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狼さんのお嫁さん

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「それは…早急に調査が必要だな。」

 震える僕にすぐに気がついてしっぽが腰に回る。

「まずは婚姻を結んで、国王に報告。そしてヒカルちゃんには結界を張って貰って…隣国の事を思うと頭が痛いわ。」

「…シュロが行くの?」

「調査は他の奴らがやるだろうが…もしも本当にそんな事が起きていたら救出するのは地の騎士団が妥当だな。戦は避けたいが。その前にヒカルを家族に紹介したいのだが…良いだろうか?」

「それはもちろん。つがいになりますって言う…んだよね?こんな、いきなりで反対されない?」

 シュロとつがいになれるのは嬉しいけど普通に考えて王族と異世界から急に来た得体の知れない男で良いのだろうか。

「当たり前だろう。番を目の前にしたらどんな身分であっても関係ない。俺はただの狼獣人だ。それにヒカルと出会って、直ぐに報告したからな。ヒトだと番だと理解されにくいから、絶対に仕留めろと応援されたぞ?」

「そっか、ありがとう。えと、いつ行くの?」

 その間の子ども食堂はどうすれば良いのだろう。なるべくお休みはしたくないのだけれど。

「早めに行きたいと思っているが…」

「はいはい、私が飛ばしてあげるわよ。でも、きっとヒカルちゃんも転移出来るわよ。」

「転移…え!転移ってワープ?えぇ!」

「流石に王城までは無理だけどね。怒られちゃうからやっちゃだめよ?王都の前の街まで転移したらそこから少しかかるわ。だからチッチちゃんと私はここでお留守番してるわ。」

「…え?いや、でもチッチは連れて行きます。」

「今回の事はまだどうなるかわからないし、チッチちゃんはここにいた方が良いわ。それに…」

 それに?

「あなた達ここでまぐわえるの?」

「まぐっ、え?」

「……ココ。」

「ほほほ!つがいになるなら二人きりの方が良いんじゃないかしら?ヒカルちゃんは気にしないタイプ?」

 それは、気にするに決まってるけど。でもチッチを置いていくのは違うと思う。あと、やり方とかわからないけど…シュロはわかる?僕の表情に気がついたのか、ココさんはふわりと笑う。

「チッチちゃんに一緒に行くか聞いてみなさいな。あの子は思っているよりしっかりしているわ。」

 それはわかるけど。チッチは3つだけど、この世界の子どもたちは発育も良いし独り立ちもはやいのはもう知っている。でもなぁ、日本での常識が邪魔をするのだ。







 とりあえずチッチが起きるまではこの話は保留として、ココさんと魔法の練習。神様が全属性使えると言っていたけどそれは本当で、今まで使っていた生活魔法以外にも使える事がわかった。うーん…フィーリングって凄い。攻撃魔法はあんまりらしいけれど。

「攻撃する時は倒すと強く思わないとだめよぉ。」

「強く。」

「ぶっ殺してやるぜ!くらいじゃないとね?」

「なるほど。」

 ぐぬぬと強く願って魔法を放つけど…へろへろと飛んで消えていく炎の弾。

「大丈夫だ。俺が守るからな。」

 よしよしと頭を撫でられて思わずシュロの手をがしり。格好良く魔法を使いたかったけど…争い事は苦手だったから良かったのかもしれない。

「ヒカルは騎士ではないのだから戦わなくて良い。守りと逃げに徹するんだ。」

「……ん。」

「魔法は結界だけってちゃんと報告しておくから安心しなさい。これで攻撃魔法も得意だったら大変だったわ。」

「うぅ、はい。」

 蔓で拘束は出来たから、何かあった時に逃げるのはたぶん大丈夫。結界もあるし、きっとチッチや子どもたちは守れるはず。

 2杯めのお茶を淹れているとムニムニと両目を擦りながらチッチが歩いてくる。

「おはよぉございます…」

 はぁ、もふもふおててでお顔くしくし…可愛過ぎる。

「チッチちゃんもお茶とクッキーどうかしら?」

「たべます!」

 チッチの分は小さめのマグカップに注いで差し出せば両手で握ってふーふー。ひと口のんで落ち着いたチッチに先程の事を話せば、はいっ!と手をあげてお返事。

「チッチねぇ、おるすばんしてるねぇっ!」

「え、お留守番するの?でも直ぐには帰ってこれないし…一緒に行かない?」

「うーん、おばあちゃんもカイくんもいるしね、あのね、おかしゃんもかえってくるかもしれないから!」

「そっか。じゃあ、なるべくはやく帰るからね。」

「ゆっくりでいいよぉ!おかしゃんがね、いっしょだといっしょにしぬかもしれないけど、まってたらいっしょにたすかるかもしれないって!いつも言ってました!」

 お母さんが仕事に行く時はそう言い聞かせていたのだろうか。
 無理矢理連れて行ったら守りきれないかもしれないけど、待っていてくれたら無事に帰れるかもしれない。うん、そうだよね。わざわざ連れ出さない方が良い。そうしたら拉致されたかもしれない獣人さんの調査もお手伝い出来るかもしれない。

「ココさん、チッチをお願い出来ますか?」

「えぇ、勿論よ。チッチちゃんと子ども食堂はなるべく開けるようにするわね。お勉強は魔術で良いかしら。ほほほ、楽しみだわぁ。」

「作り置き沢山しておきます。」

「あらぁ、それは嬉しいわ。一緒に作りましょうね。」

「チッチも!チッチもおてつだいします!」

 椅子の上で嬉しそうに揺れるチッチを抱き上げてむぎゅり。

「ひゃあ!おにーちゃんすはすは!だめぇ!」

「吸っておかないと…吸い貯めしなきゃ…くふっ!」

 顔にかかるフカフカなしっぽ。

「…俺のことも吸って良い。」

 あー、もー、可愛過ぎる…

 モフモフたちに囲まれて幸せだ。




 その後、婚姻関係は早急にとの事で役所のようなところへ。証人はココさん。

「本当に挨拶前に良いのかな?」

「良いのよう。未婚でこんなに可愛くて結界が張れるだなんて、拐かしてくれと言っているようなものだもの。陛下もそれを心配されていたわ。」

「何かあってからでは遅いからな、ヒカルが良ければ頷いて欲しい。これからもずっと共に生きていきたい。」

 唐突なプロポーズのような言葉にドギマギ。
 チッチとココさんに見守られながら頷いて、婚姻を結ぶ。
 異世界に転移して、狼さんの伴侶となりました。

「おにーちゃんはだんちょーさんのおよめさんだね!」

「お嫁さん…そっか。そっかあ。」

 異世界に転移して、狼さんのお嫁さんになりました。

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