下っ端から始まる創造神

夏菜しの

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13:叱られる

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 交流会から戻ると四姉さまがいた。
 転移先間違えたかなと、座標を確認したが間違いなくわたしの部屋だった。いくら姉でも留守中に入るのは止めて欲しい。
 外出のため刻は止めているが、管理中の世界だってあるんだもん。

「おかえり。依頼していーい?」
「構いませんがいま予約が詰まってるんで引き渡しは少し後になりますよ」
「それじゃダメなの。最優先でやって」
 いつもの事だが、今日は特に我儘だ。

「分かりました。簡単なやつなら優先しますけど、でも難しいのはどうしても厳しいですよ」
 だって難しいんだもん。創るのに時間掛かるのは当然でしょ。
「権能は問わないから戦いに使える【機能】をお願い」
 なんでもいいからくれって意味だ、いつもなら依頼内容はもう少し細かい。
 これは焦っている?
「時に大姉さま、下三位交流会と同じく、下二位交流会って言うのもあるんですか?」
 四姉さまはぶすっとした表情を見せた。

 あるんだ。
 急ぐ理由もたぶんそれ。神性の発現は『無』が半数。『大』ならほぼ大半だろう。仮に前回の逆として三〇人中持ってないのが五人。うーん肩身が狭そう。

「案があれば早いです。何かありませんか?
 もしくは戦以外でも良いですが、月の権能に関するアイデアをください」
 〝戦〟の事はいったん忘れて、四姉さまとアイデア出しを繰り返した。


 そしてやってきましたのがこちら!
 目の前には筋肉粒々の褐色肌でポージングを決める兄貴がいる。いろんな意味で威圧感満載の智神の部屋だ。

「今日は」(ポージングが変わった)
「どうした?」(ポージングが変わって白い歯を見せてニィと笑う)

「【機能】を創ってみましたので評価をお聞きしたく」
「良いだろう」(ポージングが変わった)
「『月』の熱い想いを俺に見せてみろ!」(ポージングが変わった)

 一つ目、夜限定で召喚できる死者の軍勢。以前四姉さまに依頼された品。
 二つ目、月光で創られた剣。四姉さま案。
 三つ目、死者と会話できる魔法。わたし案。
 四つ目、日喰にっしょくの狼。わたし案。

 ポージングしたまましかつめらしい顔に変わった。
 ほんとうに夢に見そうだからやめて欲しい。
「三つ目まではありがちだが、四つ目はなんだ? 俺に喧嘩を売っているのか?」
「滅相もない。この狼は月の眷属です。常に太陽を憎み喰らおうとしますが、終焉の際はおのれを喰らいます」
「相変わらず聖属性持ちとは到底思えん発想だな。おまえ大丈夫か?」
 失礼な。三つ目なんて思い出の人と再び出会える、まさに聖と死が程よく混じった素敵な術式でしょうに。
 しかし面と向かってそんなことを言える度胸はないので笑顔で流します。

「ご安心ください、わたしは『月』。聖属性だってお手の物です」
「まあいいか。して、俺に何を望むのだ?」
「太陽ある限り明けない夜はありません。欲しいのは〝必然〟の【機能】です」
「それはお前の利には成らなさそうだが?」
「迷惑を押し付けてくる面倒な姉ですが、わたしには一人くらい必要なんです」
 兄貴は差し出した【機能】に満足してくれたのではなく、きっと答えの方に満足してくれたのだろう。望む【機能】を創ってくれた。

 持ち帰った【機能】はそのまま四姉さまへ。
 解析して参考にしようと思ったけど即断念。手に持ったその瞬間にわたしでは解析不能ってことだけ理解したのだ。
 さすがは智神あにき、次元が違い過ぎる。







 己の世界の管理としつつ【機能】を創っていると二姉さまが転移してきた。
 驚きはしない。わたしの実力も上がったし、より上の兄貴と一姉さまの転移を経験したお陰で二姉さまの転移も予期できるようになったのだ。
「いらっしゃいませ。今日はどうしました?」
「要件は二つ、まずは『権』のところへ行くよっ!」
 言うが早いか二姉さまが消えた。
 なぜか一緒に転移はして貰えず、自力で移動することに。

「来たわね『月』」
 ここに呼んだ二姉さまと家主の三姉さまは当然として、四姉さまともう一人、見知らぬ薄緑の髪の女神が待っていた。
 見知らぬ……本当に?
 二度見したがやっぱり知らない。あの凶悪な胸部装甲なら忘れるわけがない。あとなんだろう、四姉さまに違和感が……う~んまあいいか。
 それにしてもこのメンツでどうして二姉さまが伝言係なのだろう。知らない薄緑は除外したとしても、四姉さまが来るべきじゃない?
 まさか三姉さまが二姉さまを顎で使ったとでもいうのだろうか。
 あれ……四姉さまだよね。なんか違和感が……

「第九位『月』参上しましたが何でしょう?」
「一姉さまがいらっしゃるから待ちなさい」
 え?
 一姉さまがここに? 凄っ! 一姉さまをお招きできるなんて! うわぁうちにも来てくれないかなー
 いや来たな。そして兄貴のところへ拉致されたっけ。

 言ってる間に威圧感が転移してきた。
 薄緑の女神から「ひっ」と短い悲鳴が漏れた。それを聞いてわたしも慣れたなと思ったのは内緒。
 二姉さまを先頭にわたしまで、一姉さまに挨拶をした。薄緑の女神は威圧され中なのかフリーズ状態だ。

「『月』」
「はい」
「智兄さまに【機能】を貰いましたね」
「はい。四姉さまに上げました」
 聞かれていないことを先に言う。そして責任を転嫁する。
 キラーパスを貰った四姉さまがめっちゃ睨んでくるがあなたは共犯です。一緒に叱られましょう。

「確認したところ太陽の権能で創られた〝必然〟の【機能】でした。これを『大』に譲ったことで何が起きるのか、理解していましたか?」
 必然を求めて必然じゃなかったら驚いただろうけど、兄貴はちゃんと約束を守ってくれたらしい。
 ありがとうございます兄貴。
「憶測ですが、〝戦〟に〝必然〟が付くと〝勝利〟になるのではないでしょうか」
 安直だけど戦えば必ず勝つのならば勝利かなーと。次案は〝運〟か〝正義〟だったけど、使う前に決まってくれたのは、さすが智神の【機能】というべきか。

「ええその通り、『大』の神性は〝勝利〟に確定したわ」
 良かった叱られることはなさそう。
 だけど分かった。さっきの違和感の正体はこれだ。『勝利』になったからわたしの時と同じく、姿が神性に引っ張られているのだ。つまりこの姿は見納めかぁ。

「あら安心するのはまだ早いわよ。
 次は彼女の事を話しましょうか」
 一姉さまに視られ、薄緑の女神が「ひゃっ」と悲鳴を上げた。

 と言われても、誰これ? なんだけど。
 わたしに薄緑の髪を持つ友達はいない。他ならいるのかというデリカシーのない質問をする奴には死の権能でプレゼントを創ってあげよう。

「彼女は『豊穣』、下三位であなたの同僚よ」
「『豊穣』?」
 思い出すのは黄色交じりの無ちゃん。『草』ゲットして『豊穣』とかどーよと言ったような。しかし彼女の胸はこんなバインバインじゃあなかった。むしろ土に引っ張られて大平原だったような……?

「あの時貰った『月』の助言のお陰で、あたし『豊穣』になれたよー!
 ありがとね!」
 お礼で頭を下げると何がとは言わないがばるるんと揺れた。
 こ、これが豊穣の力!?
 そう言えば『大地』は『豊穣』の上位互換、三姉さま……は、あれ? 普通だな。
「あなたね……言いたいことは判るけど、わたくしに失礼よ」

 三姉さまからそっと視線を反らす。
「えーと助言したのは不味かったですか?」
「今回はウチが管理している枝の先だからま~だマシだったけどね。
 あんまり他の派閥の神に的確な助言しちゃ~駄目だよっ」
 的確ダメ、助言するにしてもぼかせ。了解です二姉さま。

 そしてやっぱり居たんですね、枝。
 枝というのは要するに眷属のことだ。直接管理している三姉さまと違って、あちらには名前だけ貸して自由にやらせているらしい。ここで二姉さまとブツリと切れているから、彼女は『座』なんて会ったことが無かったと、なるほどね。

 そして今回、わたしがやらかして、複合の神性を得てしまったことで配置換えとなり、黄色交じりの無ちゃん改め『豊穣』ちゃんは三姉さまの管轄に変わったらしい。
 階位順ならわたしと同じく四姉さまの下になるはずなのだが、三姉さまは豊穣を含む『大地』の神性持ち。今回は豊穣ちゃんのためにそのようにしたそうな。

 それにしても前に疑問に思った、一姉さまが複合を集めているというのが現実味帯びてきた。直接声掛けされる者は、選ばれたエリートなのだろうか。
 わたしも優秀ってことでいいんだよね?
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