでしてわたしが出向かなければならないのか?
 冒頭のこともあるが、もっと単純にして明快なことで、無垢な胞子が毒性を帯びる期限は二日、そして街まで馬で二日。つまりどう採取しようが、わたしの元へ届く頃にはタイムリミットを超えているからだ。

 護衛は縁故採用でセリィ。費用はもちろん侯爵持ち!
 完璧縁故だけど、彼女は護衛だけではなく案内も兼ねている。
 日帰り専のセリィが、馬で二日も掛かるダンジョンの場所をなぜ知っているのかと言えば、彼女が馬より速いから。
 ふふん。わたし謹製のオートマタだもん、馬で二日なんて余裕で日帰りですよ!

 と、まぁ自慢はひとまず置いておく。
 素直にセリィが応じてくれたのは、ご主人さまわたしが心配、ノンノン。
 彼女が心配しているのはマーシャの方だろう。
 お仕事中は接点がないけれど、半年も一緒に暮らしていれば普通は仲良くなる。さらに共通の話題でもあれば、より親密度アップだ。

 よくあるパターンだと、共通の敵を創り出して叩くと仲間意識が生まれやすいってのがある。学校の先生なんかがいい例で、悪口を言うと途端に仲良くなるもんだ。

 今回の場合はわたし・・・だ。
 だからわたしは今日も聞こえないフリをする。

 寝室くらい掃除しろ?
 あーあー聞こえないー
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

夜遊び大好きショタ皇子は転生者。乙女ゲームでの出番はまだまだ先なのでレベル上げに精を出します

ma-no
ファンタジー
【カクヨムだけ何故か八千人もお気に入りされている作品w】  ブラック企業で働いていた松田圭吾(32)は、プラットホームで意識を失いそのまま線路に落ちて電車に……  気付いたら乙女ゲームの第二皇子に転生していたけど、この第二皇子は乙女ゲームでは、ストーリーの中盤に出て来る新キャラだ。  ただ、ヒロインとゴールインさえすれば皇帝になれるキャラなのだから、主人公はその時に対応できるように力を蓄える。  かのように見えたが、昼は仮病で引きこもり、夜は城を出て遊んでばっかり……  いったい主人公は何がしたいんでしょうか…… ☆アルファポリス、小説家になろう、カクヨムで連載中です。  一日置きに更新中です。

下級兵士は断罪された追放令嬢を護送する。

やすぴこ
ファンタジー
「ジョセフィーヌ!! 貴様を断罪する!!」  王立学園で行われたプロムナード開催式の場で、公爵令嬢ジョセフィーヌは婚約者から婚約破棄と共に数々の罪を断罪される。  愛していた者からの慈悲無き宣告、親しかった者からの嫌悪、信じていた者からの侮蔑。  弁解の機会も与えられず、その場で悪名高い国外れの修道院送りが決定した。  このお話はそんな事情で王都を追放された悪役令嬢の素性を知らぬまま、修道院まで護送する下級兵士の恋物語である。 この度なろう、アルファ、カクヨムで同時完結しました。 (なろう版だけ諸事情で18話と19話が一本となっておりますが、内容は同じです) 2/7 最終章 外伝『旅する母のラプソディ』を投稿する為、完結解除しました。 2/9 『旅する母のラプソディ』完結しました。アルファポリスオンリーの外伝を近日中にアップします。

~前世の知識を持つ少女、サーラの料理譚~

あおいろ
ファンタジー
 その少女の名前はサーラ。前世の記憶を持っている。    今から百年近くも昔の事だ。家族の様に親しい使用人達や子供達との、楽しい日々と美味しい料理の思い出だった。  月日は遥か遠く流れて過ぎさり、ー  現代も果てない困難が待ち受けるものの、ー  彼らの思い出の続きは、人知れずに紡がれていく。

死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~

未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。 待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。 シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。 アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。 死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...