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16:追っかけ
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森を出てそろそろ半年、季節は春から秋に変わっていた。
「たのもーですわ」
ある陽気な秋の昼下がり。かれこれ一〇分ほど前から、ドンドンと激しく玄関のドアが叩かれていた。
ドアの隣には呼び鈴があるのに、どうしてドアを叩くのか。
手、痛くない?
「たのもーですわ」
居留守とは、一度決めたら初志貫徹。
決して覆してはならない行為である。だからわたしは気配を殺してやり過ごす。しかし一〇分は長い。
お客さんも初志貫徹ですか?
「居るのは判っているのです。さっさと出てくるのですわ!」
さて借家の玄関にある呼び鈴だが、実は呼び鈴に偽装したカメラ付きインターホンを再現した魔道具である。
勝手に変えた。
で、最初にチラッと覗いたので判る。
知らない人です。
だからわたしは頑なに居留守を使う。
そっちが諦めない限り、わたしは決して諦めないだろう。キリッ!
「あのぉどちら様ですか? うちに何か用?」
そう。いまはある陽気な季節の昼下がり。
お仕事からセリィが帰って来ちゃったー
我が家のリビングに場所を移す。
セリィに呼ばれたわたしは、さもいま起きたとばかりに欠伸を噛み殺しながら、彼女と相対した。
微妙な目で睨まれるが、ここで気まずさを覚えてはいけない。
わたしはいま起きたんだ。だから来客には気づかなかった。いいね?
「こほん。わたくしはマーシャ。
マーシャ=フォン=ルソバですわ」
年齢は十三~四あたりか。
身なりの良い、金髪ドリルツインテの少女が、薄い胸を張って踏ん反り返るかのような姿勢で自己紹介をした。
テンプレ貴族令嬢の鏡かしら?
「初めましてわたしはリューです。
こっちはセリィね」
「それだけ!? わたくしはマーシャ=フォン=ルソバですのよ!?」
しらんがな。
有名な人なのかとセリィに視線を送るが、彼女も知らないと首を振った。
「ごめん知らないわ」
「くっ……
仕方がありません。知らないのならば大変不本意ですが教えて差し上げましょう」
不本意なら言わなきゃいいのにな~とも思うが、これ以上居座られる方が迷惑なので、さっさとお引き取り願うためにも大人しく拝聴しよう。
「我がルソバ家は、『創造の魔女』の愛弟子『森林』を冠する血統の一族ですわ!」
「ほお」
「反応が薄いですわね……」
反応に不満なら、どう反応して欲しかったのか模範解答を事前に提示して頂きたい。
大体だね。『森林』とやらは『創造の魔女』の弟子でしょ?
わたしの推測によると『創造の魔女』は、わたしの弟子にひとりだけ居た女の子だ。しかし長い眠りにつく寸前の【転移の門】騒ぎの時、彼女にはまだ弟子はいなかった。
間柄は孫弟子でも顔どころか存在も知らない子だ。
そんなのに特別な感情はないし、ましてや約三〇〇年も経ったいま、そんなのただの他人やん。
「その『森林』の末裔の方が、うちに何の用事でしょうか?」
「あなた『始まりの魔女』の再来と呼ばれているのですってね! いい気にならないことね! あなたでは『始まりの魔女』を超えることは不可能ですのよ!」
「そうですね」
「ええ? そんなあっさり認めて良いんですの……?」
「うん」
自分で自分を抜くのは不可能だもん。当然でしょ。
もちろんここで『昨日の自分を抜く』なんて詭弁はいらない。
「そ、そうですか。じゃ、じゃあわたくしがあなたに代わって『始まりの魔女』を抜いて差し上げますわ!」
ああ、そう言う……
なぜ『創造の魔女』系列のこの子が、『始まりの魔女』を推すのかは知らんけど。たぶん『始まりの魔女』に対して目標とか憧れといった感情を抱いていて、わたしがそれに近しいという噂を聞いて悔しかったのだろう。
おっそう思うと、案外カワイイかも。
「頑張ってね。応援するよ」
「あなた、いま応援すると言いましたか?」
「うん言ったけど?」
「ふふん言質を取りましたわよ。
あなたにはわたくしを導く名誉を与えて差し上げますわ!」
「あ、そう言うの、間に合ってまーす」
弟子入り志願はいりません。
さっさと追い返そうとしたのだがセリィに止められた。
「ご主人の応対は普段から冷たすぎます。相手は年端もいかない子供です。断るにしてももう少しオブラートに包んで話してください」
普段からって……、ここぞとばかりにわたしを刺すのは止めようか。
しぶしぶ話を聞く。
マーシャの所属は錬金ギルド。『始まりの魔女』マニアの彼女ゆえ、『始まりの魔女』が興した歴史ある錬金ギルドを特別視しているっぽい。
今回わたしの所に来たのは、ライバル宣言が半分、もう半分は弟子になること。わたしは『導く=教えを乞う=弟子』だと思うのだが、彼女はことさら『導く』を強調していて『弟子』は否定している。
「第一問、『始まりの魔女』が活動していた時代はいつ?」
「と、突然なんですの?」
「いつ?」
「むっ! そんなの簡単ですわ。七百年前から八百年前ですわ」
「正解。
第二問、錬金ギルドができた時代はいつ?」
「えっと四百年前と聞いていますわ」
「たぶん正解」
「た、たぶん!?」
「第三問、四百年前『始まりの魔女』は活動していない。ほんとかウソか?」
「『始まりの魔女』の噂は七百年前に突然消えます。従って活動の記録はありません。
つまり……本当ですわ!」
「第四問、そんな『始まりの魔女』が錬金ギルドを造れると思う?」
真実に気づいた彼女は、貴族っぽさをかなぐり捨ててギャン泣きした。
「ご主人、そういうところですにゃー」
問題形式にしたのに心外だ。
「たのもーですわ」
ある陽気な秋の昼下がり。かれこれ一〇分ほど前から、ドンドンと激しく玄関のドアが叩かれていた。
ドアの隣には呼び鈴があるのに、どうしてドアを叩くのか。
手、痛くない?
「たのもーですわ」
居留守とは、一度決めたら初志貫徹。
決して覆してはならない行為である。だからわたしは気配を殺してやり過ごす。しかし一〇分は長い。
お客さんも初志貫徹ですか?
「居るのは判っているのです。さっさと出てくるのですわ!」
さて借家の玄関にある呼び鈴だが、実は呼び鈴に偽装したカメラ付きインターホンを再現した魔道具である。
勝手に変えた。
で、最初にチラッと覗いたので判る。
知らない人です。
だからわたしは頑なに居留守を使う。
そっちが諦めない限り、わたしは決して諦めないだろう。キリッ!
「あのぉどちら様ですか? うちに何か用?」
そう。いまはある陽気な季節の昼下がり。
お仕事からセリィが帰って来ちゃったー
我が家のリビングに場所を移す。
セリィに呼ばれたわたしは、さもいま起きたとばかりに欠伸を噛み殺しながら、彼女と相対した。
微妙な目で睨まれるが、ここで気まずさを覚えてはいけない。
わたしはいま起きたんだ。だから来客には気づかなかった。いいね?
「こほん。わたくしはマーシャ。
マーシャ=フォン=ルソバですわ」
年齢は十三~四あたりか。
身なりの良い、金髪ドリルツインテの少女が、薄い胸を張って踏ん反り返るかのような姿勢で自己紹介をした。
テンプレ貴族令嬢の鏡かしら?
「初めましてわたしはリューです。
こっちはセリィね」
「それだけ!? わたくしはマーシャ=フォン=ルソバですのよ!?」
しらんがな。
有名な人なのかとセリィに視線を送るが、彼女も知らないと首を振った。
「ごめん知らないわ」
「くっ……
仕方がありません。知らないのならば大変不本意ですが教えて差し上げましょう」
不本意なら言わなきゃいいのにな~とも思うが、これ以上居座られる方が迷惑なので、さっさとお引き取り願うためにも大人しく拝聴しよう。
「我がルソバ家は、『創造の魔女』の愛弟子『森林』を冠する血統の一族ですわ!」
「ほお」
「反応が薄いですわね……」
反応に不満なら、どう反応して欲しかったのか模範解答を事前に提示して頂きたい。
大体だね。『森林』とやらは『創造の魔女』の弟子でしょ?
わたしの推測によると『創造の魔女』は、わたしの弟子にひとりだけ居た女の子だ。しかし長い眠りにつく寸前の【転移の門】騒ぎの時、彼女にはまだ弟子はいなかった。
間柄は孫弟子でも顔どころか存在も知らない子だ。
そんなのに特別な感情はないし、ましてや約三〇〇年も経ったいま、そんなのただの他人やん。
「その『森林』の末裔の方が、うちに何の用事でしょうか?」
「あなた『始まりの魔女』の再来と呼ばれているのですってね! いい気にならないことね! あなたでは『始まりの魔女』を超えることは不可能ですのよ!」
「そうですね」
「ええ? そんなあっさり認めて良いんですの……?」
「うん」
自分で自分を抜くのは不可能だもん。当然でしょ。
もちろんここで『昨日の自分を抜く』なんて詭弁はいらない。
「そ、そうですか。じゃ、じゃあわたくしがあなたに代わって『始まりの魔女』を抜いて差し上げますわ!」
ああ、そう言う……
なぜ『創造の魔女』系列のこの子が、『始まりの魔女』を推すのかは知らんけど。たぶん『始まりの魔女』に対して目標とか憧れといった感情を抱いていて、わたしがそれに近しいという噂を聞いて悔しかったのだろう。
おっそう思うと、案外カワイイかも。
「頑張ってね。応援するよ」
「あなた、いま応援すると言いましたか?」
「うん言ったけど?」
「ふふん言質を取りましたわよ。
あなたにはわたくしを導く名誉を与えて差し上げますわ!」
「あ、そう言うの、間に合ってまーす」
弟子入り志願はいりません。
さっさと追い返そうとしたのだがセリィに止められた。
「ご主人の応対は普段から冷たすぎます。相手は年端もいかない子供です。断るにしてももう少しオブラートに包んで話してください」
普段からって……、ここぞとばかりにわたしを刺すのは止めようか。
しぶしぶ話を聞く。
マーシャの所属は錬金ギルド。『始まりの魔女』マニアの彼女ゆえ、『始まりの魔女』が興した歴史ある錬金ギルドを特別視しているっぽい。
今回わたしの所に来たのは、ライバル宣言が半分、もう半分は弟子になること。わたしは『導く=教えを乞う=弟子』だと思うのだが、彼女はことさら『導く』を強調していて『弟子』は否定している。
「第一問、『始まりの魔女』が活動していた時代はいつ?」
「と、突然なんですの?」
「いつ?」
「むっ! そんなの簡単ですわ。七百年前から八百年前ですわ」
「正解。
第二問、錬金ギルドができた時代はいつ?」
「えっと四百年前と聞いていますわ」
「たぶん正解」
「た、たぶん!?」
「第三問、四百年前『始まりの魔女』は活動していない。ほんとかウソか?」
「『始まりの魔女』の噂は七百年前に突然消えます。従って活動の記録はありません。
つまり……本当ですわ!」
「第四問、そんな『始まりの魔女』が錬金ギルドを造れると思う?」
真実に気づいた彼女は、貴族っぽさをかなぐり捨ててギャン泣きした。
「ご主人、そういうところですにゃー」
問題形式にしたのに心外だ。
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